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クラスの四割はどこかの世界を救いに行ってます。   作者: 宇部 松清
第5章 企画会議と猛特訓
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「あのさぁ、そういう大事なことはちゃんと教えてくれないとさ」


 無事ライオネル達と合流した僕は当初の予定であったホーフンの町にいた。視察を終え、ラグーンに向かう道すがら、彼らにお小言をかましている。


「申し訳ありません」


 僕の肩の上にはギャロフェがちょこんと座っていて、僕と彼らをおろおろと交互に見つめている。そろそろ彼にももっとすっきりした名前を付けてやらないとなぁ、と思った。


 勇者の言ったことは本当だった。


 つまり、彼をあそこまで追い詰めたのは、やはりライオネルとコーナだったのだ。


「やけに『ただの』って部分を強調するなぁとは思ってたよ、僕も。だけどさぁ、まさか2人が遠い遠いとーおい親戚だなんて思わないじゃん?」

「申し訳ありません、魔王様」

「申し訳ありやせん、魔王様。でも、結婚は出来るから、心配しないですよ!」

「コーナ、君はちょっと黙ろうか、うん」


 コーナはえぇ~? と言って口を尖らせ、首を傾げた。そんな仕草をされると相当可愛いのだが、一応、いまは勇者討伐の根幹に関わる真剣な話をしているのだ。


「じゃあさ、やっぱり2人がやればいいじゃん」


 僕もコーナに負けじと口を尖らせてみる。そうだよ。2人があそこまで追い詰めたんだからさ。やっぱり僕なんていらないんじゃん。僕なんて、王宮でひたすら判子押してりゃいいんでしょ。


 すっかり拗ねてしまった僕に、ライオネルはもう何度目かわからない謝罪の言葉を述べる。


「申し訳ありません。さすがにそれは出来ません」

「何? 形式上、僕がやったってことにしないとまずいってこと?」

「そうではありません。魔王様、そんなにへそを曲げないでください」

「だいたい、親戚なんだったら、敬語なんて使わなくたっていいじゃん」

「そういうわけには参りません。親戚とは言っても、ぎりぎり血が繋がっているというだけなんですから」

「でも勇者をあそこまで追い詰めてたじゃないか」

「我々が出来るのはあそこまでなのです」

「は?」

「ですから、どうしても止めだけは刺せないのです」

「何それ」

「勇者が瀕死状態になると発せられる特別なオーラの力によって、そこから先は手出しが出来ないのです」

「てことは?」

「やはり、最終的には魔王様のお力が無いと……」

「……わかったよ」


 僕は不承不承了解する。

 やっと見えてきたラグーンの入り口で、肩の上のギャロフェをライオネルに託した。コーナは射抜くような視線で彼を睨みつけている。

 どうせ、ジャックフロストごとき下級魔族が魔王様の肩に乗るなど、とか考えているに違いない。僕はライオネルに目配せし、彼女が彼を傷付けたりしないようにと無言で依頼した。ライオネルは口元だけで軽く微笑み、小さく頷く。僕と彼はこれくらいのことならこのようにやり取りが出来る。ライオネルは胸ポケットにギャロフェをねじ込んだ。成る程、そこなら安全だ。コーナに彼の胸を突けるほどの技量は無い。


 最も、彼の方では、魔族の最高位である魔王の肩の上から解放されたかと安心していたところへ、それより格下とはいえ、魔王の第一秘書且つ遠縁であるライオネルの胸ポケットへねじ込まれるという高低差のあまりないジェットコースターである。彼の安住の地はどこだ?


 僕はそんなギャロフェの心情をほんの少し慮りつつも、すたすたとラグーンへ向かった。僕に同行するというのなら地べたを歩かせてはかなりのペースダウンが見込まれてしまうため、誰かに運んでもらうしかない。コーナに預ければ恐らく八つ裂きだろうし(一応男だよって説明はしたんだけど)、だったら、僕かライオネルなのである。こればっかりは譲れないので慣れてもらうしかない。


「はぁ~」


 相変わらず、ラグーンの湯温はきっちりと40℃に保たれており、疲れた身体に心地良い。僕は大きく深呼吸し、辺りを見回した。何か彼の名前のヒントになるものは無いかな、と。


 そう僕はこれで案外名付けが苦手なのである。


 ライオンに似ているから、ライオネル。そして、イオーネ。

 コーナの尻尾蛇達はたまたま鞄に入っていた源氏物語から。

 それにコーナに至っては、その時飲んでいた紙パックのジュースに書かれていた『中身が飛び出しますので、コーナーを持ってお飲みください』の『コーナー』から取ったのだ。これはもちろん彼女に内緒である。せっかく気に入ってくれているのだ。水を差すわけにはいかない。


 ちなみにリウナス隊長は、会話の中で彼が「理由などありません」と言ったのから着想を得た。『理由など無い=理由無し=理由無す=リウナス』である。我ながら酷いと思う。しかし彼もこれをいたくお気に召してくれたのである。以下略。


 さて、どうするかなぁ。僕は湯を両手ですくい、顔を洗う。ちらちらと雪が降って来た。雪見風呂とはまた風情がある。僕が成人だったら女将に熱燗を頼んでいるところだ。「んー、思い切って、いっそシンプルに……」


 僕は大きく息を吸って、ちゃぷんと湯に潜った。やはり全身しっかりと浸かった方がいいだろうと、最後には必ずこれをやるようにしている。効果があるかどうかは知らない。



「これから君の名前は『シロ』だ」


 ほかほかと頭から湯気を上げ、僕はライオネルの胸ポケットで若干のぼせ気味のギャロフェに言った。やはりそこは相当暖かいらしい。『霜男』であるジャックフロストには少々酷な環境かもしれない。そうなると、やはり肩の上がベストだ。誰の? 僕でいいの? 僕は良いけど。


「わっ、私のようなものにまで名前をいただけるとは! きょっ、恐悦至極にございますっ!」


 彼はライオネルのポケットの中で手足をばたつかせ、何度も頭を下げた。こんなペットみたいな名前で本当に良かったのかなぁと自問するが、口に出してしまった以上、もう訂正は出来ない。


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