128.見たことあるイケメン……いや、男の娘が俺の前に立ちふさがってますが?
少々……いや、かなり気になってはいるが、あゆとさよりと俺とで学園に登校するのはいつ以来だろうか。さよりはともかくとして、あゆの心の内が読めない。読めないくらいの微笑みを向けられているわけなのだが、いよいよもって俺に本当の気持ちを伝えるつもりがあるのか。
そんなことを内心ビクビクしながら思っていたら、学園に到着してしまったよ。あゆの家に閉じ込められた時は、もしやこのまま永遠に外に出られないかと不安でしょうがなかった。しかし、気が変わったのかあっさりと解放してくれた。もっとも、ずっと眠っていた俺の身がどうなっているのかなんて分かるはずもないのだが。
「それにしても湊の言う通り、変ね。どうして通行人とすれ違わないのかしら? ねえ、あゆ……えっ?」
「……」
あゆは沈黙しているようだが、俺たちの正面にはどこかで見たことのある……というより、男の娘でもある浅海が仁王立ちしているじゃないか。もしや俺に告白でもしてくるのかな? ドキドキ……してはいけない。
「おはよ、湊」
「お、オハヨー浅海。どした? 取り巻き女子も引き連れないで俺を出迎えとか、照れるじゃないか」
「うん。今日は湊に謝らなきゃいけなくてね。それで待ってたんだ」
「ほぅ? 俺に謝罪とな?」
もしやこの場で土下座して好きになってしまったことをカミングアウトか? いやいや、それはあまりに危険すぎるぞ。この場にはあゆとさよりがいるわけだし、いくら浅海でもそんなアブノーマルな告白は。
「俺、湊のことが好きなんだ」
ほらやっぱり! とうとう禁断の扉が開放されてしまったんだな。やはり保健室で俺の頬にキスしたのが始まりだったんですね、分かります。浅海の突然の告白に隣のさよりは、何故か顔を赤くして俺と浅海とで視線を泳がせているじゃないか。しかしあゆは微動だにしていないどころか、不敵に微笑んでいるんですが?
「そ、そうか。あ、あは……し、しかしだな。お前は友達だし、男だし……その気持ちには応えられないぞ?」
「……うん、そうだよね。分かってる、分かってたよ。だからごめんね? 湊のことが好きだけど、俺はあゆさんの味方でもあるんだよ。この意味が分かる?」
「分からん」
苦笑しながらどんどんと俺に近づいて来る浅海なんだが? ナニコレ、このまま抱きしめてくるつもりが? 浅海はあゆの味方で、いつもさよりには近づかないで欲しいとか言ってたが、それは過去の出来事が関係していたのであって、そこまでさよりのことを嫌っていないかと信じていた。
何よりもあゆの近くにいる俺を守ったり助けてくれたのは、浅海だということも知っているし気づいた。それだけにその行動はさすがに読めなかったし、あゆの真意に気づけなかった。
「湊……俺を抱きしめてくれないかな?」
「――え」
「頼むよ。好きなんだ、湊……すっごく、くっつかないとダメなんだ」
おぉぉぉ……こ、これは浅海エンドですか? そんなのはいやだぁぁぁ! って思いつつ言う通りにするしかなかった。
あゆもさよりもいる前で、男の娘で見た目が美少女な浅海とこんなにも抱きつくとか誰が想像できたかな? 俺自身は全くもって想像が出来ていなかったし、しなかったぞ。これはもう男の娘に捧げるしかないのかな……などと諦めていたら、何やら浅海のひそひそな声が耳元に入って来るでは無いですか。
「く、くすぐったいぞ」
「しっ……今から俺が話すのは本音。だから、湊はそれに従って欲しいんだ」
「お、おぉ」
「俺は池谷さんを許せない。いや、許すつもりは無いんだ。だけど、湊が池谷さんを慰めたし俺とのことを話してくれたのも知っているよ? だからさ、俺は湊を不幸にするつもりは無いんだ」
「つ、つまり?」
「今から湊を思いきりぶん殴って強制的に眠らせる。その後、あゆさんの指示通りに湊をとある部屋に連れて行く。池谷さんは浮間に連れて行かれて、もしかしたら彼女はあの男に奪われてしまうかもしれない……」
「浮間? そうか、そういうことか。というか、痛いのは嫌だぞ?」
「手加減はするよ。だから今はあゆさんの傍に付いていて欲しい。池谷さんは俺が……いや、湊が助けて欲しい。俺は浮間を見張るだけしか出来ない。だから、嘘でもいいんだけど……あゆさんの望みを叶えて欲しいんだ。それは湊じゃなきゃ出来ない。そうすればあゆさんの……鮫浜あゆのことを知ることが出来るよ」
何てことでしょう。無いオムネさんのトラウマを作ってくれた浅海と、こんなにも超密着して滅茶苦茶長い時間抱きしめ合っているだなんて、ひそひそ話は置いといてソッチに目覚めてしまったらどうしてくれる! だがかろうじて、この場に本物の美少女たちがいるのはいい意味で理性ブレーキがかかりましたよ?
浅海はやっぱり、ダチだった。出会いこそ俺の不純な動機だったが、最後まで俺の味方でいてくれるようだ。痛いのは勘弁して欲しいが、そうでもしないとあゆも全てお見通しなのだろうな。
「湊、好きだよ。俺がこんなでも好きでいてくれて嬉しかった。だから、今は――」
「俺もだ」
直後に痛烈な痛みが腹の辺りを襲った。そして俺は意識を落とそうとしていた。もっと手加減……ぐふっ。
「えっ……み、湊! な、何をしているの? あなた、浅海さんよね。わたくしとのことで許さない気持ちは分かるけれど、湊は関係がないはずだわ! どうしてあなたが湊にそんなひどいことをする権利があるのかしら? 湊に酷いことをしないでもらえるかしら」
「大丈夫、湊には少しだけ眠ってもらっただけ。湊に罪は無いけど、やっぱり許せなくてね。池谷さよりと一緒にいるなってアレほど言ったのに、それどころか好きになってしまうなんてさ。それだけはどうしても理解できなかったんだよね。まぁでも、池谷さんを守る湊が眠ったことだし、池谷さんはもう湊を気にしなくていいよ? 湊は良い奴だけど、それでも池谷さんには釣り合わないと思う。だから彼にしときなよ」
「池谷さん、どうも。庶民先輩なんかより俺を選んだ方が将来安泰だと思うぜ?」
「あなた、誰だったかしら?」
「ははっ、相変わらずひでえな。やっぱ、庶民先輩にばかり近づきすぎて礼儀とかそういうもんも無くしちゃったかな? でももう心配しなくていいよ。俺が池谷さんと付き合ってやるから」
「は? ふざけたこと言わないでくれるかしら? わたくしが好きなのはそこで寝転がっている湊であって、あなたのような下等生物などでは無いわ。分かったら去ってくださらないかしら?」
いやいや、さよりはどう考えてもピンチのはずだろ。何でそうまで強気でいられるんだ。俺は助けてやれないんだぞ? しかし声は出せないわ、どんどん意識が落ちていくわでどうにならん。さて、どうなることやら。そんな感じで俺は完全に眠りに落ちた。
「連れて行っていいんすよね? 鮫浜さん」
「浮間は、さよりと恋人になっていいよ。湊は私のモノだから、渡さないし……」




