112.至って普通の学園生活だがそれがイイ……?
さよりのウザすぎる熱血指導で、俺は期末を何とかクリア出来た。夏休みなんてあった記憶がまるで無いのだが、体育祭をそもそも真夏にしていたから、気づけばもうすぐ冬である。
夏に色んな事が起こりすぎて、果たして今の季節は何なのかと考えてしまったが、まだ秋だったようだ。俺のクラスにはワケありまくりの美少女が二人いる。
その一人である池谷さよりに関しては、そのワケの中身が分かってしまったが、解決したことで彼女とは以前よりもかなり仲が良くなった。さよりの告白と俺の返事は、二人きりになって以降はうやむやになってしまったが、さよりの脳内妄想により俺とはすでに結婚生活をしているようだ。
「ねえ、あなた……今夜は何食べる?」
「あぁ、夜は適当」
「駄目よ、そんなの! わたくし特製の赤すぎる鍋を作るわ」
「あーはいはい。妄想乙」
とりあえず妄想だろうとなかろうと、初期に比べると嬉しそうに話すので、こちらも思わず嬉しくなるほど可愛い女子と化していた。そんな感じでさよりとは良好な日々を送っているわけだが、俺の心は何となく寂しさを感じるようになっていた。
悩むことなくさよりに告白をしてしまえば、それで楽しく幸せな学園生活が送れるはずなのに、それでもとある彼女のことが気になって仕方がなかった。同じクラスにいながら、俺からは話しかけることが出来ない。彼女が話しかけてこない限りは、会話をすることが出来ないもどかしさが何か辛かった。
浅海も最近はすっかりと、BTフィールドの強固な壁に守られたまま出て来ようとせず、俺とすれ違うこともかなり減っていた。さよりとは良好なのに、どうして俺はこんなにも彼女に近づきたいのだろうか。
「おい、湊! ボサっとしてんじゃねえよ。注文取り行ってこい」
「ん? お、おお」
「ったく、彼女が出来たんじゃなかったのかよ。あいつ、あゆが気になってんのか?」
放課後のバイトでも、何故か週二シフトの鮫浜とは会話すらままならなくなっていて、もしかしてすっかり嫌われてしまったのではないかと、気になって仕方なくなっていた。
「おつー」
「湊、あゆと話がしたいのかよ? あ、あたしならいつでも話してやるぜ?」
「しず……そうだな。お前と話すのは楽しいよ」
「……あんた、あゆに避けられてるって思い込んでるみたいだけど、そうじゃねえよ。お前から彼女を拒んでんだよな。ずっと開いたままにしてたくせに、急に恐れて閉じたままなんじゃねえの? あゆはお前から近づくのを待ってると思うぜ? だから、うじうじしてんじゃねえよ!」
「そ、そうだな。悪い」
「じゃあ、おつ! また明日な、湊」
「お、おーお疲れ、しず」
まさか姉御肌なしずに慰められるとは思わなかった。さよりと仲良くなって、距離が縮まって楽しいはずなのに、それでもあれだけ俺に構っていた鮫浜とは、全然会えなくなっていたのが寂しさを募らせていた。
それにしてもよく分からないことを言っていた。ずっと開いたままなのに、急に閉じたとか、どんなナゾナゾなんだか。まるで思い浮かばないぞ。
「タダイマー、このまま寝る。オヤスミー」
「え、湊? お、お休み」
最近はバイトから帰って来て、夜は適当に済ませてベッドに直行ダイブすることが増えた。さよりとは主に、土日に会うことが多いので平日に関しては、そこまで一緒にいるわけじゃなかった。
それだけに平日は何となくの寂しさを感じていたわけだが、自分の部屋には自分だけ。それが当たり前なのに、何故か知らんがここに彼女が勝手に不法侵入していたことばかり思い出すようになっていた。
開いたままで閉じたといえば、窓の鍵はここでさよりとキスをしたあの日から、窓の鍵を閉めっぱなしにしたままである。それというのも隣の家は空き家だったことが判明し、隣の窓から俺の部屋に侵入して来ていた鮫浜は本物の不法侵入だったことに、恐怖を感じてしまったことが関係していた。
夜であっても、隣に住んでいれば明かりは漏れてくるはずなのが、まさかの空き家説には驚くしかなかった。どうせ隣には誰もいないということで、窓は用心の為に鍵をかけたままにしていた。
ふと、何となく気になって窓の鍵を久しぶりに開けて見ることにした。窓を開けると、すぐ目の前には電気の点いていない暗闇の部屋が見えていた。あの部屋は確かに鮫浜の部屋だったはずなのに、どうしてなのか。
「鮫浜? まぁ、いないよな。むしろそんな暗闇の部屋にいたらマジで怖いけど」
独り言を言いながら、窓を閉めてベッドにダイブしようと振り向いた時、彼女は声をかけてきた。いやいや、怖いぞ。もしや背後霊かな?
「湊くん……」
「さ、鮫浜……か? え、マジで?」
「駄目。振り向いては駄目」
「え、えーと……」
「ふふっ、キミの背中は素敵だね。さよりが夢中になるのが分かった」
「そ、それはどうも」
これは何の始まりかな? 暗闇の部屋には人影は無かったし、そもそも空き家なんじゃなかったのか? しかし、本当に久しぶりに話をしていることに俺は、背中が……ではなく背筋がゾクゾクしていた。




