131.それでも彼女は彼女だったわけで。
あぁもう、ここまでお膳立てをされて言わないわけには行かないよな。さよりの奴はいつもと変わらないし、浅海は答えを知っている風だし、あゆは俺の答えを確信しているようだし……まずはさよりに告白だな。
「えーえと、池谷さより!」
「な、何かしら?」
「俺はさよりのことが好きだ」
「わ、わたしもあなたが好き、大好き……わたしを正式に彼女に――」
「いや、待て。好きだけどそれはちょっと待ってくれ」
「な、何故かしら……わたくしのことが好きって聞こえたのだけれど、幻聴だったかしら」
普通なら迷わずさよりを選ぶし、このままの勢いでキスをしてイチャイチャしたかったが、俺はどうしても独りで居続けて居る彼女のことが気になって仕方が無くなっていた。
あんなモニターだらけの部屋に入れる立場なのはよく理解できたし、闇を抱えていた原因も理由も理解出来た。はっきり言って、そんな子をこのまま独りぼっちにさせたくない。
「あゆちゃん。あゆちゃんは俺のことを私のモノとかって言ってたけど、それは独りぼっちだからなのかな? それとも俺のことが好きだから?」
「……分からない。分からなくなった」
「え? ど、どういうことなの湊。あゆもあなたのことが好きだって言うの? そ、そんなの、そうだと思っていたけれど、わたしの方がずっと湊のことを……」
「あぁ、まぁ……そうなるな。でも、俺がここに駆け付ける前の行動で迷わせることをしてしまった。何となくだけど、何だかんだで俺をずっと見ててくれたのはあゆなんだよな」
「……」
「そ、それ、湊は怖がっていたことなのではなくて? どうしてそんな気持ちに変わってしまったの?」
情が移ったって言えば簡単だけど、さよりに気持ち持っていながら最後の最後で、あゆのことが放っておけなくなるなんて自分でも思わなかった。一緒にいる時間が圧倒的に多かったのもあゆなんだよな。
さよりは可愛くて甘々で出来ることなら付き合いたいのが本音だけど、今すぐそうなろうとは思えなくなった。あんな寂しそうなあゆの姿を見せられた上に、両親や妹まで雇ってそう見せつけたとか、それは寂しすぎる。このままさよりを選んでしまったら、間違いなくあゆはずっと闇を抱えたまま独りだ。
ぼっち歴がそれなりの俺だからこそ分かってしまうんだよな。とはいえ、あゆに恐怖心抱いていたのも事実だし、あゆに関しても今すぐ気持ちが通じ合うってのは難しいだろう。だから俺は――
「さより、俺はお前が好きだ。だけど、まだ友達でいたい。それに、俺はさよりの可愛らしさに惹かれたんだ。だからまずは……言葉遣いを直してくれ。俺の嫁になるってことなら、料理とか勉強頼む。マジで!」
「い、痛い所を突いて来るのね。ふ、ふん、それが出来たらわたしを嫁に迎えてくれるのね?」
「まぁ、それだけじゃないけど、友達としての期間が短いしもっとさよりのことが知りたいってのが本音だな。だから、これからも隣馴染みで頼む。さよりのあの口づけで俺も迷いが消えたっていうか……」
「い、いいわ。あなたは、そこの寂しがり屋のあゆを支えてあげたら? 湊なら、あゆをどうにか出来そうな気がするし……と、友達ですもの」
「サンキュな、さより」
さよりを選ぶのは簡単だ。だけど、そうしたらあゆは闇を抱えたままで、もしかしたら――なんて脳裏に浮かんでしまうくらいに放っておけないって思えた。嫁になるかは分からないが、そういう可能性を残したことで、涙を流させる結論にはしなくてホッと出来た。
実際のところ、さよりの嫌な所も見つけてしまっているだけに彼女とかってなると、もしかしたら喧嘩ばかりになりそうな予感もあった。友達関係を長くしていけばそのうち俺もさよりも変わりそうな気がする。
「き、気持ち悪いわね。そんなことよりあゆがさっきから沈黙したままよ? 早く何とかしなさいよ」
「だよな」
モニター室を出る時に不意打ちでキスをしたら、アレがあゆの素なのか、弱々しいあゆを見ることが出来た。同い年で権限者とか、闇っぽいことを繰り返してきたとか、それは真面目に俺でも病みそうだ。
不法侵入を繰り返してきた彼女だったが、実際は嫌じゃなかった。ってことは、好きって気持ちよりも俺があゆに芽生えた気持ちは、多分これが選択肢で合ってるはず。
「あゆちゃん、俺のモノになってくれ」
「……本気?」
「えと、正確にはその……出来れば妹としてがいいんだけど、一緒にいる時間を増やしたいっていうか……一緒にいたい。心配なんだ。知らないことばかりでもっとちゃんと知りたい。つ、つまり……好きになっていいかな?」
「……私を選んで、さよりとは付き合わずに友達関係を?」
「そうだよ。俺はあゆちゃんと付き合いたい。キミの傍にいたいんだ」
「ん、そう、そうなんだ……私の傍に」
「あゆちゃんも俺も、多分今はお互いがどうすればいいとか分からなくなっている。だからこそ、もっと近くでいられれば分かって来るし寂しくなんかならないんじゃないかな? だから俺の彼女になってくれないかな?」
寂しい思いを少しでも無くしてあげられれば、闇天使から天使になりそうな気がする。俺をずっと見ていた彼女だ。付き合うってなれば、もっと心を開いてくれるって思えた。
「……湊くん」
「う、うん」
「さよりがいる前で、出来る? 出来るならして? そうしたら成立させてあげる……」
これはアレですね、キスですね。さよりがいる前でとか、中々にハード過ぎるんだが……以前に教室でも突発的なキスをされたこともあるし、それに関して文句も言って来ないだろう。やるしかない。
背の小さなあゆちゃんが、少し背伸びをして俺に顔を近づけてくる。俺も彼女の吸い込まれそうな瞳を見ながら、形の整った桜色の唇に向かってゆっくりと近づく。
「――! み、湊……な、何を――っ!」
「ま、まぁまぁまぁ、池谷さん。許してあげてよ」
「わ、分かったから、わたくしを押さえ付けないで下さるかしら?」
「そうだね、ごめん」
予想よりもさよりが騒ぎ出したようだが、浅海が止めてくれたようだ。
「あ、あゆちゃ……むぐー!? うぐぐぐぐぐ……ちょっま……死ぬ死ぬ死ぬ! ギブギブギブ!」
「……私を受け入れるのなら我慢して」
「……」
キスってこんなに生死を伴うものだったのだろうか。いや、いつも思っていたが、あゆちゃんの口づけは意識を奪うくらい激しいものだったことを思い出した。直後に意識を落としまくっていただけに、てっきり口の中に何かの睡眠効果があるものを含んでいるかと思っていたのに、激しすぎて闇に落とす子だったことが、今まさに判明した。
「――湊、いいよ? これで契りは果たしたから。彼女としてだと別れるかもしれないし、キミの妹として生きてあげる……ずっとキミの傍にい続けてあげるね? キミがさよりを選んでも、ずっとずっとキミの傍にいてあげる――」
薄れゆく意識の中で、とてつもなく恐ろしいことを言われている気がするが、今は気にしないことにした。これでようやく鮫浜あゆに近付けた気がするのだから。
「浅海、湊くんを抱えて家に……」
「はい」
「さよちゃん、一緒に帰ろ?」
「え? あの、そこの輩は?」
「ふふ、さよちゃんは知らなくていいことだよ……さよちゃんは、湊の為に自分を磨くことだね。そうすればいつかは、私から湊を奪えるかもしれないよ? だから、ライバル。それでいい? いいよね」
「ふふん、当然ね! 家が隣近所ですもの! 今はあなたに湊を託すわ。わたくしだって負けないわ。あら、でも、バトルロワイヤルはどうするのかしら?」
「そんなのはどうでもいい……つまらないけど、普通に楽しめば?」
「そ、そうね。そうするわ」
結局俺は浅海に抱えられながら自分の家に戻されていた。鮫浜あゆとキスをするのが命がけとか、恐怖でしかないが、彼女をもっと明るい子にするために、付き合うことにしたのは間違っていないかもしれない。
「……おかえり」
「う、うん」
「湊は私のモノ……彼女だなんて、そんな……それだけで済ませてあげない。渡さない……渡すつもりはない」
あゆは俺と一緒に暮らすことは無かったものの、俺の部屋にほぼ確実に侵入してることが増えた。それが彼女なりの好意なんだろうと思いながら、少しずつ彼女を好きになり始めた。彼女としてきちんと言えるように、もっとあゆの傍にいようと決めたのだから――
「さより、高洲は諦めた?」
「そうではないわ。今はあゆを支えてあげているだけよ。姫だって、何も湊にそこまで想いを抱き続けているわけではないのでしょう? 姫はまずは受験を頑張って、それから好きな人でも見つければいいわ」
「……そうだね。オヤスミ、さより」
「ええ、お休みなさいね。姫」
「――湊さんは、わたしと結ばれる運命。さよりでもない、鮫浜あゆでもない……私の湊さんだから――」
了
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