101.ダークネス ストリーム⑤
「んむむ……分厚い板が硬い……ハッ!?」
「気が付いたか、湊」
「あ、浅海か。って、何で俺の横に寝ているのかな? もしや一線を越えてしまったとかじゃないよね? それは何というか、どういう顔をすればいいのか分からないんだけど……」
「俺はそれでもいいけど、湊には他に想っている子がいるだろ? 俺じゃダメだよ」
「いいのかよ! いや、うん……悪いな」
いくら美少女姿な男の娘でも、それはバッドエンド。俺のことが好きと言ってくれているのも、あくまでも男としての好きであって、恋愛の好きじゃないのだ。それだったら別な話になってしまうぞ。
「――で、俺は落とされて浅海に抱っこされたわけか」
「あゆさんは遠慮しない子だから、ごめん。それと、池谷さんのこと謝るよ」
「あ、あぁ。浮間の野郎は今どこに? まさか消したか?」
「いや、あゆさんに手を出したわけじゃないし、放置してる。だけど、湊に下手なことをしないように監視はさせてもらってる。彼は舟渡よりも悪そうだからね。その時は――」
「なぁ、浅海は法を犯す組織の人間なのか?」
せっかく二人きりにしてもらったんだ。ここで聞いておこう。友達だからそういう隠し事は嫌だ。
「そうだと言ったらどうする? 湊は俺と縁を切る?」
「面白い冗談だな。浅海は俺が認める男の中の男の娘だ! 一緒にいてこれだけ安心出来るダチはいないし、ドキドキしてしまうのも事実だ。俺を見くびるなよ? たとえソッチ側だとしても切らねえし、嫌いになんてならない。俺を助けてくれたこともあるだろ? だけど、何でかなって思ってるだけだ」
「はは、あははっ! 湊はやっぱり俺のダチだなぁ。だから好きなんだよ。俺を助けてくれたのも、美少女姿だったからってのも分かるけど、男と分かっても引かなかったのは湊だけだ。そんな湊に嘘は言えないか……いいよ、教えるよ。俺はソッチ側じゃない……すでに知ってる通り、あゆさんの護衛役。家は普通」
美少女姿の浅海に一目ぼれして、抱きついたら男だった件。後に引けなかったのが真実だけど、コイツはいい奴過ぎた。見てて実際その辺の女子より綺麗だし、見惚れてしまうからな。ぼっちの俺には出来過ぎた奴だ。
「なるほど……じゃあ、さよりと因縁ってのは何でだ?」
「それを聞いても彼女を嫌いにはならないって約束できる? まぁ、好きを通り越した行為をした二人だから心配なんてしてないけど。俺としては出来れば、あゆさんとそういう関係になってもらいたいし」
「嫌いになりそうなひどいことでもしたか?」
「下らないことだよ。それを聞いても、そんなことでってことかもしれないし」
浅海も大概闇を抱えてたんだな。単なる美少女男子ではなかったわけか。さよりのことだから、実はお嬢様じゃなくて、俺と同じ庶民ってことだと思うけどな。それとも浅海にとっては屈辱的なことでもしたか?
「池谷さより……いや、本人は俺のことなんて覚えていないだろうね。彼女は直接手を下したわけじゃないし。あの時の湊がすごく格好良かったから俺はその前後のことを忘れられた。まぁ、俺からはこれ以上言わないでおくよ。湊になら彼女から聞けると思うし。俺は誰が聞いているかも分からない保健室で、こんなことを言うつもりは無いかな」
「へ? 保健室にも監視カメラが? じゃあ浅海とあんなことやそんなことも出来ないのか!? しない、しないぞ? はっはっは……」
「湊には暗い話をしたくないかな。俺なんかのことで暗くなって欲しくないし、池谷さんとせっかくいい感じになってるのに、俺は言わないでおくよ。ごめんね、湊」
「いや、俺は別に……」
「これからもよろしくな、湊。好きだよ……チュッ――」
「――!? ふぁっ? え、ちょっと? い、今の頬への感触はひいいいいいい!」
「先生には言ってるし、湊はゆっくりしてていいよ。じゃあね」
いやあああああああ! キ、キスされてしまったじゃないか。嫌じゃないけど、とうとう禁じられた道が開けたのか? なまじ美少女姿だから大いなる勘違いが生まれてしまうぞ。何てことだ!
「……コンコン」
「ん?」
「み、湊……い、いる?」
「いません」
「嘘つくなこの野郎! 入るからねっ」
あれ? 今は授業中じゃないのかな? 浅海とすれ違わなかったのだろうか。因縁の正体は結局話してくれなかったけど、俺を困らせたくなかったってことなんだろうな。いやいや、最後のキスは別の意味で困ってますよ?
「お前、授業は?」
「さより!」
「さよりさん、授業は?」
「体育だし、わたしは見学だから。保健室に行くって伝えたの」
体育で見学か。コイツは運動神経無いのか? それとも暴力性に反して、体が弱いとかかな。
「湊はどうしてあゆにあんなことされるの? どうして抵抗しないの……わたしなんて、あんなの簡単に出来ないのに」
「あー……鮫浜はああいう子だからな。彼女のキスはやばいんだよ。闇に吸い込まれるっていうか……」
「ふぅん……? わたしとのキスよりもあゆのキスの方が好きってこと?」
「そうじゃなくて……なんていうか」
「――湊ぉ」
「はいはい、駄目だ。しないぞ。さよりが嫌いな学則違反だ。学園内ではしない」
「あゆとはしているのに?」
「あれは突発的だ」
すっかり甘々である。可愛いけど、浅海の後にそういう気分にはなれん。浅海があんなことをしてきたのも意外だったし、さよりのことをあやふやにされたのも何とも言えない気分だ。そう思っていたのにここで聞いて来るか、それを。
「……わたしのこと、好き?」




