144.残念系美少女は妹想いらしい(ただし一方的) ①
「ねえ、湊くん……あの子はキミの何なのかな?」
「はい?」
いや、ホントに休む間もないくらいに、話しかけて来なくていいのになんて言えない。
「凄い綺麗な子の視線が、ずっと湊くんに一点集中してるんだけど、幼馴染か何か?」
「いえ、隣……ナンデモナイデス」
「んんん?」
うっかり隣馴染みですと言いかけたが、もうすぐそうではなくなるはずだし、知られるのも面倒だ。
「あ、こっちに向かって来るね。綺麗な子だなぁ……」
「そのようですが、俺は忙しいので対応よろしくです」
「そう言われてもわたしも困るんだけどなぁ」
後ろの席から一番前に向かって来るだけで、俺の所に来るとは決まっていないはずだ。
もしかしたら姐御に文句を言いに来るかもしれないし、単にうろうろしたいだけかも――
「そこのあなた! ちょっといいかしら?」
名前ではなく、あなた呼びだから俺じゃないと思っていたのに、世の中甘くなかった。
「嵐花さん、とある美少女がお呼びですよ」
「あん? あたしに何の用があるって? 面倒ごとはお前に任せるから、話を聞いて来い!」
「ワカリマシタ」
このクラスには男もそこそこいるし、さよりには俺以外の野郎から話しかけられてもいる。
それなのにどうして俺なんだよと吠えたくなる。
「……俺に何の用ですか? 美少女さん」
「! こ、こっちに来なさい!」
もちろんわざとよそよそしくしているわけだが、そんなことに気付きもしないさよりは、俺を廊下に引っ張り出した。
「何だよ?」
「それはこっちのセリフだわ! どうして名前で呼ばないのかしら?」
「堂々とさよりちゃんと呼んだ方がいいのか?」
「さ、さよさよさよさよ……さよりちゃん!?」
「ん?」
「はぁはぁはぁはぁ……ま、待って! な、何の真似かしら? い、息切れがおかしいわ」
「おいおい、どうした?」
そう思いながらも、肩にも腰にも手をかけることは出来ないわけだが。
「だ、誰のせいだと思っているのかしらね」
「で? 何か用があるんだよな?」
「そう、そうよ! それだわ! 湊、あなた今日の放課後は暇よね? 暇と決まり切っているはずよね?」
「決まってねえけどな……何かしたいのか?」
「わ、わたしじゃなくて、あ、あのね……姫のことでお願いがあるの」
「珍しいことを言うな。姫ちゃんに何か頼まれたのか?」
さよりと姫ちゃんは、一時は仲直りをしたように思えた。
しかし仲が悪かった時期よりも、今の方がさらに距離を置かれているのだとか。
その原因は何となく分かっているが、だからといってどうすることも出来ないので放っておくしかない。
「ひ、姫はわたくしよりもお友達が多いはずなの。それなのに、電話を手にしていないのは電話で話せる人が少ないからだと思うのだけれど……」
「そうなのか? 見てないから何とも分からんけど、さより同様に姫ちゃんも目を見て話すタイプなんじゃないのか」
「め、目を見る……む、無理だわ。湊に見られただけで妊……」
「おっと、そのネタはそこまでだ! まさかと思うが、まだそういうことを言うのか?」
かつてのさよりは、世間知らなすぎの常識知らずのお嬢様そのものだった。
何に影響を受けてしまったのか、今でも謎なままだが……
仮にもすでに俺とキスまでした奴が、それを忘れてしまったか記憶が退化したかのようなセリフを吐くのは、反則というものだろう。
「と、とにかく放課後に付き合いなさい! これはわたくしたちの将来に関わることなの。姫だって、きっと喜ぶに違いないことですもの」
「お前は喜ばないのか?」
「ふ、ふん……学校の廊下で喜ぶほど、あなたは大層な男なのかしら?」
「まぁ、いいけど……付き合えるのは今日くらいだし、いいぞ」
「それはどういう意味?」
「放課後に話す。それこそ、俺とさよりの今後が大きく変わるかもしれないことだしな」
「か、かわかわかわ……!? と、とうとう?」
「落ち着け。まぁ、話は以上ってことで教室に戻るからな」
姫ちゃんのことで動こうとするさよりは、やはり姉なのだということを思い出した。
そういう意外な一面を見ると、思わず優しくしてしまいそうになる。
間近で話しても、相変わらず美少女であることに疑いはない。
慣れというものは、通常の感覚を麻痺させてしまうわけだが、自然と話せる関係は悪くない、そう思えた。




