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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第2部第3章:新たなる恋芽生え

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164.湊、池谷家に招待を(強制的に)受ける。


「鮫島、おす」

「な、なぁ、高洲。話を聞いていいか?」

「あん? 俺に何?」


 昨日のことは仕方ないと思うしか無く、家に帰って寝て朝になり学校へ着くと、鮫島がコソコソと話しかけて来た。


「教室じゃなくて何で廊下で?」

「あぁ、その方が話しやすいし……」

「何だよ? 優雨の名字が実は緑木だったことに動揺でもしたのか?」

「え? そうなの? いや、そんなことよりも、高洲って結局誰と付き合おうとしてんの?」

「そんなことなのか……朝から何でお前にそれを答えねばならんの?」

「そうじゃねえと、あいつがグチグチ言って来るからキツいし、だるい。あの子じゃねえの? 同じクラスの綺麗な子とか」

「池谷のことなら友達だ。ついでにいうと、付き合いたいと思ってる子はまだ未定だ。以上」


 優雨に印象すら覚えられてもいない鮫島には、同情の余地もない。


 そんな奴がどういうわけか、他クラスのダチのキューピッドをしてやってるのが、どうにも気に食わない。


「……気持ち気付いてるくせに、可哀想だと思わねえの?」

「知らね。そんなの、会って数日しか経ってないお前に言われたくない」

「いや、怒らせるつもりは無かった。悪い」

「誰と付き合うだとか、いつ付き合うとか……友達に頼まれて、動いている奴に言われてもな」

「砂庭のことはマジですまん。まぁ、確かにそうなんだよな。俺もいつから近付こうかなんてまだ決めてないし、高洲に強く言える立場違ったわ」


 何故に朝からこんなことで疲れなきゃいけないのか、勘弁して欲しいし教室に行って座りたい。


 鮫島が何を隠している奴なのかが気にはなるが、今はどうでもいい。


「鮫島が好きなのは優雨じゃないのか? それとも実は池谷……?」

「違う違う! いや、椿は好みなのはマジな。池谷いけがやさより……アレは俺から見てもねーわ!」

「――あ? 何だ、無いって、どういう意味で言ってる?」


 俺がさよりに対してからかったりするのはいいとしても、大して知らない奴が悪く言うのは腹が立つ。


「付き合ってたんなら謝るけど、付き合う気が無いのにその怒り方は、相手が勘違い起こす原因だと思うぞ」

「付き合いが長い奴だからな。残念なところはあっても、悪く言うような奴じゃない」

「……なるほど」

「で? 何が無いって?」

「友達にもなれないって意味だよ。誤解させて悪い……ごめん。そんなに怒らせるつもりはなくて」


 教室に入る手前の廊下で、どう見ても怒りを露わにして鮫島に食って掛かろうとしていた。


 周りが見えていなかっただけに、そこに誰がいたのかなんてことも気にしなかったのは失敗だ。


「まぁ、落ち着け! ドゥドゥドゥ……殴ると痛いぞ?」

「うるせー! ソイツがいない時に、悪いこと言う奴は気に入らねえ!」

「――ち、本当に痛い目、見たいのか? 高洲」


 あまり鮫島のことを知らないというのもあったが、何となく嫌な気配を感じてしまった。


 しかしすでに拳は、鮫島に向かって振り下ろされようとしている。


「――! 落ち着け! 拳の相手を交換してやるから、存分にやってくれ! じゃあな、高洲」

「あ? え?」

「えっ!? な、何かしら?」

「さ、さより……!?」

「み、湊っ……朝から、何をするというの!?」


 殴りかかる相手がさよりになっているのは、非常にまずい。


 あまりやりたくは無いが、目の前の壁に殴りかかるしかなさそうだ。


 ドーーーン!


 自分のクラスの壁を、廊下から思いきり殴ると同時に、廊下中に音と振動が鳴り響いてしまった。


「今さら壁ドンかよ……」「朝から美少女に壁ドン、ひくわー」「あいつ、やべえ……」などなど、ギャラリーを集めてしまったのはまずかった。


「こ、ここここ……」

「ん? 鶏が鳴く時間か?」

「こここ、これは何の真似なのかしら? せ、説明を求めるわ! 湊!」

「そ、それはだな……」

「それは?」


 鮫島の素早さに対応出来なかった俺も悪かったが、何故さよりに取って変わられていたのか。


 それもあって、やるつもりも無かった今さら壁ドンを遂行してしまった。


『おい! そこの舎弟! 何してやがる……あ?』


 あぁぁ……よりにもよって、嵐花の登場というか登校とか、何でだろうか。


「さ、騒ぎになるのも嫌だわ。湊、あなたは今日、ウチに来ることね! これは命令なの!」

「えー? 何で……」

「こ、こんな間近に湊の顔があったら、何かが起きそうでよろしくないわ」

「起こさねえよ……でも、確かに何かやばくなりそうだ。し、仕方ない……池谷の家に行く。まぁ、用事もあったしな」

「やったぁ! ではなくて、当然ね……早く離れて!」

「あ、あぁ……あああああ!? えぇぇぇぇぇ?」


 顔と壁が間近すぎた俺だったが、襟首を誰かに掴まれたと思ったのも束の間で、あっさりとさよりから離れられた。


「み、湊……ふ、ふん! 相変わらず、空気を汚す男なのね。いや、違うわね……空気を……読みまくる? あら?」


 ズルズルと引っ張られながら、残念なさよりを眺めていると、すぐに解放されていたことに気付いた。


「みなと……みなとは、ああいうのが好きなのか?」


 あれ? てっきり叩かれると思ったのに、意外な反応だ。


「も、もしかして見ておいででした?」

「見ていた。あたしにアレはやらないのか?」

「アレというと今さら壁ドン……い、いやぁ、アレをやったら返し技で投げられそうですからねー」

「お前はまだ、あたしにそういうイメージを抱いているのか?」

「舎弟なもので……」

「……っ」


 嵐花は本物の令嬢だが、腕っぷしも強いのは確かだ。


 下手に壁ドンなんぞやろうものなら、その前に背負い投げをやられる予感がありすぎる。


「みなと、週末……といっても明日からだが、暇だろ? 暇だよな?」

「明日は、まぁ予定は無いっすね。もしかして教育って奴ですか?」

「すでに受ける気満々じゃねえかよ! 何だ、みなとの気持ちはもう、決まってやがんのか!」

「へ? 気持ち?」

「よし、明日お前の家に迎えをやる! 明日から来週の火曜日まで学校を休ませてやるぞ!」

「む、迎えっていうと、アレですよね? 家の前は幅が足りないので、大通りで……っていうか、学校をサボらせてくれるって何すか!? 今回の教育は五日間ですか!?」


 黒塗りすぎる本物の長い車に、またも乗ることになるのか。


 さよりの家は今日だけだし、明日には解放されるから、まぁいいのか。

 

「まぁな。五日間、あたしと二人きりだ。嬉しいだろ?」

「はぁ、まぁ……」

「あ、あたしは嬉しいぞ。次のステージに進めるんだし……」

「ステージとか、ゲームみたいっすね? 俺も嬉しいですけど、学校にはサボりと?」

「栢森が面倒を見るって言っておく。それでいいな?」

「それならまぁ……」


 先生の言っていた通り、栢森はサボリ公認らしい。


 しかしダブっているんだよな……俺もサボりすぎると、ダブってしまうんじゃないよな。


「じゃあ、教室に入るぞ! ほら、みなとが先に入りな」

「はい~」

「ふふっ」


 ん? あれ、反応が可愛くなってきたのは気のせい?


 教室に入ると、予想していた騒ぎは起きなかった。


 それもそのはずで、嵐花と同時に入って来たからであり、大方の予想はみっちり叱られたのだろうみたいな、空気になっていたからである。


 ただ一人、廊下側のさよりだけがチラチラと見て来ていたのだけは、見逃さなかった。


 池谷家に招待されたのは意外だったが、姫ちゃんのことをいさきさんに言いたいとも思っていたし、丁度よかったかもしれない。

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