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これはさすがにおかしい、とクラスの誰もが思った。
人格の入れ替わりは2人の質の悪いいたずらで片付けられるとしても、こんな辺鄙な田舎の私立高校に二度もテロリスト集団がやってくるわけがない。もっと狙うところがあるだろう。
僕らは考えた。
しかし、無い頭をいくら捻っても、また、似たり寄ったりの頭脳が30人集まったところで無駄なのだった。
あぁ、僕らはこれからもテロの脅威にさらされるのだろうか。
クラス内に絶望的なムードが漂ったその時、井波がポツリと言ったのだった。「俺、夢だったんだよなぁ」と。
――夢? クラスの大半が首を傾げて井波を見た。
でも、残りの数人はうんうんと深く相槌を打ったのである。
どういうことかと井波を含め、同意したやつらを問い詰めると、彼、彼女らはこう言うのだ。
「教室にいきなり武装テロ集団が入ってきて、それを恰好よくやっつけるのって、何か良くない?」と。
何か良くない? じゃねぇよ。
でも、言われてみれば、そういうのに憧れる者は多いと聞く。どうだろう、皆さんも一度くらいはこの手の妄想をしたことがないだろうか。
つまり、そういうことだった。
これまでに『こうだったらいいのに』『こうなったらいいのに』と妄想したり、強く願ったことが現実のものとなったのである。
隼人と古ヶ崎も同様で、『女子(男子)と身体が入れ替わったらいいのに』と願ったことがあったそうだ。隼人は正直、自由に女子の裸を見たり、あんなことやこんなことをしたい! といった如何わしいことが目的だったらしいのだが、古ヶ崎の方は純粋な好奇心だったらしい。ほんとかなぁ、と僕は疑っている。
何にせよ、理由はわかった。わかったが、だからどうだというのか。第一、国家転覆を図るような武装テロ集団がこの平和な日本(もっと言えばさらに平和過ぎるほど平和なこの秋田県本荘由利原市)にやって来たのである。警察なり自衛隊なりが対処すべきではないのか。それに、解決した(といっても、校庭に転がしておいたら勝手に消えた)後も、テレビ局や新聞社が取材に来ることもなかった。これもおかしくないか、と僕が口にすると、クラス一目立たない三嶺顕子が真っ赤な顔でおずおずと挙手した。
「ごめんなさい。私のせいです、たぶん」
彼女は、『外界から完全に隔離された教室』を願ってしまっていたのだった。
かくして、僕らは外界から完全に隔離された教室で、クラスの誰かが作りだした空想のテロリスト集団からの襲撃を定期的に受けながら高校生活を送っている。もちろん、僕らと担任教師はこの教室から出入りすることは可能なので心配はいらない。ただし、担任である古典担当の高階先生以外の教師は僕らの教室に出入りすることは出来ないため、古典以外の授業は他の教室で行われることになった。ちなみにテロリストは高階先生の授業の時しかやって来ないため、僕らの古典の授業は一向に進まない。
そして現在、このクラスは先述した通り、18人しかいない。残りの12人はどこへ行ったのか。
季節外れのインフルエンザ? 部活動の総体? こんな高校生活に嫌気が差して退学?
どれも違う。
正解は、『異世界からお呼びがかかって、そっちを救いに行っている』だ。
どうやら僕らの『願い』は、現実的な『IT会社社長』や『イケメンと結婚して専業主婦』といったものではなく、中二病的な願望しか叶えてもらえないらしい。そして、驚くべきことに、クラスの全員がやはり何かしらの中二病的な願望を持っていたのである。
そういうわけで、このクラスは現在欠席中の、
異世界で救世主となった者が8名、
異世界で人型戦闘用ロボットのパイロットになった者が4名の計12名と、
異種族との遭遇を果たした者が5名、
テロの脅威からクラスを救える者が4名、
天才ミュージシャンが3名、
人格を入れ替えられる者が2名、
アイテムで自在に変身出来る正義のヒロインが2名、
魔王が1名
スーパーハッカーが1名、
高校生探偵が1名の計18名、合計30名で構成されている。
――僕? さぁ、僕はどれでしょうね。




