178.令嬢による候補の為の教育 B-1
ロリッ子と手を繋ぎながら栢森邸宅に入ると、ルリと名乗った女の子はすぐに手を離し、トタトタと走って、どこかへいなくなってしまった。
商店街で買った商品は、なんてことはない飲料水ばかりを大量に買い込んだだけだったが、ペットボトル類を屋敷の中では見たことが無かったので、多分俺の為なのかもしれないと思うとにやけてしまう。
「みなと~! 昨日は楽しんだか?」
「へ?」
「昨日はアレだろ? 同じクラスの美少女ねえちゃんと遊びまくったんだよな?」
「ど、どうなんですかね~はは……」
「そういや、ルリは可愛かったか?」
「可愛いですね。あの子は中学生くらいですか?」
「だな。15歳だったはずだ。あぁ、でも春から西下高校に通い始めているな」
西下高校? どこかで聞いた気がするけど、高校生上がりたてだったのか。
それにしては幼い。幼いけど、オムネさんはすでに完成形なだけに、将来が楽しみな女の子でもある。
「それで、今日からの教育って何です? ルリちゃんも加わるとかじゃないですよね?」
「何だ、聞いたのか?」
「いえ、特に聞いてないですよ。でも、俺がいいとか何とか言ってました」
「今回はあたしじゃなくて、ルリの為にみなとにも頑張ってもらおうと思ってる。もちろん、最後にはあたしがもらうけどな!」
「よ、よく分からないですけど、最後には嵐花にいいことが起こる感じに?」
「そうだな! あたしもみなとも、成長しないといけねえからな! ルリにもいいはずだ」
「は、はぁ……」
相変わらず要点すら話してくれないみたいだ。
今回の嵐花は、まるで保護者のような感じで話をしている様に感じる。
ということは、やはりルリちゃんと俺の為の教育ということになるのかもしれない。
「ほら、ルリ。改めて、彼氏に挨拶をしなさい」
「は、はい、お姉さま」
ん? 彼氏?
「あの、湊さま……ルリです。今日から湊さまの彼女としてお付き合いをさせていただくこと、嬉しいです」
「ふぁっ!?」
「きゃぅっ!?」
「おい、みなと! ルリが驚くような奇声を出すんじゃねえよ!」
「い、いや、だ、だって……え?」
聞き間違いじゃないよな? 俺がこのロリッ子の彼氏!?
改めて真正面から見ても背はかなり小さく、オムネさんだけがひと際目立っているものの、可愛いリボン付きの髪留めを使っていて、ツインテールじゃなく何といえばいいのか。
後ろ髪もかなり長く、その状態で両耳を覆い隠すほどの長い髪を垂れ下げている。
お嬢様によくある髪型といえばいいのか、とにかく顔が小さいし目もクリクリしていて可愛い。
まだ幼さが残る、何とも言えない高めの声もこの子の特徴だろう。
「ルリがお嫌いなのです?」
「嫌いも何も、まだよく分からないし……ルリちゃんは庶民の俺と付き合うことは、嫌じゃないのかな?」
「湊さまがいいの」
「ううーん……な、何といえばいいのか」
商店街から車に乗り込み、この屋敷に着いた時に『いい』だとか『決めました』とか、そんなことを呟いていたのはそういうことだったのか。
「みなと! ルリの為にも頼むぜ! ルリの通う学校は女子高だから、余計に男と触れ合う機会が無いんだ。下手をすれば、女子だけの世界しか知らないままってことにもなりかねねえ!」
西下高校で思い出したのは、そういえばしずは、あそこから転校して来たことだ。
しかも、確かにお姉さまと呼ばれていたので、男子を知らない女子高なのは間違いないのだろう。
「湊さま……!」
上目づかいでウルっと見つめられるだけなのに、どうして強く言えなくなるのか。
「その、嵐花はいいんですか? 俺とこの子が付き合うということ自体……」
「むしろ望むところだ! 言ったろ? あたしもみなとも、成長しねえと進めねえってな! ルリにとっては思い出にもなるし、男のことを知る第一歩になるってもんだ」
「あ、あー……そういうことですか。思い出の為の交際ですね」
本格的に付き合うことになると、それはそれで何かがやばそうだが、この子の為になるというのであれば、交際するのに断る理由は無い。
「ルリちゃん、エビで庶民代表だけど……よろしくね」
「わぁ! 湊さま、嬉しい!」
「か、彼氏なんだから、湊……でいいよ」
「み、湊、ルリ、嬉しいの」
「は、はは……俺も嬉しいな」
昨日から一転して、まさかの彼女が出来てしまうとは、これは劇的すぎる。
ルリちゃんの場合は、高校も違うし、嵐花の屋敷以外で会う機会もなさそうなので、アリはありかもしれない。
「よっし! みなと、そうと決まればあたしは手続きをしてくるぜ!」
「はい? 手続きというと?」
「転校だ!」
「てんっ!? え、俺ですか?」
「寝惚けたこと言ってんじゃねえぞ! ルリをウチの学校に転校させんだよ。そうじゃねえと、寂しくさせてしまうだろうが!」
「いやいやいや、それはあまりにひどいことなのではないでしょうか?」
「ひどくねえだろ。それがいいだろ? ルリ」
「はい、お姉さま」
「えええー!?」
これが令嬢の力なのか? まるで鮫浜のようじゃないか。
嵐花も並大抵の令嬢ではないと感じていたけど、いともあっさり転校させられるなんて。
権力チートだらけじゃないか!
鮫浜以上の権力者だとしたら、嵐花のことをかなり甘く見ていたと言わざるを得ない。
「湊……繋いで欲しいの」
「あ、うん」
「いつも繋ぎたい」
「そ、そうだね……」
てっきり屋敷の中限定で、しかもあくまで教育の為だと思っていたのに、軽く引き受けてしまった?




