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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第1部第一章:天使と悪魔と美少女

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21.諸事情により、改装工事中です。後編


 目の前には屈強そうな現場で働く兄ちゃんたちが4人ほどいる。そんなお客様相手に、何故池谷が接客をしなければならなかったのか。それはもちろん、入江先輩の愛のムチ。俺も新人の時はわざとそういう客に注文を取りに行かされたものだ。別に取って食われるわけじゃない。色々と我慢しさえすれば乗り越えられる仕事なのだ。しかし先輩、今回は世間知らなさすぎで、男を見下すのが生きがいな偽お嬢様だったんです。こうなればみんなで店長の左遷を……いや、転職祝いをしましょう。


「――胸が何ですって? わたくし、下等な輩の言葉は耳に入ってきませんの」

「俺らが下等? なかなか根性が居座ってやがんな!」

「ええ、わたくしの取り柄の一つでもありますわ」

 ハラハラドキドキ……どうか破壊活動を起こしませんように。特にさよりが。


「「いくら残念過ぎる綺麗な姉ちゃんでもよー、胸が無いもんは無いんだから諦めろや! 残念な事実を認めるこった。まぁ、どうしても成長したかったら、凄く残念な姉ちゃんと付き合ってあげてもいいぜ!」」

 うおっ! なんちゅうことを大声で言っちゃってるの! しかも残念を3回も! さすが命知らずなおとこたち。


「「ぶ、ぶっころ――!」」

「駄目ッ! 池谷さん、他のお客様もいるのにそれは言っては駄目!」

 入江先輩が出て行っても野生化したさよりは止まらないだろうな。サービス業にあるまじき言葉を放つ寸前だし、どうあがいてもやはり現ファミレスは消えることだろう。だが、入江先輩に何かあったら男がすたる。なるべく関わらずに黙って見学するつもりだったが、隣近所だし同級生だし、他称友達だから俺が止めましょう。それでもファミレスと店長の運命は抗えないことをお許してください。さて、行くとしようか。


「ちょっと、池谷さ――」

「入江先輩! 下がって! あいつは俺が何とかします。だから、先輩と副店長と同僚たちは身の回りの整理と貴重品を手にして、店外へ避難をよろしくです!」

「えっ? というか、本当に高洲君なの……? そ、その背中を見ているだけで何だかドキドキするんだけど、それにどうして君の声を聞くだけで、体から力が抜けてしまうのかな。高洲君、あの……無理はしないでね。そ、それと、明日学園で会いたいから……だから、ケガだけはしないでね」

「もちろんです。俺は誰もケガなんかさせるつもりは無いんで。だからまたここで、新たなファミレスで会いましょう! それじゃあ、先輩。俺、やってきます」

「――高洲君」

 セリフだけ聞いてると、まるで何かの映画でサブキャラが良く言い放つような死亡フラグに聞こえなくも無いが、その前にここはファミレスだからね。そして敵の見た目だけは清楚で、弱々しく見えなくもない。いくらさよりが野生化して黄金の猿に変化したとしても、屈強な現場の漢たちには敵うわけがない。あまりやりたくはなかったが、俺がさよりを止めて見せる。そしてその後は、記憶がどこかへ飛ぶかもしれないがそれでもさよりを止めねばならないのだ!


「「さよりっ!」」

「ああ? 一体何の用でここに来やがっ――きゃっ! ちょ、ちょっと、湊。お、おろ、下ろしてよ。ねえってば! だ、駄目……わたしに触れないで! 触れたら赤ちゃんが……」

「駄目だ。このままお前を抱きかかえて外に連れ出す。そうでなければお前は取り返しがつかなくなる。それと、そのネタはもう飽きた。とにかく暴れるなよ、さより」

「や、やめっ……」

 早まったか? だがこれしかあの場からコイツを移動させる手段が思い浮かばなかった。策が成功したのかは分からないが、兄ちゃんたちは呆気にとられて唖然としているようだ。すかさず店長がペコペコと頭を下げているところを見ると、やはり危機感は持っていたらしい。店長の最後の雄姿、お見事でしたよ。


「んーむ……それにしてもお前、軽いな。見た目通りだ。全てが板のように細いぞ。もう少し俺が求めている基準まで肉を……」

 あっとぉ! ついついいつもの調子で話してしまった。抱きかかえた状態で空中飛び膝蹴りでも食らわせられたら、俺は複雑すぎる体になってしまうかもな。そう思ってたが随分と大人しいぞ。もしや、さよりは力をためている? 会心の一撃、いや、クリティカルヒットでも食らわすつもりが?


「み、湊ぉ……あ、あの、手……手が胸に当たっている……わ。いい加減その手を――」

「えっ? 胸に当たっていた? どこに胸があるって?」

「さっきからずっと触れているのだけれど……」

「腰に手を回して抱っこしてんのに、胸なんかに手が触れているわけがないだろう? さっきから感じている感触は真っ平すぎる背中なんだが……?」

「――へぇ。そういうことか……湊、わたしを地面に下ろして欲しいんだけど」

「お、そうか。じゃあ、地面に気を付けて足を着けろよ」

 いくら裏口で人の通りが少ないからといっても、さすがに恥ずかしい思いをさせちまったようだ。俺の手をするりと抜けながら、さよりは暴れることなく素直に地面に着地をした。 


「……ねえ湊くん。わたし足が痛い。腫れているかもしれないから近づいて見てくれないかなぁ?」

 おっ! 久しぶりに幼馴染風なさよりが降臨したか? やればできる子じゃないか。これなら胸がアレでも、俺の心が多少はざわざわするかもしれないというのに。


「いいですとも! どの足?」

「ふくらはぎの辺り……んーん、膝の辺りかなぁ。もっと近づいて見て欲しいの……」

「分かった。では遠慮なく間近で拝ませてもらおう」

 ふむ。さすが足のパーツだけ見ても、美少女の資格保持者に相応しいぞ。白すぎる肌に、スベスベとした肌触り。まぁ、今は触れてもいないが。しかし仮にどこか腫れているのだとしたら、俺がさすさすしてあげなくもないな。どこのスケベ親父ですか?


 俺は何度目ですか? くらいの油断をしていた。幼馴染風なさよりと、甘えた声で敢えて俺に足を見せつけてきたあたり、何かを企んでいたのだと何故俺は気づかなかったのか。さよりの射程圏内に入ったらしい俺は、完全に意表を突かれてしまう。


「って、さよりさん? 何で後ろを向くのかな? もしや今度は背中をさすってとか言いだしたり?」

「湊」

「うん?」

「乳牛牧場に逝って来いや! ボケ! アホ! いじわる……ふんっ!」

 おっふ。何やら「ドスッ」とか、「ボケナスッ」とか鈍い音が俺の腹にクリーンヒットしましたよ? これが、さよりの回し蹴り……ぐふっ。


「――湊。わたしに触れたのはあなたが初めてなんだから、責任取ってもらうわ」

「――」

「おーい、高洲君。生きてるかい?」

「……んーむ、地平線が続いていますよ? はっ? ここは?」

「気付いたね。俺は副店長だよ。高洲君、お手柄だったね。君の機転でお店は無傷だよ。だけど、残念だよ」

「いや、残念と言うのは危険です!」

「あぁ、ごめん。えーとね、高洲君を含めて他のみんなに知らせがあるんだ」

 分かります。アレのことですね。


「ファミレスが名のある某チェーンに買われちゃったんだ。だから、悪いんだけどしばらくは改装工事に入ることになったよ。僕もそうだけど、高洲君も入江さんもしばらく休みだよ。ごめんね」

「て、店長! 店長はどうなったんですか? (どこかに飛んだかな?)」

「あぁ……うん。責任者は責任を取らないとダメだったんだ。だから、彼は綺麗すぎるマネージャーと一緒に、ハネムーンへ行ってしまったんだ。今度からは、僕もホールに入って店長は女性になるみたいだ」

「ハネムーン? 綺麗すぎるマネージャー? いくつくらいの人ですか?」

「店長は30代後半だったけど、綺麗すぎるマネージャーは60代だね。彼の幸せを祈ろう」

「そ、そうですね。祈ります」

 綺麗すぎるマネージャーか。見てみたかったな。それにしても俺は何をしていたんだったかな。思い出せないけど、明日からは学生生活に専念することになるのか。バイトに行けない分、モブじゃない人でも見つけて話でもしてみるとするか。まずは少なすぎる友達を一人でも追加していきたいものだな。

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