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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第6章:見えない何かからの逃避

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206.ボクっ娘とダブり女王の対峙 後編


「決まってますよ! 俺は嵐花を信じてますから」

「……ふふっ、だよな!」


 答えに迷うことなどあるわけがない、そう思ったらすぐに返事を返していた。


 分かりきっていたらしい嵐花は、優雨が言ったことは無意味だと言わんばかりの表情を見せている。


「あぁぁ……湊くんがぁ~ダブり女王という名の権力チートに屈しているなんて……」

「権力チートって……それは優雨だけが言っていることだろ?」

「違~~う! 湊くんはこの学校のことに、関心が無いからそういうことを言うんだよ! 高校の名前の由来を知らないよね? ねえ?」


 そういえば転校して来てから数か月が経っているにも関わらず、学校の名前を知らないままだ。


 誰かに聞くことも無ければ、教えてくれる人もいなかった。


「ちっ……みなとに教えるつもりは無かったのに、余計なことを」

「え? 嵐花?」

「学校名を聞いたところで意味は無いし、だからといってあたしは、学校のことに口出しはしていない。あたしは恐怖で支配する奴等とは違うんだ」


 もしかして鮫浜のことを言っているのだろうか。


「で、学校名は何だよ、優雨」

「本人を前にして言うのは変な感じだけど、言いかけるのも嫌だから教えちゃうよ~! ここは、『栢森ヶ丘高校』って言うんだよ~」


 栢森ヶ丘(かやもりがおか)……栢森というと、嵐花の名字だ。まさか、創設者レベル!?


 俺やさよりが通っていた東上学園は鮫浜が支配していたとはいえ、学園の名前は鮫浜というわけでも無かった。

 

 それなのにまさかの創設者とか、権力チート以上じゃないか。


「創ったのはあたしじゃないぞ、みなと」

「で、ですよね」

「隠すつもりでもなかったけどよ、言う事でもなかっただけだ。第一、学校に関係していたってあたしはダブっているぜ? なぁ、みなと!」

「確かに……学校の関係者でダブってるのは……恥ずかしいですね」

「あ?」

「い、いえいえいえ……」


 どうやら鮫浜とは全然違うみたいだ。


 嵐花が何かをしていたとしても、俺には嫌なことは起きていないし監視をしているわけでもない。


「湊くん、本気でダブり女王と……だ、駄目だよ、そんなの~! 蒼ちゃんもいるし、ボクもいるっていうのにさ!」

「みちるにしてもお前にしても、そういうのにはならないって何度も言っているぞ? 本当にしつこい奴だな」

「あ! こうしちゃいられない! 蒼ちゃんにも教えてあげないと~! 湊くんはこれ以上、浮気したら駄目なんだぞ。じゃあね~~!」

「誰に対しての浮気なんだよ! ったく、うるさい奴め」


 かき乱すだけ乱して、結局やかましいだけの女だった。


『――みなと』


 嵐花には言っていなかったし、言うほどでもないと思っていたみちるの存在を、知られてしまった。


「学校のことは言うほどでもないと思っていたし、知ったとして態度を変えるような奴じゃないってのは信じていた。だけどみなと……お前、池谷とルリがいながら、さらに女がいやがったな?」

「ひ、ひぃっ!? ち、ちちち……違いますよ~! 彼女とかじゃないし、友達とかでもなくてですね……」


 何でこうなるんだろう……やはり優雨を放置していたのがまずかったのか。


「ち、人が増えて来やがった。学食は落ち着かないな」


 遅れて来た俺と授業を抜け出した嵐花と一緒に学食に来た時は、まだ授業が終わっていなかったけど、さすがに時間の流れで、ぞろぞろと購買列を作り出していた。


「俺は慣れてますんで、ここでもいいですけど……」

「あたしは静かな所で食べたい。みなとの話をじっくりと聞けるだろうしな。なぁ?」

「そ、それは……」


 完全にお怒りのようだ。


 学校名のことはすでにスルーされて、俺の女関係について突き詰めるつもりがあるみたいだ。

 

 こういう時こその護衛で姿を見せてくれればいいのに、浅海の気配は全く感じられない。それどころか下手をすれば、浅海との関係にも疑いを向けられそうで怖い。


「とにかく移動するからな! ほら、あたしの手を離すんじゃねえぞ!」

「は、はい」


 学食から移動しようとした時点で、嵐花は俺の手を掴んだまま、廊下を歩き出していた。


 繋いでいた手を離さずに、ただひたすらに廊下を歩いているだけなのに、その注目度は半端なく、しかも昼休み時間の最中なので、かなりの視線を浴びまくっている。


 こういうことがあるから学食は避けるべきだったのかもしれないが、隠し通路があるわけでもないので、とにかく嵐花に連れられながら歩くしかないようだ。


「ど、どこへ行くんですか?」

「……帰る」

「えええ!? い、いや、俺、遅刻して来て教室に行ってないので、またサボリ扱いになるのはまずいっす!」

「なら、みなとは当分、あたしの屋敷にいればいい! あたしがお前をかくまって閉じ込めて――」

「え、閉じ込め……?」


 何かのトラウマが発動しそうなんだが、まさかあんな広すぎる屋敷に、閉じ込めるつもりがあるのだろうか。


「お前はあたしのモンだから、いいだろ?」

「え、いや……」


 そのセリフもかなり前に、元カノさんから聞いたことがあるセリフで、トラウマものだったりする。


 こんな時に真面目に、誰か邪魔をしに来てくれないものなのか。


『あ、あなた! 湊! 一体今までどこでサボ……』


 さよりですか、そうですか。


 俺と嵐花の前に立ち塞がったのは、俺のことを探しまくっていたのか、息を切らせて額にほんのり汗を光らせたさよりだった。


「池谷があたしとみなとに何の用がある?」

「よ、用事ならありますわ! わたくしはこう見えて、湊の彼女ですもの! たとえ栢森先輩といえども、彼氏を好き勝手に連れ回されては、わたくしの立場がありませんわ」

「生意気言うじゃねえか。池谷ごときが……」

「そ、そうですわ! わたくしは池谷いけがやに恥じぬ行動を取っているに過ぎませんわ! そこの背中……湊は、わたくしにとっても大切な人ですの。湊をわたくしに返して頂きますわ!」


 さよりのくせに、珍しく強気な発言をしているが大丈夫なのだろうか。


 どう見ても相手が悪すぎるし、よく見なくても全身が震えているように見える。


 女王と偽令嬢では勝ち目がなさそうだ。


「決めたことを曲げるのは、あたし自身に矛盾しそうだな。しょうがねえな……みなとは、池谷に返してやるよ。あたしの代わりに、みなとにはたっぷり説教をしてやれ! 学校をサボって、他の女と会っていたみたいだからな!」


 またしても厄介なことを吹き込んだ!?


「な、何ですって!? 他の女……湊、あなた……」

「お、落ち着け」

「ふふっ、池谷に後は任せるとしましょう。あたしのみなと、また後でね?」

「はい……」


 いつものおとこ言葉から、令嬢言葉に変わった嵐花に口答えをしてはいけない……そう思えた。


 権力チートが去って、駄々っ子お嬢様に交代とか、もしかして今日もサボることになるのか。

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