114.未知なる妹との遭遇編 後編
「姫ちゃん? 早退して来いって言われても困るよ。今は昼休みだからいいけど、午後も授業があるんだよ? 姫ちゃんも学校があるんじゃないの?」
「大丈夫。許されたから、だから早く早退をしろ。そうじゃないとさよりが来る」
許されたってのは、いさきさんのことかな? さよりにばれたら確かに面倒な上に、ついてくること間違いなしだが、うーむ。
「わ、分かったよ。よく分かんないけど、きっと大事な用なんだよね。ここで待っててね」
「早く」
姫ちゃんの口調はもはや固定なのだろうか。いつぞやに聞いたイマドキの女の子はどこへ行ったのやら。教室に戻ると、さよりは運がいいことにいなかった。俺は急いで先生に事情を説明した。
どういうわけか目白先生は親指を立てて「応援しているぞ」なんて言葉を俺にかけた。何のイベントかな?
「湊さん、手を繋いでください」
「あ、うん」
学園から離れて歩き出すと、姫ちゃんの口調は変化をしていた。命令形女子とか萌えるツボは押さえているのかな? 一体ダレが俺の萌えポイントを調べたのか。
さよりの妹と手を繋いで堂々とさぼ……りではないが、早退するとか何かのフラグが立ったのか? 浅海ルートがたぶん完全に回避された以上は、残るルートはあまり残されていないはずだが。
「ど、どこに行くのかな?」
「家です」
「へ? じゃあ早退ってことは、姫ちゃんのお母さんが待っているってこと?」
「違います。彼女が湊さんを待っているんです。わたしも湊さんを希望しているので、許されました」
ほう? 何が? 彼女って誰だ。お母さんのいさきさんじゃないのか? 許されるとか希望とか、俺はいつから景品のような扱いになったのだろうか。なんてことを心の中で愚痴っていたら現地に到着していた。
「って、えーと……ここは空き家だよね?」
鮫浜の家だと思っていた空き家の前に俺たちは到着した。隣はもちろん、俺の家である。
「違いますよ。ここは鮫浜さんのお家です。許可を頂いているので、入りましょうか」
「あれ? 目隠しは?」
「湊さんって、変態なんですね。それでもわたしは、いいですけど」
「いやいや、そうじゃなくてね?」
どういうことかさっぱり分からんぞ。鮫浜の家? 以前は目隠しプレイで、部屋まで案内されるまで視界は封じられたというのに。ということは母さんの言葉通り、正式に鮫浜家が越してきたのか?
「戻りました」
「お、お邪魔しま……」
「お帰りなさい、湊くん。上がって」
「ハ、ハイ」
何だか普通にお出迎えをしてきたぞ。というか、鮫浜も早退していたのかよ。しかもエプロン姿とか、ただの可愛い女の子じゃないか。もしやイメージを変えてきたというのか? 早くも惚れそうですよ?
ってか、お帰りなさい? もしかしなくても何かのプレイが開始されたんですね、分かります。
「湊さん、リビングルームで待ってます。先にお風呂で体を洗ってきてください」
「ほえ? お風呂?」
「そこの廊下を一番奥まで進んだ先にあります。それ以外の所は見ては駄目です」
「ハイ」
なるほど。よく分からん。だが言われたとおりにしないと何か危険な予感がする。
「ふー……いい湯だった」
「湊くん、早くこっちに」
「あ、うん」
いつになく鮫浜が可愛いぞ。口調も穏やかだし雰囲気も闇を感じない。これは夢かな? そう思いながら、鮫浜が入った部屋に着くと姫ちゃんは行儀よく俺を待っていたようだ。ナニコレ?
「高洲湊くん、お帰りなさい。キミは私の家に帰って来るって信じていた。信じていたよ……?」
「え、う、うん?」
「湊さんはあゆお姉さまに願いましたよね? 妹が欲しい……と。ここはそういう家なんです」
「えっ? 妹?」
まさかと思うがあの時に思った心の声のことか? しかも姫ちゃんからあゆお姉さまとか、一体?
「湊くんはここでしばらく、私と姫とで一緒に暮らしてもらうから。もちろん、私も湊くんの妹だよ?」
「鮫浜が妹? 姫ちゃんならまだしも、鮫浜も――」
言いかけた時だった。鮫浜は何故か手に果物ナイフを手にしていたのだが、これはもしや……。
「駄目だよ……? 私は湊くんの妹。どうして、他人行儀に呼ぶの? どうして? どうしてかな?」
「ひぃっ……な、なんて呼べばいいのかな?」
「妹だよ? 妹らしく呼べばいい……」
「あ、あゆちゃん……?」
「ん、いいよ」
姫ちゃんの方を見ると、鮫浜の態度や口調にはまるで動じていないようだった。これは何だ? 俺がなまじ、姫ちゃんに軽はずみなことを言ってしまったがために起こっている事象なのか?
「え、えと、学園は行けるんだよね? そうじゃなきゃおかしいし……」
「クスッ……何を言っているの? 私たちはここでずっと、一緒に暮らす。そう言った、言ったよ?」
おいおいおいおいー……目がマジだ。すぐ隣が俺の家なのに、もしや監禁か? 騒ぎになりそうだぞ。どうする俺……ここは、話し合い……いや、真面目に話を聞くしかなさそうだ。鮫浜、キミは俺をどうしたいんだ。




