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52 犯人の登場

 その時、根来と祐介は、静けさの中に響いてくる足音を聞いて、慌てて立ち上がった。誰かがこちらに歩いてくる。

 その足音はだんだんと大きくなり、暗闇に馴染んだ目によって、鍾乳洞の曲がり角を曲がって、一つの人影がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。その人影の片手には懐中電灯が、もう片手には日本刀のようなものが握りしめられていた。

 根来と祐介は何も言えないまま、その光景を食い入るように見つめていた。

 地面に置かれた懐中電灯が照し出した、その人影は、洋服を真っ赤な血に染めた、葉月未鈴の姿だった。

 未鈴はもはや、あの能天気なお嬢さんでは決してなかった。はっきりとした意志をもった瞳、迷いのない足取り、不気味な落ち着きを持って、佇んでいた。

 一言で言えば、女性版宮本武蔵というような、激しい闘志をみなぎらせているのであった。

「あなたが支倉双葉さんですね?」

 祐介が一言、尋ねる。


 未鈴は、じっと祐介の方を見ると頷いた。

「探偵さん。事件の真相にお気付きですか……」

 未鈴はそう言うと、祐介が身を乗り出した。

「あなたが五人を殺害したのですね? トリックも全て解けたつもりです。あなたのその姿を見れば、どうやら我々の推理通り、犯人はあなたで間違いないようですね」

 未鈴はさもつまらなそうな顔をした。

「あなた方に事件の真相が気付かれたところで、私にとっては大きな問題はありません。私は警察から逃げおおせることが目的ではありませんでした。この島に巣食う物欲にまみれた悪魔たちを地獄に突き落としてゆけばそれで良かったのです。はじめから、私が支倉双葉だと警察に気付かれるのは時間の問題でした」

「だとしたら……なぜ、トリックを使ったのですかな?」

 根来の言葉に、未鈴はさもつまらなそうな顔を浮かべた。

「あなた方は確か、トリックが分かったということでしたね。それならば、お気付きのはずです。私は目的を達成するのに最低限のことしかしていません。私ははじめから、英信と元也の二人を殺害すればそれで良かったのです。しかし、その前に埋蔵金への欲望に溺れた東三をも殺害しなければならなかった。三人の殺害という目的を達成しきるまでに、私の身柄が拘束されるようなことだけはあってはならなかったのです」


 つまり、未鈴はこの三人を殺害する為に、あの探偵風な男と、富美子まで殺したというのである。

「動機はなんだ……なぜ、そこまでして、あの三人を殺害したかったんだ……?」

 根来は恐る恐る尋ねた。

 しかし、未鈴はそれに答えなかった。

「あなた方に、それをお答えすることは出来ませんね」

「あなたは……埋蔵金が欲しかったわけではないのでしょう……?」

 祐介がそう言うと、未鈴は祐介の方をじっと睨んだ。

「もう一度言いましょう。あなたは埋蔵金が欲しくてこの犯罪を行ったはずはない。なぜならば、あなたは葉月未鈴という偽名を使って、この犯罪を行ったからです。こんなものは警察が到着して、身元を洗えば、すぐに偽者だということはばれてしまいますよ。だとしたら、殺人を犯して埋蔵金を手に入れても、あなた自身が逮捕されてしまう可能性の方がよっぽど高いのです」

「その通りです。探偵さん。素晴らしい頭脳をお持ちですね。私の殺人の目的は埋蔵金ではありません。埋蔵金に魅せられた悪魔たちを地獄に突き落としてゆくことでした……」

 そう言う未鈴の表情には、少しの迷いも浮かんでいなかった。


「埋蔵金に魅せられた悪魔たちと言うのは、英信さん、元也さん、そして東三さんのことですか? どうして、彼らが埋蔵金に魅せられた悪魔たち、なのでしょうか……?」

 その言葉に、未鈴は少し黙ると、しばらくして笑顔を浮かべた。

「そんなことを尋ねて、あなたはどうするつもりですか……?」

「どうするつもりもありません。ただ僕は真相に興味があるのです」

 と探偵ものによく使われる、かなり傍迷惑な理由を平然と喋り出す祐介。

「面白い方ですね……良いでしょう。お話しします。全ての元凶はこの埋蔵金と祖父明安の遺言でした。埋蔵金を発見した者が、全額相続できる……このような遺言を祖父が残した理由は、確かに私たち子孫のことを考えたものかもしれませんでした。でも、私の父、和潤はその遺言の為に英信たちに殺されてしまったのです……」

 その時、未鈴すなわち双葉の瞳に深い憎悪が立ち昇るのと同時に、深い悲しみが潜んでいるのを、祐介は見逃さなかった……。

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