188.さよりさん、妄想するSS⑤
「俺はさよりが好きだ」
「わ、わたしも、湊のことが好――」
「だが待ってくれ!」
「え、ど、どういうことなの?」
「だけどごめん、好きだけど付き合えない。俺はあゆを選んだ。だから、ごめん……ごめんな、さより」
「そ、そんな……どうして、どうしてなの――」
何度も何度も悪夢となってうなされて来た毎日。
どうして好きって言われて、直後に振られなければならないの?
キスもしてくれて、添い寝もして、慰めてくれながら優しくわたしを抱きしめてくれた湊が!
これは夢! そう、悪夢に決まっているんだわ!
ファミレスで出会った時は、あんな背中イケメンなんかに惚れるとかあり得ないと思っていた。
出会って、出会いまくって……どうして優しくしてくれるの?
言葉遣いを悪くして、強くして、お父様の会社にいたどれもこれも偽物だらけの男と同じだと思っていた男が、どうして優しいの?
「キモイことを言うなんて想像以上すぎて雑草が辺り一面から生えてきそうなのだけれど、生えてくる前にキモさをどこかへ消してくれると助かるわね」
なんてことを言ってきたわたしなのに、湊はずっと優しくて……浅海さんとのことも許してくれた。
優しい、優しい男の子……背中も素敵。
声もよくよく聞けば、自然と腰がくだけて行く……
もうわたしは、一人の男の子だけでいい。
お父様が苦労して築き上げた、一般家庭からの格上げ。
「わ、わたくしは池谷さよりですわ。令嬢であって、庶民などではありませんわ」
「あーはいはい、さよりはさよりだろ?」
「ム、ムカつくわ! で、でも……」
得体のしれない鮫浜と一緒にいたわたしは、本当に困っていた。
上手く話が出来なかったら、どうなるのかしら……あぁ、こんな時にあそこの背中に何かを言えば……
「そこの背中! ちょっといいかしら?」
「何ですか?」
「ふふん、ドリンクバーをくださる? それと、イケメンを一人」
「あー残念だ。残念すぎる……」
こんなやり取りだったのに、どうしてこんなにも好きになってしまったの?
好きになってしまったのは止められないわ。
だって好きだもの。
それなのに……
「栢森嵐花です。池谷さよりさんは、そこにいる高洲湊と交際をしなさい!」
「えっ!?」
なんてことなの!?
告白したでもなく、されたでもない。
あゆと別れた湊は、ずっとわたしを適当に扱って来て、それでも相手をしてくれて。
あゆとはもう会わないのだから、地道に湊と心を近づけて行ければいいって思っていたのに。
「あぁ、そこのルリも湊の彼女ですから」
「な、なんてこと……どうして?」
鮫浜と同等、もしくはそれ以上の栢森家。
栢森家主催のパーティーに呼ばれた池谷家、わたしはお話を聞きに行っただけだった。
それなのに、そこには湊がいて、彼女もいて……それなのに、どうしてわたしも彼女なの?
湊と交際するのは、もう一度きちんとお互いが好きを確かめ合って、見つめ合って……そのままの状況で、正式にお付き合いを――なんて思っていたのに。
「まぁ、そういうことだ。よろしく、さより」
「え、ええ……」
こんなよく分からない人に指図されて、それで交際、彼女だなんてそんなのは嫌。
嫌なのに、明日はとうとう彼女としての初日が始まるというのね。
それでもどうせ、湊のことだからいつもと変わらないに決まっているわ。
彼女はもう一人いるのだし、計画的な彼女だなんて、どうせ湊も……
きゃぅぅん! ど、どういうこと……これは、夢?
湊に肩を抱かれていて、命令されているなんて、もう駄目。
これが何かの企みだとしても、やっぱりわたしはこの人だけしか……




