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クラスの四割はどこかの世界を救いに行ってます。   作者: 宇部 松清
第1章 非日常的、日常生活
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「俺、呼ばれたから行ってくるわ」


 異世界へ最初に呼ばれたのは、剣道部の国重礼二だった。彼は愛用の竹刀を担いでそう言うと、迎えの者らしい鎧武者と共に教室を出て行った。どうやら彼が呼ばれたのは戦国時代らしい。おいおい、何でも有りだな、と教室内はざわめいた。

 僕はそれよりも、礼二のせいで未来が変わっちまったらどうするんだ、ということで頭がいっぱいだったのだが。どうして誰もそこを指摘しないのだ。


 僕は礼二が去った翌日、それがどうしても気になり、ダメ元でスマートフォンの無料通話アプリ『COnneCTコネクト』を立ち上げ、彼にメッセージを送ってみた。きっと返事は来ないだろう。だって、戦国時代にネット環境があるわけがないのだ。それでもじっとしていられなかった。ダメ元ってやつだ。

 程なくして、僕のスマートフォンから『COnneCT』の着信音が鳴り響く。画面に国重礼二の名前が表示されているのを確認した時、僕はベッドから転げ落ちんばかりに驚いた。何かの間違いかいたずらかと、震える手で『応答』をタップする。

 受話口から聞こえてきたのは「おぉ、紀生。元気かぁ」という礼二ののんきな声で、僕は何だか拍子抜けしてしまって、はははと力なく笑った。


 彼の話では既に3年の歳月が流れているようで、僕らでも知っているような名のある武将も既に何人かは討伐してしまったらしい。僕は慌てて日本史の教科書を引っ張り出し、歴史が変わってしまっていないか確認したが、何一つ変更された部分はなかった。


 つまり、礼二はパラレルワールドにいるのである。


 なぁんだ、そんなことかと僕は胸を撫で下ろした。

 彼に続いて、その後11人が異世界に呼ばれていったが、そのどれもがパラレルワールドだった。そして、なぜか全員の世界で『COnneCT』は使用可能だった。正に、コネクトである。すげぇな、日本の通信技術。


 そして、僕が礼二に連絡を取ったその翌日、クラス委員の三ツ橋が昼休みに全員を集めて、それぞれが願っていたことの発表をしよう、と提案してきた。


 隼人と古ヶ崎の時のように、何かが起こってからだと混乱してしまうからだ。事前に知っておけば慌てずに対処出来るだろうというのが彼女の言い分である。それは確かに一理ある。

 まぁ、対処出来るものであれば、だが。


 ただ、難色を示す者は多かった。F1レーサーになりたいとか、パティシエになりたいとか、そういう類の願いではなく(まぁそれも結構恥ずかしいけど)、教室を占拠したテロリスト集団から皆を守りたい! などという中二病丸出しの願いである。話すわけないだろ……。誰もがそう思っていたと思う。


「俺、ロボットに乗りたい」


 お互いの腹を探り合っている嫌な空気の中、さらりとカミングアウトしたのは英会話同好会所属の田村英輔だった。彼は銀縁眼鏡をくい、と上げ「そんで、宇宙空間で戦闘するんだ。恰好いいだろ」と笑う。

 そしてその彼の無邪気な笑みに触発され、ポツリポツリと数人が口を開いた。こうなると、何となく最後に残るのが恰好悪いような気になって、残りのやつらも争うように自身の願いを述べた。


「はい、最後は最上川ね」


 僕はその波に乗り遅れてしまい、このこっぱずかしい『中二病願望告白大会』のトリを飾ることになってしまったのである。


「僕は、魔王になりたい」


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