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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第4章:彼と彼女たちの思惑

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176.池谷姫の嫌いな人になれた日


 どこからともなく姫ちゃんの声がしたが、この場にはいさきさんとさよりしかいない。


 きっと気のせいだろう。


「高洲君。わたくしはもう少し、さよりさんとお話を続けますので、あなたはこのままお泊りになられては?」

「ウチの親にはなんと?」

「隣馴染みですからね、すでに合意していますよ。明日は学校もお休みなのですから、焦ることも無いでしょう。二階の奥の部屋に布団を用意していますから、そこでお休みなさいね」

「は、はい、すみません。お手数をおかけします」

「いいんですよ。あなたはもしかしたらもっと近しい関係になりうるのですからね」

「はぁ、まぁ……」


 いさきさんの前で、カチコチ状態のまま正座をしているさよりに余裕はないのか、俺は素直に部屋を出られることが出来た。


 二階の奥の部屋というと、さよりの隣ということになるが、いさきさんに逆らうような行動に出ることは考えにくい。


 今夜は何事もなく眠ることが出来そうだ。


『……うぅっ、い、痛い……痛いです』


 えっ……? 


 この声は姫ちゃんか? とは言っても、廊下には彼女の姿は見えない。


『湊さん、お部屋……わたしのお部屋に早く、早く……』


 どうやら姫ちゃんは自分の部屋から助けを求めているらしい。


 気のせいでは無かったのはいいとして、もしかして具合でも悪くしたのだろうか。


 姫ちゃんの部屋は一階の奥だったと記憶しているので、急いで中に入らないとやばいかもしれない。


「は、入るよ……? 姫ちゃん? だ、大丈夫?」


 姫ちゃんの部屋に入ったものの、電気を消したままで倒れているのか、真っ暗で何も見えない。


「姫ちゃーん! 入るよ? てか、ベッドで動けなかったりするのかな? 待っててね」

「……こっち、こっちです……早く」

「はいはい、待っててねって――!?」


 何だかすごい勢いで引っ張られているし、このままだと床に倒れてしまうのでは?


「うぷっ!? んん? い、痛くない……どころか、これはまさか……」

「本当に大胆なんですね、湊さん」

「あぁぁ……んっむ……い、息が」

「離しませんよ。こうされるのが好きですよね? 知っていますよ……いつも鮫浜にされていたことくらい」

「な、何でそんなことを……」


 どうやら姫ちゃんのたわわなオムネさんに再ダイブしてしまったらしい。


 しかしそこからすぐに離れられることが出来たかと思えば、部屋の明かりが灯されないまま、次の行為を求められた。


「こ、ここが痛いです……ここをさすって欲しいです」

「え? 暗くて分からないけど、ここ……?」

「はぁ……あっ……湊さんの指が冷たくて、でも優しくて……そのままなぞって欲しいです」


 目には見えないが、恐らく姫ちゃんの腹部に触れているようで、しかもへそに触れてしまったのはさすがにまずいと感じて、すぐに手を離した。


 すっかり油断した。


 いさきさんがいる前では大人しく言うことを聞いていただけに、この子の危険性が失われたわけじゃなかった。


 半ば強引に押し倒した形のまま、真っ暗な部屋のベッドの上の柔らかな部分に倒れこんだ俺には、そこから抜け出す術は持ちえなかった。


「いいですよ、好きにまさぐっても……しましたよね? あの鮫浜相手にも」

「してないよ、俺は」

「そんな嘘、無駄です。湊さんだって、男の子じゃないですか。鮫浜とかに関係なく、こういうことをされたら嬉しいですよね? いつも湊さんは部屋の窓を開けて、鮫浜が入って来るのを拒まずに行為を楽しんでいたんですよね。男の子の喜ぶことを鮫浜は知っていたからこそ、湊さんの所に行きまくっていたってことくらい、知っていますよ」


 鮫浜の不法侵入は、姫ちゃんのいう、そういう行為が目的ばかりでもなかった。


 あの頃は単純に、俺のことを知ろうとして距離を縮めていただけだと思う。


 鮫浜の真似といい、こういう行為を仕掛けてくることといい、冷静に考えればこの子は真似事を仕掛けているに過ぎない。


「姫ちゃんは俺が好きなのかな? それとも鮫浜のようにすることで、俺が君に告白をするとでも思っていたりするの?」

「……どうしてそういうことを言うんですか?」

「好きだったら、こういう……こんなことばかり求めるわけじゃないからだよ」

「さよりにしたくせに?」

「見てないでしょ? 姫ちゃんも鮫浜みたいに、まるで見たような口ぶりで言うんだね。君はそういう子じゃないと思っていたのに、所詮は子供だよね。何だか残念だな」


 ずっと姫ちゃんの行為に甘んじて来た俺も悪かったが、この子にはとことん嫌われた方がいいのかもしれない。


 そうなると鮫浜のことをやたらと意識しているこの子にとって、気に入らないことばかりを言えばいいだけになる。


「――っと、部屋の電気をつけるからね」


 暗闇の中で説教じみたことを言っても、きっとこの子には通用しない……そう思って電気をつけた。


「……ひどい男だったんですね、あなたは」

「まぁ、優柔不断だからね。さよりに告白しておきながら、すぐに他の子を選んだわけだし……」


 明るくなった部屋のベッドの上にいる姫ちゃんは、唇をぷるぷると震わせながら怒りを露わにした。


「――! 気が済むまで叩いてもいいよ。それで気が済むならね」

「本当にひどい……嫌いです。嫌い……何でこんな奴」

「俺はひどい奴なんだよ。ハッキリしてないから、さよりにもひどいし……モテた気になってるただの男なんだよ。だから姫ちゃんは、俺じゃなくてもっと――」

「姫ちゃんなんて呼ぶな! 私、うじうじした男が嫌い! 部屋から出て行ってください!」

「……うん、そうだね。ごめん、今すぐ出るよ。本当にごめんね……」


 何とも不甲斐ない結末になってしまったが、姫ちゃんから俺のことを引き離すには、嫌われるのが最適だった。


「あら? 湊? どうしてそこにいるの?」

「さよりか。いや、奥の部屋って二階だったよな?」

「ふふん、あなたも大概、残念な記憶力をお持ちなのね。ここは一階であって、二階では無いわ! こっちよ、二階は階段を上がらないと行けないの。ほら、わたしに付いて来なさい」

「あ、あぁ……サンキュな」

「随分素直ね。いつもそうだといいのだけれど、あなたが素直だと嬉しくなるものだわ」

「そうなのか?」

「愚問ね。素直が一番いいことなの! それならこっちも素直になれるというものなの! よろしくて?」

「そうだな……ごめん」


 姫ちゃんに酷いことを言った直後ということもあって、さより相手には素直になりすぎた。


「な、なんてこと!? 湊が素直すぎるわ……明日は槍の雨でも降って来るのかしら」

「いや、槍な……」

「ここが湊の寝る部屋よ。明日は早く起きて、お母さまのお手伝いをして頂戴ね! お休みなさい、湊」

「お休み、さより」


 姫ちゃんに嫌われた日になってしまった。


 しかしああでもしなければ、たとえ留学して会えない日々が続いたとしても、ますますこじれた思いを募らせてそうで恐ろしい気がした。


「あ、おはようございます」

「高洲君、朝ご飯は出来ていますから、召し上がってからお帰りなさいね」

「あ、ありがとうございます。いさきさん」

「高洲君、わたくしのこともいずれは呼び方を改めて頂くことにしますわ」

「――あ、は、はい」


 この先のことはどうなるかは分からないが、姫ちゃんに嫌われたので、新たな問題が発生してしまったのは言うまでもない。


「さよりはまだ寝ていますけれど、高洲君のお家は隣ですし見送りも必要ないでしょう。それじゃあ、ありがとうね」

「あ、ありがとうございました」


 隣過ぎて見送る方がおかしいわけで、玄関先でいさきさんにお礼を言って外に出た。


 何とも濃すぎる一日だったが、あれで良かったんだろうかと今さらながら思ってしまう。


 そんなことをグチグチと思いながら、自分の家に入ろうとしたら彼女に呼び止められた。


「ちょっと待ってくれる? 高洲さん」

「おはよう。えと、姫さん」


 何とも変な感じではあるものの、今までと同じように呼んでも怒鳴られてしまうだけだ。


「姫さん……? ふん……それが私の呼び方?」

「池谷さんの方が良かった?」


 今までは俺に対して敬語を使って来ていただけに、急にタメ口というのも変な感じがするが、そんなもんだろう。


「私のことは嫌い?」

「え? いや、君の方こそ俺を嫌いになったでしょ? 無理して話しかけて来なくてもいいよ」

「答えて! 私のこと、嫌いなの?」

「嫌いになる理由は無いよ。俺は嫌われて当然だけどね」

「……私のことは姫って呼んでくれる? あなたのことは、湊くんって呼ぶから」

「へ? あれ、んん?」

 

 何やら雲行きどころか、嫌な予感がする。


「クスッ……湊くんは上手く仕掛けたと思ってるけど、甘いよ。私が嫌いになったのは湊さんであって、湊くんじゃない。まぁ、そういうことだから、これからもよろしくね? 湊くん……」

「うあ……う、うん……よろしく、姫」

「じゃあね! 湊くん!」

「じゃあね~……」


 まさか、もっと恐ろしい子に変化させてしまったのか? 


 留学して帰って来るまでに彼女を見つけよう、そうしよう。

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