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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第1部第一章:天使と悪魔と美少女

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19.黒ですか? いいえ、白です。……何が?


「おい、高洲~! 目が死んでんぞ。じゃなくて、呼んでんぞ」

「死んでねえよ! ってか、目が何の用だって?」

「さぁな。俺は呼べって頼まれただけだ。さっさと行った方がいんじゃね?」

「そうかよ。じゃあ行くしかねえのか」


 俺の家でさよりと鮫浜が敵同士と認めあってから数日が経った。あの日、鮫浜が料理した不明な肉を全て平らげたさよりは、大人しくなるまで狂暴だったものの、何とか通常の大人しさに戻ることが出来た。


 気付いた途端に悲鳴を上げ、泣きながら自分の家に戻って行ったさよりは、どうやら俺の家に入ってしまったことで、何かの妄想が起動したらしい。


「ケ、ケダモノにやられてしまうわ!」

「いや、ケダモノって……」

「いやアァぁぁ!」

「お、おい、勘違いしたまま帰るな!」


 そんなこともあったが、その後鮫浜も家を訪れてくることは無くなり、バイトのまかないにより夕飯の問題は片付いた。


 ちなみに現時点では、採用されたさよりがシフトには上がってきていないことを確認済み。このまま自然消滅を祈る日々だ。


 日常である学園生活も主に二つの視線を感じるが、どちらもそう気軽に話しかけてくるタイプでもないので、俺は特に行動を起こさなかった。


 ただし相変わらず朝の登校時は一定の距離で、さよりが背中を追いかけて来ていた。帰りに関しては、バイトに直行することがほとんどなので、鮫浜が追走してくることは無かった。


 そういう意味では、さよりのライバル宣言から目立った動きは消えたような気さえしている。そこに来て目からの呼び出し。(サガン)は一応は担任の先生であり、指導する立場な人。


 なかなかにナイスガイだから呼び出されても、嫌な感じはしなかった。放課後ということもあり、気は楽だった。


「お、高洲、来たか」

「来ましたよ」

「ふぅむ……じー……高洲がねぇ。まぁ、体つきは悪くないよな」

「はっ? まさか先生はソッチ側ですか?」

「どっちでもないぞ。まぁ、立ち話もなんだからそこに座れ」

「はぁ」


 何だ? 俺のことをジロジロと見つめまくって来たから、ソッチ側なのかと少しだけ冷や汗を掻いたぞ。


「高洲は黒なのか? それとも白なのか?」

「は? それをここでカミングアウトしろと? いくら先生でもそれは個人の趣向であって、お答えするわけには行きませんよ? まぁ、あえて言うなら白ですかね」

「マジなんだな?」

「そうですね、白がいいです。で、何の話です?」

「もちろん、下着の話じゃないことは確かだ。お前には黒いウワサが立っている。それが何だか分かるか?」

「さっぱりですね」


 何となく、黒と言ったら鮫浜のことだろうと予想していた。闇過ぎて白には戻れないだろうとさえ思えたからだ。彼女の下着も黒を好んでそうだなとも思った。これは俺だけの予想である。


「それはな、高洲には転校してきた池谷さよりを妊娠させ、さらにはすでに子供までいるというウワサが広まっている。もちろん、お前がそんなことをする奴じゃないのは先生が一番知っている。非モテには苦しみの方が強いしな」


「いや先生? 非モテ関係なくね?」


「それと、目撃というか、その会話を聞いていた奴が言っていたんだ。そいつから主に男連中に広まっていったらしいが……覚えは無いのか? というよりその事実は無いんだろ?」


「俺が池谷さよりを妊娠ですか? 世界が破滅してもあり得ませんが。他称友達であって、俺はアレのことは言葉を話す空気くらいにしか思ってないです。ウワサの出どころはどこの野郎ですか?」


「それはさすがに言えんが、モブ男子じゃないことは確かだな。広めたのはモブだが」


 先生もその他大勢をモブって言うのかよ。厳しい世の中だ。


 ウワサというより、そもそもさよりが妊娠とかを叫んでいたのは、確か俺がさよりの口を押さえつけた時に騒いでいたあの場面だけのはずだ。


 つまり勝手な妄想と、残念な知識を叫ばれたに過ぎない。だがあそこにいた野郎なら一人だけいる。もしかしたらすでにモブ化して、名前も姿もぼやける恐れはあるが、名前を呼べばモブから復活して視認出来るかもしれない。


 そいつについては後でいいとして、ウワサということはすでにクラスの連中は知っているはず。その時点でとてつもなく恐ろしいことが起きると断言できる……。


「で、俺はどうすればいいのですか?」

「色々言われるかもしれないが、高洲は沈黙を保て。お前には最強の武器と盾があるんだ。それがある限り、少なくとも女子からは中傷は受けないだろう」


 武器と盾まで有名ですか。そうですか、泣いていいですか?


「要するに75日くらい大人しくしてろと?」


「そういうことだ。高洲がそんな冒険できる奴ではないことを知っているからな。それにお前には、八十島がいる。いくら美少女が好きでも、妊娠させるとかそんなことはあり得んだろう」


「いや、八十島浅海とは普通のお友達ですよ?」


 普通で合っているはず。綺麗だしイケメンだし、時々むさぼりたくなるような色気のある唇に吸い込まれそうにもなるが、至って普通の関係で合っていると信じたい。


「言わなくても理解している。まぁ、黒でも白でもどっちでもいいんだが、転校生がまた来たとしても手を出さないって誓えるか?」


「俺からは出しませんよ。ただしB以上なら分かりかねます」

「ん? B?」


「いえいえ、何でもないです。また自称美少女でも来る予定が?」


「来る予定だ。お前も春から見ていて分かるだろ? 季節ごとに転校生を受け入れていると。とにかく、その頃にはウワサなんて消え去っているはずだ。だとしても転校生に手を出せば、その度に名前が広まるかもしれないから、気を付けろよ?」


「まぁ、気を付けておきますよ。どのみち、ウワサを広めたモブハーフ(半分モブ)は闇が裁いてくれると思うんで」


 これは俺の密かな期待だ。鮫浜はさよりに宣戦布告を受けたからな。そのさよりを妊娠させる俺のことを呪うよりも、まずはウワサを広めた奴に何かしらの罰を下すだろう。


 そんな時だけ期待してしまう。教室に戻ると、放課後ということもあってしつこく残っている奴は少なかった。だが、鮫浜は何故か席に残っていて、俺が戻って来たことに気づくとすぐに立ち上がって、究極の笑顔で微笑んできた。なにそれ怖い。


「目に呼ばれた? 何て?」

「いや、黒なのか、白なのかって聞かれた」

「見る?」

「ん? 何を?」


 気づくのが遅すぎたが、池谷と違って人前での行動力は、周りの空気に関係なくやらかしてしまう子だということをすっかりと忘れていた。


「今日は黒を穿いてきた。好き?」

「ちょいまてぇい! ここは教室だからね? いくら読めなくてもそれはあかんやつや」

「白の方が良かった?」

「いや……まぁ、その――そういうのは好きな男に見せた方がいいと思うんだ。俺には色々眩しすぎて眼が潰れるかもしれんし」

「じゃあ暗い所で――」

「遠慮します。これ以上闇に落ちていくのは避けたい。それと、好きじゃないなら駄目だぞ。俺じゃない男に見せなさい」

「……分かった。高洲君には見せない。今は」

「そ、それが賢明だ。ん、今は?」


 分かってくれたようだ。池谷と違って、ちっさくて思わず頭を撫でたくなる鮫浜だが、それをすれば後戻り出来ない気がしてならない。


 偽お嬢様よりも小柄な彼女。少なくとも笑顔は色んな意味を含めて本物だし、妙な色気もあるし、危険な何かが潜んでいるのは間違いない。


 その根拠は俺以外の男が鮫浜に何度か声をかけているのを目撃したことがあるからだ。もちろん彼女は無反応だった。


「今日もバイト?」


「あぁ、平日は毎日だよ。寂しいのか?」


 などと俺らしくないキザったらしいセリフを吐いてみた。もちろん、教室には誰もいない。


「寂しくないよ……いつも近くにいるし、いつも見ているから……」

「お、おぉ。だ、だよな。は、はは……」


「それと、さよちゃんとのことなら、高洲君は心配しなくても大丈夫。大丈夫だから」


「へ? 池谷とのことが何だって?」


「高洲君を陥れる奴はもうすぐ消えるから……大丈夫――」


 もしやウワサのことを言っておられる? いや、マジで怖いよこの子! そして消えるって何? 


 頼むから黒い霧か何かで、モブハーフな彼を消し去りませんように。

いくつか修正加筆しました。

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