177.庶民先輩、ロリッ子に優しくする
姫ちゃんに嫌われたはずが、とんでもない化け物……いや、今はもう忘れよう。
それはともかくとして、今日から数日は、教育という名の新たなしごきが俺を待ち受けている。
黒塗りすぎる高級車は、あまりに図体がでかくて長いので、我が家の前には入って来られない。
そんなわけで、母さんに伝えることは伝えたところで、表通りの広い道路に出て待っているわけだが、未だに黒塗りすぎる高級車の姿は見えてこない。
いつもなら俺が慌てるくらいに、先に来ていることが多いのにどうして来ていないのだろうか。
『おい、そこのエビ!』
エビというと、煮たり焼いたりすると背中が丸まって赤くなる甲殻類のはず。
何より、スシネタでは好きな部類に入る。
今までは背中とか壁だとか言われ続けて来たので、そういうキーワードであればすぐに反応していた。
さすがにエビと言われて即反応するほど、俺は甲殻類とは近くない。
『無視するな! エビ!』
あまり相手にしたくはないが、どうせいつぞやに出会ったチビッ子からのちょっかいだろう。
「エビじゃないが、何だそこの……ロリっムネさ……ん?」
「どこ見てんだよ! エロ野郎!」
間違いなくその言葉遣いは、姐御のソレを引き継いでいるようだ。
今まで出会った女子の中で、一番ちっこい女の子な上に、とてつもないオムネさんである。
「君はもしかして嵐花の迎えの子?」
「ら、嵐花……お姉さまを呼び捨てにするなんて、表に出ろ、この野郎!」
「もう出てるよ……ここは外だからね? そして何気に車通りの激しい場所だから、自重しようか?」
「エビに言われたくない! 帰れ帰れ!」
どうやら、このロリッ子が俺を出迎えに来たということらしい。
しかし埒が明かない状態だし、黒塗りすぎる車が来ないとすれば、嵐花はこの子と先にどこかに行けと言っているようなものだと思うが、どうすれば大人しくなってくれるのか。
「俺は嵐花に言われてここに来たんだけど、君は何か知っているのかな?」
「エビと買い物に行って来なさいって言われた。買い物ってどうするの?」
この子も世間知らなすぎな令嬢か。
車の迎えも無しに俺と一緒に、商店街へ買い物に行かせるとか、嵐花も中々のスパルタだ。
「エビじゃなくて、湊なんだけど……とりあえず、商店街に行こうか。何かを買って行かなきゃダメなんだよね?」
「うん」
「じゃあ、メモか何かあるのかな?」
「これ……」
ロリッ子というか、どう見ても子供だからか、返事は素直だ。
「なるほど、コンビニでも買えるリストだけど、商店街で買い物をしたことがなさそうだし、俺と一緒に行こうか」
「うん、行く」
「俺はエビ……じゃなくて湊っていうんだけど、君はなんて名前かな?」
「ルリはルリなの。湖上ルリ! 湊と商店街に行くの」
「じゃあ行こうか」
「手を繋いで離さないの!」
「ああ、そうだね。危ないからね」
何だか幼いということもあるのか、あっさりと素直な子になっていた。
もしくは賢いせいか、いつまでも駄々をこねるということはしないのか。
何にしても、嵐花が可愛がっている令嬢なのは、間違いが無さそうだ。
「……庶民の買い物なの」
「あぁ、うん。俺は庶民代表かな?」
「庶民先輩?」
「よく分からないけど、そうなるかな」
昨日の恐ろしい空気感とはまるで違い過ぎて、いつもよりも柔らかな表情になってしまいそうだ。
「庶民先輩なら大丈夫なの」
「うん? 何がかな?」
「お姉さまに聞いてみる」
「よく分からないけど、聞いてみてね」
「うん」
嵐花が手渡したとされる、買い物リストのほとんどを購入し終えたところで、ようやくお迎えの車が到着していた。
もしかすれば、社会見学のつもりでこの子を俺に預けたのかもしれないけど、それにしては幼すぎる。
「湊はルリのお婿さんになれるの」
「あぁ、そうだね。なれるかもしれないね」
あっという間に懐かれたようで、いつの間にかお婿候補にまで格上げされていた。
そして気づけば、嵐花の邸宅に到着していたようで、すぐに案内を受けた。
どうやらこのロリッ子も含めて、教育の日々が始まってしまうらしい。
「湊でいい!」
「うん(何が?)」




