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34 大きな勘違い

 根来と祐介は、みんなにこの事件のことを伝える前に、もう一度、第一の殺人現場へ向かうことにした。

 なぜ東三は密室で殺されたのだろうか。また、犯人は何の為に東三を密室で殺したのだろうか。つまり、そこにどのような動機があるのかも分からないのである。

 二人は、まず殺人現場のドアを確認する。その時に祐介は言った。

「このドアの足元に拭かれていない血痕が残っていましたね」

「そうだな。犯人はスリッパか何かで、廊下に一歩踏み出して、そこで、自分のスリッパに血がついていたことに気付いて、スリッパを脱いだのだろう。そうすれば、一歩だけ血痕が残っているということもありうる」

「その時、血を拭き取る余裕はなかったのでしょう。また現場の電気は付いたままになっていました……もしも犯人が死体の発見を遅らせたければ、部屋の電気を消していくはずですが、ね……」

 根来は眉をひそめて、祐介の顔を見た。

「どういうことだ」


「犯人は、殺人現場から一刻も早く逃げ出したかったのかもしれません。血を拭き取ったり、電気を消したりするような余裕がなかったのでしょう……しかし、もしそうだとしたら、犯人に、現場を密室にする余裕などあったのでしょうか?」

 そんなことを言われて、根来はなんだか背筋がゾーッとした。

「しかしな、現に密室だったのはお前もその目で見ているだろう……?」

「ええ、確かにそうです。しかし例えば、紐や針を使ったトリックを仕掛ける時間的な余裕はまったくなかったと考えられます。犯人はおそらく、そのまま現場から逃げ出したのです……」

「馬鹿な……じゃあ、誰がどうやって密室を創り出したんだ。自然にできたとでも言うのか……」

 それは根来の皮肉だったに違いない。しかし、祐介にはその「自然にできた」という言葉がやけに引っかかったのであった。

 祐介はドアノブを見ている。ドアノブの真下にシリンダー錠がはめ込まれている。そういえば、この裏側のドアノブに、なぜか石鹸の入ったビニール袋がかけられていたな……。

 もう少しで何かが分かりそうな気がするのだが、見えてこない。


「もう良いでしょう。第二の殺人について、考えてみましょう」

「そうか。第二の殺人はあの浜辺で起こった……」

 根来は思い出すように言った。この殺人には全員にアリバイがあるのだ。誰もあの浜辺を往復することはできないのである。

「根来さん。僕たちは何か恐ろしい誤解をしているのじゃないでしょうか」

 祐介がそんなことを真剣に語るので、根来はいよいよ気味が悪くなった。

「よせよ、怖がらせるのは。なあ、第三の殺人はどう見る」

 祐介は考える。そして呟く。

「英信さんは本当に死んでいるのか、それともまだ生きているのか。岸壁の上には、血が残されていた……。そして、不自然に残されていた上着と靴……」

 祐介の思考はさらに進む。ダイイングメッセージの残されていた第四の事件……。果たして「▽▽」の意味とは何だろうか。

「根来さん。犯人に王手をかけるには、もう一歩、情報が足りません。それに僕たちには何か、根本的な勘違いがあるような気がしてなりません」

 根来は、その言葉にゆっくりと頷いた。

「確かに、何かが違うような気がするんだよな?俺たちは、何か大きな勘違いをしていたのかもしれない。しかし、それが一体何なのか……」


 祐介はしばらく考えていたが、ようやく重い口を開いた。

「根来さん。この辺りで事件の推理は一旦、中断して、犯人の顔を直に拝むといたしましょう。犯人は今日、埋蔵金の場所へと向かうでしょう。それにはちゃんと確信があります。そこで、犯人の顔をこの目で拝んでやろうと思うのです」

 祐介の言葉に、根来は頷く。

「だがな、それはかなりの賭けだぞ。それに、犯人が俺たちの姿を見たら、警戒をして、埋蔵金探しをやめてしまうかもしれない……」

「その通りです。だから決して悟られてはなりません。しかし、犯人にとっても埋蔵金を見つかるチャンスは今日と明日しかありませんから、少なくとも今日中には行動を開始するでしょう。これだけの犯罪を犯すような大犯罪者です。チャンスを逃すはずはありません。それに一度、警察が到着すれば、それこそ埋蔵金探しをする余裕もなくなりますし、島外に戻ってしまったら、またこの島に来るには、また漁師を雇わなければなりません。とても、秘密裏に探せるものではなくなってしまうのです……」

 祐介の目には、全てが見えているように思えた。

「言われてみれば、そうだな。七つ半……犯人は今日の四時に、埋蔵金の在り処を特定するんだろう。そして、すぐに埋蔵金を探しだすはずだ。俺たちは、それよりも先にその埋蔵金が隠されている場所にたどり着かなればならない。そして、埋蔵金の隠し場所からその面を拝んでやるとしよう……」

 とそう言う根来の目には闘志が燃えていたのであった……。

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