182.令嬢による候補の為の教育 B-5
「ふふっ……池谷家の令嬢も来ていただけたことですし、これで役者が揃ったとも言えるわね」
「え? 嵐花? 役者ってどういう……」
やはりさよりも、何かしらの教えに参加させるつもりで呼ばれたらしい。
「と、ところで、湊。あなたにくっついて離れない女の子は、どこの子かしら?」
「この子はルリだ」
「ルリ……?」
「池谷さよりさま……ルリは湖上家のルリなの。湊はルリの彼氏なの」
「か、かかかか……」
「どこか痒いのか? 落ち着け。そして暴れるなよ?」
「か、彼氏……!? あ、あなたはおいくつなの?」
「ルリは15歳なの」
まぁ、年齢はともかく姫と同じ学年なのは確かだし、いくらさよりでも礼儀くらいは持っているはずだ。
「湊ごときが彼氏だなんて、そ、そんなの危険だわ。湖上さん、あなた今すぐ湊と別れた方が身のためだと思うわ。下民よ? 下々の世界で生きている男なのよ? 駄目よ、あなたのような女の子がこんな男と……」
ひどいことを言う奴だが、どうせ最後に言うことは決まっている。
「湊はしょうがない奴ではあるけれど、育てる余地はあるの。だからわたくしがもらい受けて……」
「ルリの彼氏なの! あなたに渡すつもりはないの!」
「なっ!? なんてこと……」
構図としては、ソファで俺とルリが密着して座っていて、さよりと嵐花は俺たちを見ている。
嵐花は今にも笑いを吹き出しそうにして、耐えているようだ。
やはりさよりのことは承知の上で招待したらしい。
「みなと! あたしの元へ来い!」
「は、はい、今すぐ!」
さよりとルリの前でも野郎言葉解禁とか、どういうことなのか。
「それで、池谷さよりと湖上ルリは、二人、横に並びな!」
「は、はい、お姉さま」
「わ、分かりましたわ」
俺と嵐花、さよりとルリで互いに対面する形になってしまった。
一体何を始めるつもりなのだろうか。
「ルリの彼氏は、ここにいるみなとだ。そうだろ、ルリ?」
「は、はいっ」
「池谷さより、あんたの彼氏は?」
「わ、わたくしには彼氏なんていませんわ……」
「それじゃあ、あんたの彼氏は今日から湊だ! 湊でいいだろ?」
「えええっ!? み、湊がわたくしの彼氏に!? こ、こういうのは気持ちの問題というものが……」
「嫌なのか? だったら、他の野郎を……」
「み、湊で問題ありませんわ! あ、あら? で、でも……湊は双子だったかしら?」
まさかさよりと同じ考えに至ってしまうとは、これは内緒にしておこう。
しかし確かにおかしな話だ。
嵐花は俺とルリを交際させると言ったはず。
それなのに二人目の彼女というか、二股をさせるつもりがあるのか?
「これは栢森家からのテストだ。池谷と湖上、二人でみなとの心を奪って見せな! ルリ、そして池谷がみなとに相応しい相手かどうかを、あたしが見極めてやる」
「な、何てことなの……こ、こんな形で湊と付き合うことになるだなんて……」
「お、お姉さま……あ、あの、交際は一人だけなの。二人だとそれは浮気になるの」
ルリの言う通りだと思う。
付き合う相手は、よほどの鬼畜野郎じゃない限りは、一人だけが普通だ。
それがまさかの同時交際とか、これはいったい何を企んでいるのか。
「おっと、交際はしてもいいがキスは許さねえからな。せいぜい、手を繋ぐ程度にしとけ」
「これはどういうつもりがあるのかしら? いくら栢森の指示と言っても、あんまりだわ! し、しかも、すでにルリさんが湊の相手なのでしょう? そこにわたくしが加わるのはおかしな話よ!」
「……池谷さより。あんた、湊のことが好きだろう?」
「なっ!? 何をおっしゃって……」
「悪いが、いさきさまから聞いているぜ。しかもいいところまで進んだことがあるらしいじゃねえか!」
「はうぅ……」
ここにさよりを呼んだってことは、当然のことだがいさきさんから頼まれてのことか。
「ルリとさより……あんたも付き合ったことがねえだろ? だが、みなとはあるよな?」
「はぁ、まぁ……」
「ふふっ、だろ?」
俺のことも調査済みらしい。
「二人でみなとを本気で好きになって、みなとの心を動かしてみな!」
「お、お姉さま! そ、その期間はいつまで?」
「期限があるのかしら?」
「……秋までだ。秋のパーティーまでに、みなとの口から答えを聞き出してみな! もしみなとが本気にならなかったら、諦めてもらう」
あれ、俺の意思はどこへ?
などと首を傾げていたら、嵐花の腕が俺の首を抱きしめていて、耳元でささやいてきた。
「みなとの気になる奴はこの二人じゃねえもんな。なぁ?」
「……う」
「ふふ……みなとが本気になるんなら応援するし、そうじゃねえなら……」
「いや、それは」
さよりにとっては強制交際に近いが、いつまでも友達関係を続けていても、俺の気持ちがどうなるか分からないというのがあっただけに、俺にもさよりにもいい機会なのかもしれない。
もちろんこれはルリにも言えることで、単なるままごとの延長で付き合うのなら、転校する意味はない。
しかし学年違いとはいえ、同時に交際とか間違いなく、鮫島の奴には鬼畜と呼ばれてしまうだろう。
「それじゃあ聞くぞ! ルリとさより、二人の返事は?」
「お、お姉さまのお言葉通りに致します」
「湊と交際するなんて、望むところよ!」
「よし、決まりだな! あたしは栢森の名において、交際の行方を見届けることとする。詳しいルールは明日以降に伝える。そういうわけだから、ルリと池谷さよりはこのまま解散だ」
おや? 交際させます宣言しておきながら、二人は帰らせるのか。
「な、何故です? お姉さま!」
「わ、わたくし、まだ来たばかりですわ?」
「つべこべ言うようなら取り消すけれど、よろしいのかしら?」
「「か、帰りますの!」」
――よく分からない迫力があったらしく、さよりとルリは慌てて栢森家から退出して行ってしまった。
嵐花は一体どういうつもりなんだ。
「さて、みなと。風呂に入るぞ!」
「ふぁっ!?」
「そう驚くなよ。いい加減慣れろ! あたしの裸も見てるだろうが!」
あの二人をけしかけておきながら、嵐花は俺とどうなるつもりがあるのか。
「みなと、ここから三日間はあたしと二人きりだ。嬉しいだろ?」
「あれ、五日間じゃなかったでしたっけ?」
「気が変わった。お前の為にやることが増えたからな……ふふ」
「やること……?」
「ほら、行くぞ、みなと」




