205.ボクっ娘とダブり女王の対峙 前編
当初はみちるの買い出しを理由に体調不良として、学校を休むことにしていた。
しかし商店近くで鮫浜と出会ってしまったことで、話の流れ上、結局学校へは遅れて行くことになってしまった。
俺とみちるは、それぞれ自宅に戻ってから行くということでそこで別れた。
「ただいま。はぁ……疲れた」
「あら、湊おかえり。帰って来ないと思っていたけど、さよりちゃんと何かあった?」
「何で母さんは、さよりとそういうことになっているって決めつけるんだよ」
「昨日は学校をさぼってのデートだったんでしょ? 嬉しそうに話していたし」
「学校から何か連絡来た? ってか、さよりと連絡取ってんのかよ」
「さよりちゃん綺麗でいい子だし、よく話をしているだけ。学校からは特に何も聞いてないけど?」
「ならいいや。今から遅れて学校行くから」
「はいはい~」
家の中でくつろいでいた母さんは、俺を特に怒りもしないのでそこは良かったのだが、さよりと連絡しているとか、隣の家と仲を深め過ぎだ。
自分の部屋に戻るのは久しぶりな気がして思わず部屋の中を見回すと、何故か違和感を感じたが、とりあえず気にしないで家を出ることにした。
『おいみなと! あたしを放っておいて遅刻して来るとは、いいご身分じゃねえか!』
学校に着くと昼休み手前の時間だったので、昼休みを知らせるチャイム音を待って見つからないように廊下で待機していたのに、何故か嵐花にばれた。
「げっ!? な、何で廊下に……」
「そりゃあ、あたしだって花を摘みに行くぜ? そしたら悪そうな表情をしながら、歩いている舎弟を見つけたってわけだ! 昨日のことはルリから聞いてるぜ。でも今日はどうした?」
「大したことじゃないですよ」
「遅刻しといて偉そうなことを言ってんじゃねえ! あたしに隠し事はやめろって教えたはずだぞ」
「いや、嵐花が遅刻のことを言うのは……」
「ほぅ……? 随分生意気になったじゃねえか。そういう奴にはお仕置きだ!」
そんなことを言いながら羽交い絞めして来る嵐花は、何故か嬉しそうにしていて、俺もそのまま反抗することなく、技にかかっていた。
「い、いたたた……嵐花、当たってますって!」
「嬉しいだろ? お前、あたしのことが好きだもんなぁ」
「そ、そりゃあそうですけど……教室に行かせてくださいよ!」
「否定しなくなったか! あたしの教育が効いてきたな」
「な、何のことです?」
「い~や、別に。今から教室に行ったところで、すぐに昼休みになっちまうぜ。みなとはこのまま、あたしと移動だ」
「えええ!?」
遅刻して来ただけに偉そうなことが言えないとはいえ、教室に入ることなく嵐花に連れて行かれると、またしてもサボり認定になってしまいそうだ。
「ど、どこへ?」
「あん? 昼っていったら学食だろ? それともあたしと保健室にでも行くつもりがあったか?」
「な、何で保健室に……」
「何だ、あたしと一緒にいたいんじゃねえのか……」
「あ、いやっ!」
「……まぁいい、学食だ! 行くぞ、みなと」
駄目と分かっていても、やはり嵐花のペースに巻き込まれている自分がいるのは何故なのか。
それでも嫌とも言えず、そのまま連れて行かれても不安に思わないのは、彼女が俺にとって特別な存在だからなのかは分からないままだ。
「学食にはよく来んのか?」
「それなりですよ」
「それは野郎同士でか? それとも他の女……ふふ、あたしが知らないだけで、みなとの周りは女の気配ばかりっぽいな」
「そんなことは……」
言い訳するつもりはなかったが、嵐花と学食に来たのは何気に初めてのような気がする。
それなのにそういう時に限って、空気を全く読まない奴が大声を出しながら、駆け寄って来た。
『おーーい! 湊くーーーん!!』
何で嵐花がいる時に、優雨が近付いて来るのか。
しかもまだ学食に人が多くない所に来ただけに、声が物凄く響いてやかましいレベルだ。
「何だぁ? うるさい野郎が……いや、女か? アレもみなとの知り合いか?」
「い、一応……」
「ちっ……」
「ひっ!」
せっかく嵐花の機嫌がいい状態で学食に来たのに、それはないだろ。
「湊くーん、ボクとお昼食べようよ! 蒼ちゃんとの話も聞きたーい!」
「あ、バカッ……!」
「あ? 蒼ちゃんだぁ? おい、みなと。お前が遅刻して来たのって、ソイツといたからか?」
「い、いえ、そ、そういうことでは無くてですね……」
「蒼ちゃん、遅れて来たけど嬉しそうにしてたぞー! 何だよ~ボクも呼んでくれれば良かったのに!」
おいおいおい! 何を暴露してくれちゃってるの、このボクっ娘は!
「優雨、お前空気読めよ! 今俺が一緒にいるのはお前じゃなくて、この人なんだぞ?」
「あーー!! ま、まさか、ダブりの先輩!? 湊くんが女王に従っているって本当だったんだ! うわ……だからボクのことを邪険にしていたんだ」
「は? 女王?」
「だーかーらー! ダブりの女王なんだってば! 権力で何でも支配する――」
「――っるせえ、黙りやがれ! そこのオトコ女!」
「ボ、ボクは女だー! じょ、女王だからって、何でもかんでも思いのままにするなんて、どうかしてるぞ」
そんな異名があったことも今の今まで知らずにいたけど、前からいる優雨は、俺の知らない嵐花の姿を知っているらしい。
権力支配というと思い出すのは、鮫浜のことばかりだ。だけどこの学校で出会った嵐花は、鮫浜に負けない程の権力を持っているような気さえする。
それを目の当たりにしたのが、さよりとルリの交際指示なわけだが。それに嵐花に鮫浜のことを話しても、まるで歯牙にもかけていなかった。
嵐花の教育の意味もよく分かっていないけど、女王の意味が想像よりも悪かったら、それこそ優雨の言っていることの方が正しいことになる。
「ら、嵐花?」
「……みなと、お前はあたしを信じるよな?」
「――え」




