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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第5章:湊とカノジョの交際編

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196.困っていた黒そうな人に親切してみた


「さぁ、湊! わたくしのあなた! お父様の会社に急ぐわよ!」

「待て、何だそりゃあ……何で急に親父さんに会わなきゃダメなんだよ?」

「あなたはわたくしの男! か、彼氏なのよ? 今会わないでいつ会うの!?」

「少なくとも今では無いな。会社に行くっていうのが意味不明なんだが……」


 完全なる彼氏彼女な関係ではないのに、ここで下手に社畜の親父さんに挨拶に行ってしまうと、ただでさえ家族ぐるみでの付き合いがあるのに、確定してしまう恐れがある。


「俺は行かないからな?」

「ど、どうしてなの!?」

「ルール違反だ! 忘れたのか? 俺とさよりは嵐花に言われての交際だぞ。その状態で親に会うのは反則だろ!」

「――そ、そうだったわ。そうよね……そう……湊からは一言も言われていないわ」

「何がだ?」

「ううん、あなたが気付いていないのであれば、気にする必要なんてないの。その一言がもらえる関係こそが、本物と呼べるはずですもの!」


 何やら訳の分からないことを呟くさよりだが、その表情は明らかにどんよりと曇っている。


 何かまずいことでも言ったのかなんて、聞けるはずもないが、親父さんに会いに行くのを回避出来たのは助かった。


「湊、わたしあそこのコンビニで飲み物を買って来るわね! 特別にわたくしがご馳走してあげるわ!」

「お、おぉ……サンキュな。何でもいいぞ」

「彼氏の好みは把握済みだわ! い、行って来るわね」

「ここで待ってるから、迷子になるなよ?」

「し、失礼なことを言わないでよ!」


 さよりにしては珍しく庶民的なことを言ってきたが、何となく気まずい空気でも感じたのかもしれない。


 コンビニと言っていたが、そこそこ歩いて行かないといけない距離にあって、今いる場所は人通りが激しい広い通りなので、迷子になる率は高いといえる。


 浮間の野郎はあっさりといなくなり、目に見つかることもなさそうなので黙って待つことにした。


 しかしいくら距離があるといっても、往復で30分かかるような場所ではない。


 それなのに、さよりはいつまで経っても戻って来ない。なんだかんだで飲み物をどうするべきか、相当悩んでいると思われる。


「そこの君!」


 人が行き交う道で、名前を言われたわけでもない時に、呼び止められて反応を示すのはどれくらいいるものなのか。


 それもそれほど叫んでいるわけでもない声量で。


「そこの背中の男! こっちに気づきなさい!」


 そうか、俺ですね分かります。


「……すみません、気付かなくて。俺に何の用ですか……って――」

「ああ、いや、この端末はどうすれば動くか聞いても? どうかしたかな?」

「いえ……」


 一人だけで悩んでいる人かと思っていたら、離れたところで、俺とこのおっさんを監視している黒そうな人がちらほら見えるんだが。


 おっさんの見た感じは、初老といったところ。


 怖そうな感じでもなく、身なりはきちんとしているようだ。しかし、明らかに黒そうな予感はある。


「なるほど、字が小さくて見えないと思っていたが、指で調整が出来るのだな……この手のことをあの子に聞くのはどうかと思っていて聞けなかったが、背中の君に聞けて良かった」

「それはどうもです……」

「恩人ということになるし、名前を聞いておこう」


 おっさんはともかく、黒そうな人たちに守られている人に対して、素直に名前を教えるべきかどうか。


「あぁ、こちらから名乗るのが筋だな。名刺を渡すべきなのだろうが、君は学生だろう?」

「あ、はい」

「ならば、名刺を貰っても困るかもしれんな。私は鮫浜さめはま卯休うきゅう

「さ、鮫浜……!?」

「何か知っていそうだが、正体は端末の使い方を知らないただの男に過ぎんよ。君は?」


 鮫浜と名乗って、しかもいい年したおっさんという時点で、まさかこのおっさんが……


「お、俺は……あの、高洲――」

『もう~~! 湊! 動かないでって言ったのに! どうして場所を……あら?」


 危険を呼び、危険の中に飛び込んでいく女の登場か。


「キミは池谷の……」

「え、あ……も、もしかして、鮫浜さまですか?」

「ふふ、そうか。久しく見かけていなかったが、君が池谷の娘か……そうすると、この彼が……そうか」


 とてつもなく嫌な予感しかしないんだが、さよりのことは知っていて当然か。


 俺と出会う前に交流があったとも聞いているし。


「あ、あの、鮫浜さま……彼とはどうして?」

「親切にされただけだよ。何もない」

「そ、そうですか」

「あなたは、今……彼と?」

「え……いや、あの」


 正直に答えてもおかしくなるし、隠してもどうなるものでもないが……どうするべきか。


 さよりもどう答えていいのか分からずに、俺の方を見ようにも見られないみたいだ。


「……失礼するとしよう。背中の湊君、親切にありがとう」

「いえ」

「……いずれ」


 寒気が止まらないのはどうしてなのか。


 特に何を言われたわけでもないし、何かを語ったわけでもない。


「鮫浜さま! あのっ……」

「池谷によろしく」

「は、はい」


 さよりが来た辺りから、空気感が変わった気がしたが、特に何も起きないまま鮫浜と名乗ったおっさんは、取り巻きに守られながら漆黒過ぎる車に乗っていなくなった。


「さ、さより……アレはもしかしなくても、そうなのか?」

「湊、あの、こ、ここを今すぐに離れましょ……」

「分かった」


 やはり学園の界隈に戻って来ると、予測出来ないことになる。


 両親はいないと聞かされていたし、姿すらも見かけたことも無かっただけに、あのおっさんがそうだったなんて今でも信じられない。


「湊のお家に上がらせて?」

「――分かった」

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