37 双葉の母
すみれはその後、甲府へ戻ると特急あずさに乗って新宿へ向かった。そして、支倉双葉の母の実家があったという東京都の王子駅へ向かった。
警察署に赴いて話を聞く。すると驚くべき事実が上がってきた。
支倉双葉の母、秋子は七年前の和潤の死の後を追うようにして自殺していた。すみれはこのことを知った時、戦慄した。
秋子はその前から、借金の問題でひどいノイローゼになっていた。それらを和潤が支払うという形になっていた。ここに秋子の和潤への依存的な傾向が生まれてしまったという。和潤は和潤で、秋子のことをどうにかしたいという気持ちもあったのだろうが、これが結果的には、和潤の死に伴って、秋子まで自殺をするという事態を生み出してしまったものらしい。
すると双葉は、和潤の死によって、父のみならず、母までも失ってしまったのである。
したがって、双葉が「兄を探している」と言ったのには、切実な思いがあったのだろう。
すみれは、父が語っていたことを色々と振り返る。父はまさに今、ある重大な勘違いをしていることだろう。それを伝えなければ、そこに危険が待ち受けているのではないか。
すみれは、粉河に電話をかけた。
「もしもし、すみれです!」
『ああ、すみれさんですか。どうです。順調に進んでいますか』
「順調どころではありません。まず、和潤さんはやはり殺されたんだと思います」
『殺された……誰にですか』
「英信さんか……元也さんか。それは分かりませんが、この埋蔵金をめぐって和潤さんは、英信さん側に暗号を渡さないという態度を取っています。これがトラブルとなって、和潤さんが殺されたと想像できます」
『あくまでも想像の域を脱してはいませんが……それで?』
「和潤さんの死は、さらに双葉さんのお母さんの自殺を引き起こしました。これによって、双葉さんはほぼ同時に父と母を失っています」
『なるほど……』
「さらに、双葉さんはその後、兄を探して、潤一さんと親しくなっています。この潤一さんはこの前、病院で亡くなりました。そう考えると、双葉さんは立て続けに父と母と兄を失っています」
『そうですね。不幸としか言いようもないです』
「先ほど、潤一さんのおじいさんとお話しをしたのですが、私はこの双葉という人物のことを勘違いしていたようなんです。でも、父も同じように勘違いをしていたと思うんです……」
しばらく、向こうは黙っていたが、
『なんですか、その勘違いというのは……』
「それを言う前に、調べてほしい人物がいるんです」
『誰ですか……』
すみれはある人物の名前をあげた。そして、その後にもう二、三、重要なことを語った。
『分かりました。調べましょう。ことによっては、これは私たちも島に向かわなければなりませんね……』
「ええ……その時はお願いします」
すみれは電話を切った。
何か恐ろしいことが起きている気がしてならない。
すみれは、居ても立っても居られなくなって、駅で新潟県ゆきの新幹線の切符を購入した。こうなったら、島へ向かうしかない。そして、今、知っていることを一刻早く父に伝えるのだ。
すみれもまた、根来や祐介と同じく、犯人に王手をかけようとしているのだ。
しばらくして、粉河からも電話がかかってきた。
『すみれさん、島に行く気ですか』
「はい」
『私も行きます。すぐに新潟県行きの切符を買います。港で落ち合いましょう』
「許可が出たのですか?」
『出ました。今、他の刑事が例の人物のことを調べています。それには時間がかかりそうなので、私は先に新潟県に向かおうと思います』
「そうですか。それじゃ、港で。漁船も手配した方がいいですね」
『新潟県に向かいながら、手配も済ませます。とにかく、根来さんは無茶をします。放っておけません』
「それは同感です」
『私も根来さんの部下ですから』
「私は根来拾三の娘です!」
二人は、せっかちに動き始めた。そして、青月島へと向かうことになったのである……。




