140.タダより高いモノを頂く運命かな?
「その自転車は改造ですか?」
「後ろのことならそうだけど、何か問題でも?」
「いえ、それなら問題ないです」
「うん?」
学校から近い所にあるということで、チャリを押しながら蒼葉と帰っている。
家には電話を入れたので、ご飯の心配は無くした。
「今どき三つ編みとか、珍しいな」
「楽……というより、必要なことなので。普段は違う髪型です」
「必要?」
「……ここです。どうぞ中に」
「ん? 近いな」
学校からチャリを押しつつ、話しながら歩いていたら目的地に着いていた。
外観はどう見ても定食屋で、二階と奥が住居のように見える。
「なるほど……そういうことか」
「早く中に。その自転車は裏口に置いてください」
「裏って、そこの隙間を通ってか?」
「色々うるさい人ですね。とにかく中で作って待ってるので、置いて来て」
丁寧な言葉遣いだったのに、それが素なのかと言わんばかりに気を遣わなくなってきた。
同じ学年だからタメ口で問題は無いはずなのに、急に言葉を変えられると違和感がありすぎる。
裏にチャリを置いて、表に回り中に入ろうとすると、お店部分は暗くなっていて扉は閉め切られていた。
「おーい? どうやって中に入れと?」
「……何やってるの? 裏に自転車置いたんだったら、裏口から入ればいいだけなのに。とにかく入って」
蒼葉は呆れたようにして、表の入り口の鍵を開けて顔を出して来た。
「分かるわけないだろ?」
「早く閉めて適当に座る!」
「くそ、何で命令口調……帰るかな」
「帰っちゃ駄目。高洲に食べてもらうために作ったから」
「……これは?」
「生姜焼き定食。ウチの人気メニュー」
俺がモタモタしている間に作っていたとすれば、相当な料理の腕かもしれない。
「……ふむ」
「どう? 男の子向けに濃くしてみたけど……」
料理といえば、鮫浜や姫ちゃんに作ってもらったことがあるが、これは素直に美味い。
「悪くないし、美味い」
「高洲はこの程度なら作れる?」
「作れるけど、客相手にとなると厳しいと思うぞ」
家で作る身内向け手抜き料理とはわけが違うし、程度の度合いがよく分からないし無理だろう。
「分かった。高洲は馬車馬のように動いてもらうだけでいい」
「あん? 動く……?」
「ここ、ウチのお店兼住居。高洲はウチの店でバイトしながら、ここに住む」
「蒼葉の家にか? いや、それはまずいだろ……」
「高洲はわたしの料理を食べた。家の中にもすでに入ってる。何が不満?」
「不満とかじゃなくて、仮にも女子の家だぞ? 第一、蒼葉の親は? 親に挨拶しないとまずいだろ」
「あぁ、それは……バイト中に認められればいいだけ。わたしが家の中に入れた時点で合格」
帰って来た時間は夕方で決して遅くはないのに、蒼葉しかいないのは違和感がある。
「今日は定休日なんだろ? だからいないのか?」
「そう。父も母も、マンションに戻ってる。だからここに来てないだけ」
「お前はマンションの方に行かないのかよ?」
「無理。親専用の部屋だから。それにわたしはここがいい」
いろんな事情がありそうだが、お店兼住居にいる方が学校には近いということか。
「高洲のその背中……かなり鍛えてそうなった?」
「多少は。別に鍛えたからこうなったわけじゃない。元からだ」
「触るけど、いい?」
「い、いいけど……撫でまわすのはやめてくれよな」
何故に俺の背中に触りたいのかは謎だが、蒼葉は俺の偉大なる背中に手を置いて、何かを確かめている。
「ん、やっぱり高洲じゃないと駄目。だから採用」
「背中でバイト合格とか、ファミレス以来か。バイトが合格なのは分かったけど、家ってのも合格か?」
「家に住んでいいし、わたしの部屋の隣に寝ることを許可。それと自転車の後ろを座れるようにして」
「え、マジで? で、でも、これだけ学校に近いならチャリはいらなくないか?」
「後ろに乗せてもらうから必要」
「……お前をか?」
「何か問題があるとでも?」
問題があるとすればさよりと姫ちゃんにバレてしまわないかどうかだ。
色々面倒なことになるだろうし、バイトのこともバレればここに乗り込まれかねない。
「毎日は無理だ。歩いて通いたい日もあるしな」
「分かった」
「ところで、その言葉遣いがお前の素か?」
「お店に出たらもっと容赦ないから、早く慣れて」
「あ、あぁ……とりあえず今日は帰る。親に言わないとだし、荷物とか必要だしな」
「駄目」
「いや、着替えとか必要で……」
「今夜は帰らないって伝えたなら問題ないはず。着替えなら洗っておくから脱いで」
「ぬ、脱いでって、寝る時の着替えはどうするんだよ? 裸で寝る趣味は無いぞ」
初めて来た女子の家と、兼ねての定食屋とか……ただ飯にうまい話などあり得なかったようだ。
「趣味じゃなくても裸で寝て。服は乾かしておくから」
「きょ、教科書とかどうすればいいんだよ? こう見えて俺は授業は真面目に受ける――」
「栢森先輩が隣なら見せてもらえばいい。あの人も真面目だから」
嵐花さんが隣だということも把握済みか。
「明日来るとは限らないだろ」
「来るから問題ない」
むぅ……何となく残念と感じるのは、蒼葉は感情を揺らすことがあまり無い感じがするからか。
俺だけが恥ずかしさを感じているし、女子だとか男子だとかを気にしすぎているせいもあるようだ。
「蒼葉に彼氏がいたら怒られそうだな」
「そんなのいない。そういうのは高洲でいい」
「ん?」
「それと、名前で呼んで。そうじゃないとお店も上手く行かない」
「えー? 名前か。うーん……馴れ馴れしくするのは好きじゃないんだけどな」
「……名前を呼ぶなら高洲の理想女子を目指す」
名前程度で理想女子が出来上がるなら、さよりにも苦労は無いだろうな。
「とにかくこっちとしてはバイトも出来て、学校に近い家に住めるわけだ。名前くらい安いもんだ……ってことでよろしく、みちる」
「――これで成立。高洲はウチ以外でバイト出来ないから肝に銘じて」
「へ? 他でバイト出来ないって、それはひどくね?」
普通のようで、普通じゃない厳しさがある学校だったか。
「家も与えてバイトも与えるのに、ひどい? 他でバイトしたって家は手に入らない」
「あー……そういうことか」
「高洲、さっさと服を脱いで! 洗うから。ついでにお風呂に入って」
「お、おー」




