142.新たなる年上さんと姐さんに挟まれる運命ですかそうですか
嵐花さんというか、姐御の声はとても通る。
そんな姐御の声は今まさに、危機を迎えている模様らしい。見たところ、年下の男子につきまとわれるといった出来事に遭遇中のようだ。
『おいっ! みなと! あたしの元に来い!』
お呼びのようだ。呼ばれておいてなんだけど、姐御なら男子の一人や二人……それ以上でも吹き飛ばせそうなんだが、そうしない理由でもあるのだろうか。
「へいへい! なんでございやしょー?」
「コイツを蹴り飛ばせ!」
「こいつ……って、どこのクラスの男子なんです? 先輩とかでもないですよね? それか後輩か」
「お前とタメだ。あたしよりは下だけどな! と、とにかくあたしの足にストーカーしてきやがる。早くしろ! あたしは教室に行っているからな」
足にストーカーとか、こんなのもいるとか真面目に危険な学校だった。
「おい、お前! 嵐花さんがうざがってる。俺が蹴る前に自分のクラスに行け!」
「ウザい? それはおかしい話だと思わないか? ウザいというのは、不快であり気味が悪いという語源から来ているものだ。言っておくが俺は、不快な思いをさせた覚えはない。気味悪がらせても無い……君こそ何だ? 嵐花さん呼びをするなどと、どこの馬の骨か名乗ってみろ!」
うわ、面倒なへりくつ野郎か。こんな野郎に名前を名乗るのは面倒だ。
「俺はえーと、モブ浜モブ男だ! お前は?」
「か、変わった名前だ。俺は椿秋晴だ。クラスは2-Cだ。モブ浜君の文句は俺のクラスで聞くとする。時間が空いたら来てくれ。決して、おみ足にストーカーしていたわけじゃないことを証明してみせる! それでいいかな?」
「お、おぉ……分かった。行けたら行くが、俺は転校して来たばかりなんだ。知らないクラスに行けるほど、度胸は無いんでな……」
「心配しなくてもいいよ。俺のクラスに来れば、騒がしい妹を筆頭に優しく声をかけてくれる女子が勢揃いだ! モブ浜君にも優しくしてくれるはずだ」
椿秋晴? どこかで聞いた名前だな。
そしてへりくつ野郎は、まんまと偽の名前で信じてくれたようだ。これなら顔以外はバレることがないはず。
「今回は蹴らないが、嵐花さんに近づくなよ? モブ男は彼女の舎弟だからな」
「そうしとく。またな、モブ浜君!」
何て面倒なタイプの男なんだ。へりくつ野郎はもっとも苦手だし、友達にもなりたくない。
しかし会ったことはないはずなのに、どこかで見たことがある気がしたのは気のせいなのか。
何はともあれ廊下にたどり着くと、教室の後ろ辺りから綺麗すぎる足が、退屈そうに上下しているのが見えている。
アレはどう見てもさよりの足であり、椅子の上からぶらぶらと揺らして遊んでいるに違いない。
古典的なやり方だが、ハンカチタオルを濡らして足を冷やしてやろう。
『ひゃぁぁぁぁぁぁぁ!?』
げっ!? そんな透き通りの裏声で叫んだら……
「キミ、女子をいじめるサディスティック男子なのかな?」
「えっ?」
「いけないなぁ~……好きな子をいじめる男の子ってあまりに定番すぎるんだけど、他にいじめたい女子がいないからちょっかいを出しちゃうのかな?」
誰だ? 同じクラスでは無さそうだし、年下にも見えないから先生なのか?
パニクるさよりが静まるまで教室には入るつもりは無かったのに、肩に強制的に手を置かれたままで教室に前進されては、振りほどくわけにもいかなそうだ。
「おい、みなと! 遅かったじゃねえか! あん? 後ろの女は何だ?」
「いえ、知りません」
「……ったく、この教室の女はやかましすぎるってのに、またやかましい女を連れて来たってのか?」
さよりのことを言っているのか、かなり機嫌を損ねているようだ。
肝心のさよりは、はぁはぁと息を切らせながら周りの男子に気を遣わせている。
「み、湊! あ、あなたね!? あんな変態的なことをするのはあなたしかいないわ!」
「誤解だぞ」
「ふ、ふふふ……このハンカチタオルは元々、わたくしの物だということをお忘れかしら?」
「あっ……」
「ふふん、愚か者なのね。これで何でも言うことを聞かせ――」
バンッ! と、机を叩く音が教室中に響いた。
姐御は相当お怒りモードのようだ。俺の肩には姿の見えない女子? が、がっちりと手を置いているし、このまま公開処刑かな?
『みなと! さくらのホームルームが始まるって言ってんだろうが! 早く座りやがれ!』
「は、はいっ! 今すぐ~」
「ふふっ、湊くん。君が湊くんか……」
「声だけですんませんけど、顔を見せてもらえるとありがたいなと」
「うん、先生の隣に立って紹介するから、その時分かるよ」
「は、はぁ……ところで、声といい話し方といい、年上さんですか?」
「鋭い子だね。彼女が警戒するのも無理はない、か……」
「え?」




