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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第2部第2章:彼女×カノジョ×かのじょ-after remain Story-

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148.優雨と雨と男の娘


「これを持ってくれないかしら?」

「何で俺が?」

「何を言うかと思えば、この期に及んで言い訳をするつもり?」

「言い訳も何も、お前が勝手に妄想しまくっただけだろうが! 俺の責任じゃないぞ」

「そ、それなら、どうしていきなり手を握って走り出したというの? アレはどう考えても、式場へ一直線だったわ!」

「……はぁ」


 さかのぼること、姐御の説教前――


 嵐花さんは授業終わりに、俺を公開処刑……ではなく、教室の中で説教を始めた。


 いや、公開処刑か。


 しかも床に正座をさせられ、見上げるとご立派な足とオムネさんがそびえ立っていた。


 上を見ただけなのに、恥を知れなどと叫ばれながら猛ダッシュで逃げられたことで、女子の皆様からのお怒りを買ってしまったという経緯がある。


「知っていたけれど、湊は本当に救いようのない男なのね」

「言っとくが、わざとじゃないんだぞ? 人に謝る時は目を見て謝るという教えがあってだな……見ようと思ったら、見えてしまったのであって……見ようとしたわけじゃない」

「な、ナゾナゾかしら……」


 さよりがアホの子で良かった……と思っていたが、昼に手を掴んだことを思い出したらしく、すぐに俺を問いただして来た。


「わたくしの手を掴んだのも、そういうこと!?」

「どういうことだよ?」

「あの人、姐御と呼ばれているあの人の白地を見たのも、それが狙いだったのね?」

「いや、白じゃなくて黒だったが……狙いってなんだよ!」

「わ、わたくしの手を掴んで離さないで、そのまま連れ去る計画だったのでしょう?」

「どんな計画なんだ……」

「そう簡単にわたくしの手を掴ませてやるわけにはいかないわ! その代わり、下民の湊にはわたくしのカバンを持って頂くことにするわ」

「へいへい、ほら、手だ」

「ふ、ふん。有難く持つことね」


 とことん面倒な思考の持ち主のようだ。


 姫ちゃんのことで相談があるからと話を聞いてやろうとしていたのに、いつの間にかコイツの頭から妹のことが抜けてしまっているじゃないか。


「さよりお嬢様の仰せのままに!」

「そ、それと、わたくしの手は下民に易々と触らせるほど安くは無いの。触りたいなら予約を前もって伝えるのが筋ではなくて?」

「予約? へえ……じゃあカバンではなく、さよりの手に触れることを今すぐ予約する。その答えは?」

「まっ……」

「ま?」

「ま、待って! じゅじゅじゅじゅ……準備が万端では無いのよ? そういうのは計画を立てて行うべきなの! 分かった?」

「ワカリマシタ。それで、姫ちゃんの為になんかするんじゃなかったのか?」

「そのことならまた今度でいいわ。こうしてはいられないもの! 湊がそのつもりというのなら、わたくしも万端にしなければいけないもの。そういうことだから、今日は自由に羽ばたくことを許可して差し上げるわ。それじゃあ、ごきげんよう」

「っておい!」


 益々残念さに磨きをかけるつもりか? 何だよ、自由に羽ばたくとか……


 非情にもさよりは、お迎えの車に乗ってさっさと帰ってしまった。


 一緒に乗ってどこかに行くつもりがあったのなら、そのまま俺の自宅に戻れたというのに。


 アテにしていたのがまんまと外された挙句、こういう時に限って雨が降って来るものである。


 何が辛いかというと俺はチャリであり、現時点ではみちるの家に住むことが、確定していないということが挙げられるからだ。


 ずぶぬれ確定な上、果てしなく遠いのは泣けてくる。


 強引にでもさよりの手を掴んで離さずにいれば、こんな目には遭わなかった。


「あっれぇ~!? 湊くんだー! ヤッホー」

「……俺に叫んでも山彦は返せないぞ」

「あははっ! 面白ーい! やっぱり、いいなぁ」

「お前も今帰りか?」

「だよ。こう見えて、体育系女子ですから! えっへん!」

「いや、見たまんまだ。オムネさんといい、その体格といい……この前の鬼――」


 女の娘なくせにボクっ子だし、何で俺はコレに好かれてしまったのか。


「優雨は誰か一緒に帰る友達はいないのか? 鮫島とか……」

「鮫……え? 誰?」


 マジか? 名前を覚えられていないどころか、存在否定とか。


「ひどい奴だな。お前に告白をしまくっている男のことだぞ? 土下座もさせたらしいじゃないか」

「土下座ぁ~? 土下座って、何だっけ?」


 ここにもいたのか……さよりよりも残念な娘が。


「地面に手をついてお前に向かって、お願いをするポーズだ」

「分かんなぁい。湊くん、やってみせてよ!」

「何でだよ! お前に土下座する意味も理由もまるで無いんだが?」

「あ、あるよ!」

「どれだ?」

「ボクのクラスに遊びに来なかった罪! それから、蒼ちゃんにだけ優しかった罪!」


 面倒な奴その2が誕生したのか……面倒だから、土下座するか、もう。


「いいか? 一度しか見せないから覚えろよ? 普通はやらないポーズであって、やらせてもいけないことだ。こんなのを誰かに見られたら、優雨は夜道で消されるぞ?」

「ええええ!? 土下座をさせただけで闇討ちされるとか、恐ろしすぎるよ……でも、見たい!」


 ち、ちくしょう……さよりよりも少しだけ、厄介な奴だ。


「……こうだ、こう」

「おー! それが土下座? 湊くんの背中に乗れば飛べそう」


 何で雨が降っている玄関口で、こんな芸をお披露目しなければならんのか。


 さよりが帰った後で助かったし、そもそも帰る人の姿が見えないから良かったといえばよかったが。


「――そこのキミ、湊に何をやらせているの?」


 ん? 姿は見えないが、美少女っぽい話し方に加えて俺の知り合いらしき口調。


「わー綺麗な子だなぁ。腰ほそーい!」

「お、おい! 俺の背中から降りてくれ。立ち上がって様子を見たいぞ」

「あ、あの、何年生? 湊くんのお知り合い?」


 駄目だコイツ……俺を土台にしているせいか、気付いてすらいない。


「二度は言わない。湊に何をしている? キミは女子? それとも――」

「わわっ!? 待って待って!」


 どうやら殴りかかろうとしたのか、優雨は慌てて俺の背中から飛び降りた。


「ふー……」

「フフッ……久しぶりだね、湊。相変わらず」

「ん? あ……浅海か? 磨きまくりじゃないか!」

「そうかな? それよりもそこの子は何?」

「ボクっ娘だ。一応、女だな」

「へぇ……? 池谷さん以外にも湊に近づく子がいるんだ?」

「ま、まぁ……」


 学園にいた時よりも、浅海の腰はさらに細くなっていて男の娘どころか、女らしくなったように見える。


「湊くん、この綺麗な人は誰なの?」


「あぁ、こいつは……」

「俺は浅海。湊の愛人さ……」

「ちょぉっ!? あ、浅海……おま――」

「久々の再会だからね。思いきり抱き締めるよ、湊」


 浅海は優雨の存在を無視するかのように、思いきり抱き締めて来た。


 落ち着け、コイツは男だ。ソッチには行かないと、どこかの誰かに約束しているぞ……

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