120.体育ってこんなに敵を作る時間だったかなっていう茶番回。
「卑怯者!」「小心者!」「美少女たらし!」いやいや、3つ目は違いますよね? これはほんの数秒前にしでかした体育中での罵声の数々でございます。
なんてことは無い、ウチの学園の体育は選択制なわけだが、何故か個人的にツボったソフトボールを選んだわけだ。細かいルールなんて気にする奴はクラスに一人か二人いればいい。そんな程度でいわばお遊びだった。
「湊って、運動が可能な人間なのかしら?」
「はっ? 運動くらい誰でも出来るだろ」
「そ、そうね。良かったらわたくしの為に、ルールを教えて頂けないかしら?」
「遊びみたいなもんだぞ? ほれ、このミットを手に差し込んでそのちょい重ためなボールを握ってみな?」
「こ、こうかしら……」
「そう、それを投げればいいんだよ」
なんて適当、なんてアバウトか。中学の時ってソフトやらなかったかな。というのも、俺とさより、そして浅海は途中まで同じ中学だった。それだけに学年の途中までは、同じ体育くらい受けたことがあるはずなのだが、さよりはそれすらも記憶に無いようだった。まぁ、俺も無いけど。
「さより、そう上手いぞ! それを俺に投げたり、同じミットを持ってる奴にボールを返すんだよ」
「わ、分かったわ……」
などと熱血指導してももちろん、すぐに出来るはずもなくさよりさんは、ボールを投げることが出来なかった。一方で、鮫浜は何でも出来ちゃう女子のようで……体が弱い説を一蹴してくれましたよ。
「高洲君。行くよ?」
「は、はい」
ってな感じで、まともに投げることが出来る女子である。スポーツな青春にもならない遊びのお時間なわけだが、鮫浜は万能だった。さよりは無能とまではいかないが、見た目以上に運動は苦手のようだった。
あれだけ俺に回し蹴りだのなんだのを繰り出した奴とは思えないが、ルール通りにやるのは駄目っぽい。ただし、頭の回転は悪くないのでルールだけは素直に頭に入ったらしく、その流れでゲームをすることになった。
「て、手加減してくれるんでしょ?」
「もちろんだ」
「こ、これに当てるだけでいいのよね……えーと、えと」
見てるだけで何と可愛いことか。などと油断をしてはいけない。何故か俺はピッチャーで、鮫浜はキャッチャーという、何ともあり得ないシーン。俺の投げる球を受け止めるわけですね、分かります。
で、俺はサイン通りに遠慮なく投げた。そう、思いきりだ。さすがの鮫浜もボールを取ることが出来ず、さよりはもちろん、ただ立ち尽くすだけだった。
このソフトなゲームに参加しているのは美少女が二人と、モブ男子が数人、自称美少女たちがetcだったわけだが、お気楽なこのゲームに俺だけが何故かマジになったと罵られてしまった。
「バ、バカッ! み、湊のくせに何なのかしら! そうまでしてわたくしを負かすなんて、サディスティックにもほどがありすぎるわ!」
「い、いや、そんなつもりはなく――」
「……高洲君、キミってそんな子だったんだね……ふふ、思った通りの卑怯者だね」
「サイン通りに……ひっ」
鮫浜の目は獲物を狩る目だ。サイン通りに思いきり直球をど真ん中に投げただけですよ? 振れば当たるんですよ? 何で俺だけ責められますか。
とまぁ、ゲームに参加してなかったクラスの連中全ても俺を敵とみなして罵声を浴びせてきた。あぁ、ですよねぇ。俺じゃなくて、美少女を味方するのは当然なクラスでした。
今回は体育というごく普通過ぎる時間だったわけだが、すでに美少女たちの戦いの中に組み込まれているらしかった。俺だけが全員の好感度を下げた時間だった。バトルロワイヤルって、俺を弱くする戦いかな?
「高洲君、私だけはキミの味方。他の誰もがキミを非難しても、私は守ってあげる……ふふ」
「おぉ! 天使降臨! 鮫浜さん、ありがとう。好きだ」
「本当に?」
「えっ? ど、どういう意味で?」
「……好き? 抱きしめる? キスする? 連れ去る?」
いやいやいや、好きはどの程度か分からんけど、日常的な意味で使ったんだけど別の意味で取られたかな? それに、好き以外はどう見ても違うぞ。連れ去るって何かな。
「キミは体育の時間がただのお遊びだとでも思ってるのかな?」
「ほえ?」
「もう始まってるんだ……そう、始まり」
「そ、そうなんだ。何が?」
「今までキミに見せて来なかった私を見せてあげる……さよりとは違う、私のやり方で――」
鮫浜というと、突発的なキスやら膝枕、拉致……おぅ……どれもこれもがやばいぞ。不法侵入はインパクトありすぎだったわけだが、印象付けにはかなり有効だったな。
「俺が見てきた鮫浜は一部でもないってこと?」
「そう……それと、さよりだけ呼び捨ては不公平。私もあゆと呼んでいい……いいよ?」
「そ、そっか。あ、あゆ」
「ふふ……いい子だね」
何か知らんがタメなのに、いつも年下扱いをされるし弟扱いをされているようで変な感じがする。
「まだ、キミはさより寄り……私の名前を呼んでいない、いないよ? だから、まずはそこから、だね」
「んん?」
「返事は?」
「あ、うん。よ、よろしく、あゆ?」
「ん、それでいい……」




