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それでも彼女は俺のカノジョじゃないわけで。  作者: 遥風 かずら
第2部第1章:メモリーズリターン~カノジョになるにはまだ早い!

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134.お姫さまVS本物の姫ちゃん


 ドーーン!


「うおっ!?」

 

 口の悪い女子の声が後ろから聞こえて来たかと思えば、俺の全身はすでに突き飛ばされていた。


「こ、こらー! どこの女子か知らんけど、俺の背中は万能じゃないぞ……っていないし」


 突き飛ばしたということは、遅刻して来てそこにいる奴のことなんか気にしていないということになる。


「く、くそー……なんて日だ。二度も背中を集中攻撃とか、こんなことは未経験すぎるじゃないか」

「湊くん、何を叫んでんの?」

「湊くん? 俺のことをそう呼ぶのは――誰かなキミは……」


 背中襲撃で呆然としていた俺に、またしても後ろから声がかかった。


 それもショートヘアーでボーイッシュな女子がしゃがみ込みながら、俺のことを下から見上げている。


 髪が短くて『湊くん』呼びとか、彼女を思い出してしまうじゃないか。


 ネコみたいな気まぐれさがありそうだし、人懐っこい所を見せる辺り……あぁ、いかんいかん。


「そういうキミは名字が優雨で名前が椿だったか?」

「ちーがーう! 逆だから! ねえ、秋晴しゅうせい見なかった?」

「それは生き物の名前か?」

「生きてるし、ボクの兄の名前なんだぞー!」


 なるほど、ボーイッシュな上にボクっ娘だったか。


 そうなると、鮫浜とはまるで別な人間ということが理解出来る。


「兄? さっきも言ったが知らん!」

「嘘だー! 湊くん、廊下に住んでるってくらい、ずっと廊下にいたじゃんか」

「いたけど言葉の悪い女子と、お姫さましか出会っていないぞ」

「え、お姫さま……?」

「そういう優雨も廊下で遊んでいるのか? サボリか?」

「違うー!」


 何だかいちいちあざとすぎる。


 可愛くもあるが、俺のタイプではない。


「お姫さまなんて、本当に照れるなぁ……言葉の悪い女子って、それって……湊くんってクラスはどこ?」

「知らん」

「何で知らないんだよー!」

「転校して来たばかりの俺にそれを求めるのは、さすがに酷というものだぞ? えーと、椿」

「優雨でいいよ。湊くん、しゅうよりも聞き分け良さそうだし、気に入ったから!」


 少なくとも優雨という女子は、この時点で別のクラスだということが分かった。


 そしていつまでも姿の見えない優雨の兄という奴も、優雨と同じクラスなのだろう。


「それはどうも。じゃあな」

「何でー?」

「何が?」

「嬉しいだろー! 優雨がしゅう以外の男子を気に入るなんて無いんだぞー?」

「あぁ、間に合ってる。じゃあそういうことで!」

「何だか本当に腹立つー! 湊くん、彼女いる?」

「いないが、今の会話にその質問を導く部分があったのか?」

「無いよ? ボクはこう見えて一途なんだぞ! ということで、付き合ってみよう!」


 何とも危険な学校に転校して来たようだ。


 出会って早々勝手に気に入られた挙句、勝手に付き合うことを決められてしまうとか怖すぎるぞ。

 

 ここは戦略的撤退を発動だ。


「こらー! 待てー!」

「断る!」


 男の娘では無かったが、ボーイッシュな女子に好かれる性質とかなのか? 


「湊さん、こっちです!」

「ん?」


 何やら手だけが階段の踊り場から見えているが、もしや見てはいけないものか?


「こっち、こっちです」

「お、おぉ……イケない世界への手招きか。行きたくないが行くしかないのかな」


 色んな意味で恐ろしい優雨よりはマシだと感じて、誘われるように踊り場に進んでしまった。


「ふふっ、湊さんっ! お久しぶりです」

「えっ、あ! キミは姫ちゃん……だよね?」

「はい! ここで出会えるなんて、夢みたいです」

「いやー転校する高校にいるのは聞いていたけど、そっか、本当に会えたんだね」


 池谷姫ちゃんは、似ても似つかないさよりの妹で、綺麗すぎる女子でもある。


 バイトで出会った頃から惚れられているという、俺には勿体ない妹ちゃんだ。


「今でも好きなままですよ?」

「あ、あはは……ど、ども」


 鮫浜同様に、この子は心の中を覗いたかのような発言をする大胆な子でもある。


『湊くん、見っけ! んんっ?』


 おいおいおいおい、マジなのかコイツ。


「俺はかくれんぼをした覚えは無いんだが、優雨は鬼だったか?」

「面白いー! うん、やっぱり湊くん、付き合っちゃおうよ! ボクも男を知るチャンスだし」

「……湊さん、この子は誰ですか?」

「知らない子だよ。いや、正確にはさっき名前を知った程度の関係かな?」

「……そう、ですか。湊くん――ですか」

「湊くん、この綺麗な女の子は誰なの?」

「姫ちゃんだ」

「えー? お姫さまは優雨って言ってたよね? この子も姫さまなの?」

「違うぞ。この子は真面目に姫ちゃんだ! 優雨とはモノが違う!」


 何だかややこしいことになりそうだ。


 しかし当の姫ちゃんは、さっきから無言となった上、気のせいか冷気のような寒気を感じる。


「――湊さん」

「うん? どうかした?」

「わーわーわー!? み、湊くんがああ!?」


 ――とまぁ、優雨が大騒ぎをしていることを、姫ちゃんにされてしまったようだ。


 温かさよりもヒンヤリとしたその感触は、バイトの時に感じた時を思い出してしまった。


「……今度こそ、渡さない」

「ひ、姫ちゃん?」

「湊さん、この学校でよろしくお願いしますね! じゃあ、わたし教室に戻らないと」

「う、うん……」


 出会って早々、キス……か。

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