115.鮫浜あゆと妹ちゃん
「あ、あゆちゃん……キミはともかく、姫ちゃんもここに住むってこと?」
「……クスッ……そんなわけない。湊くん、忘れたの? ここが誰の家かを」
「鮫浜の……じゃなくて、あゆちゃんの、だろ?」
「そう。姫は池谷の家に帰る。だからここには住まない」
「え? んん?」
どういうこと? いや、でもさっき一緒に住むって言ってたよな。俺の理解度が足りないのか?
「……高洲さん。わたしの役目は高洲さんをこの家に連れて来ること。わたしは池谷なので、ここには住めないです。ここへはあゆさんにお願いをされただけです。騙してごめんなさい……」
「そ、そっか。じゃあ姫ちゃんは自分の家に帰るんだよね?」
「はい。わたしとなら付いて来てくれると思ってました。さよりもわたしには口出しできないので、その為の役目でした」
そういえば鮫浜に心酔してたんだったか? いや、何となく似た雰囲気を持っているだけか。鮫浜のことで姫ちゃんが役目を負うとか、何だか申し訳ないな。
「池谷姫は戻っていい。ここは私と湊の空間。あなたはさよりをここへ近付けさせないように」
「はい。高洲さん、わたし……わたしはまだ諦めてないです。ここは引きます……それじゃ、さよなら」
「えっ、あ……バイバイ、姫ちゃん」
姫ちゃんはまだ俺に好意があるのか。いつの間に俺は非モテを脱出していたのだろうか。しかしさすがにいくら本物の妹でも、さよりが姉だし中々にハードルが高いぞ。
「湊くん、私を知りたくてここに来た。違う?」
よく分からないままついて来ただけなんだが、でもこれは鮫浜がチャンスをくれたってことのはず。それなら答えは一つだな。
「そ、そうだよ。ずっと俺はあゆちゃんのことが気になってた。さよりへの気持ちはあるけど、それでも俺はあゆちゃんの気持ちが知りたい。どうして最初から俺にちょっかいを出してきたのかさえも分からないままで、さよりとそのまま付き合うのはフェアじゃない気がしてる」
「知ってどうするの? 知った後はさよりを選ぶ?」
おおぅ……いきなり難問来たんだが。さよりを選ぶのは問題ないと言えば無いはずなのだが、彼女ってよりもすでにあいつの妄想は嫁に突入しているからな。高1にして嫁が決定とかそれはさすがにな。
「……いいよ、私の日常を教えてあげる……」
「えっ? マジで? で、でも……俺はどっちを選ぶとか、それは今すぐは答えられないっていうか」
「高洲君の猶予はあと2年……さよりの猶予はあと1年だよ」
「猶予? さよりが1年ってどういう?」
「彼女は他の誰かを選ぶことになる……キミが私を選べば、一緒にいられなくなるから、だよ?」
まさかそれも鮫浜の力か? いや、今の時点ですでに新婚生活を妄想している彼女のことだ。果たして鮫浜を選んでも、ただの友達として付き合えるのかってなるとそれは微妙ではあるな。
「あゆちゃんには猶予は無いのか?」
「……」
む、これは答えられないか。俺の猶予は卒業までってことなのは分かるが、鮫浜はどうなんだろうな。
「……キミが私の人生を変えられるなら、猶予なんて意味のないこと」
「う、うん。そ、それはまぁ……それはそうと、すぐ隣が自分の家だとはいえ、俺はあゆちゃんの家から出ては駄目なのか? 学校だってあるし……」
「ふふ、本当にキミは興味深い……本気にしているの?」
「ほへ? だって、え?」
「キミも知っての通り、ここは空き家だった。けれど、完全に私の家になった。私を選んだらキミはここでずっと、一生ここで住むことになる。そういう意味……」
「あー……だ、だよねぇ。てっきり今すぐのことかと焦ってた」
空き家だったのは認めたのか。それも完全に? ってことは二階の部屋だけ間借りしていたってことかな。その割には結構な生活感があったけどな。
「え、えと、先生が事情を知っていたみたいだけど、どういう意味かな?」
「なんて?」
「頑張れよって」
「……」
「あ、あゆちゃん? ま、まずいこと言ったか?」
「私はキミが好き。好き……キミのことは全て知りたい、だから学園の教師にキミを見張らせていた。廊下、教室、保健室、屋上、学園の至る所でキミを見ていたよ? だから、教師の言葉の意味はそういうこと……」
「ひっ――」
「好きだからそれが当たり前のこと。高洲君がさよりと登校していることも知っているし、教室に入る手前で別れていることも知っている。いつトイレに入って、いつ浅海に近づいているか、大して仲がイイとは言えない男子と話をしていることも全て……視ているんだよ?」
「そ、それはあの、俺の家の中でも?」
「それは無理だったよ? けれどね、私はキミを我慢し続けてきた。キミの家、さよりと会っている時……全て知りたくてたまらない。浅海がキミにキスをしたことも知っている。一瞬でも、浅海を消してしまおうと思った。それくらい、高洲君が好きでたまらない。キミは私を知ろうとしている。それなのに、さよりとも会っている。その気持ちが分かる? 分からないよね……? だからキミを間近で監視することが出来る存在を付けることにしたよ……」
「え?」
「――おいで、チカ」
「はい、姉さま」
ナ、ナンダッテ? い、妹? リアル妹か? 分身じゃないよな? もしくはクローンとか。
「違う。チカは正真正銘の妹。鮫浜チカ、中学3年。池谷姫の同級生……高洲君の傍にすでにいたんだよ? 気づかなかった?」
傍にいた……だと? 姫ちゃんの同級生ってことは、旧ファミレスの職業体験の時か。マジで?
「そう……その時からキミの近くにいた。池谷姫を取り込むために……」
いやいや、これは心の声だからね? 何で先読みというか、心の声まで聞こえてるのかな。
「え、えと、そのチカちゃんの面倒を見るとか?」
「今日からキミに妹を付ける。チカは私に近しい存在。チカをぞんざいに扱う時点で、キミは――」
「いやいやいや、妹ちゃんにそんなことするわけがないよ」
「湊兄さま……お願いします――」
「う、うん」
「チカはキミの全てを報告する。キミは私の所有物。この期に及んで、拒むことは許さない……許さないよ? 私を知りたい……湊くんはそう言ったからね。私を知り尽くして、その上で私を選ぶ。そう、選んでくれるよね?」
「た、たぶん……」
「ふふ、楽しみだね……」
これはもう覚悟の上だ。全て見られていたとか、何となく予感はしていたが……浅海のキスもマジか。そうなると安全な場所なんて、さよりの家の中だけになるのか。
それでも鮫浜が気になるのは何故なのだろうか? 好きになったら関係ないからなんだろうな。




