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クラスの四割はどこかの世界を救いに行ってます。   作者: 宇部 松清
第3章 それ行け凹凸凸視察団! ~フラグ回収祭~
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 まず最初は王都キャヴィック。

 王宮から一歩外へ出る。僕はいままで真向かいにあるカフェ・ペルコまでしか行ったことが無い。ほんの少しの高揚感と共に歩みを進めていくと、僕に気付いた子連れの魔族達が足を止めた。極力目立たない恰好をしているつもりなのだが、やはり顔を見られたら即アウトのようだ。


「魔王様!」


 そのうちの一人がそう叫び、彼らは子どもを抱えて小走りでやって来た。


「魔王様、ウチの倅の頭を撫でてやってください!」

「あっ、ずるいぞお前! 魔王様! ウチのっ! ウチの倅にもお願いしますっ!」

「えっ? ちょっ、ちょっと?」


 ぐいぐいと僕の顔の前に差し出されるのは彼らの息子と思しき魔族の子達である。一体何て種類の魔族なのだろう。

 真っ赤な身体にくるくると縮れた髪は黒く、金たわしのようなその頭のてっぺんには小さな角が一本生えていた。鬼ってことでいいんだろうか。鬼だとすると、大和島――僕らの世界で言うところの日本からの移住者か旅行者だろう。

 僕は恐る恐るその小さな鬼の子どもの頭に触れる。金たわしのように見えたその髪は思ったよりも柔らかかった。軟骨のような、少し弾力のあるその角に気を付けながらゆっくりと撫でると、彼はふにゃあと笑った。小さいが立派な牙が見える。もう一人の子どもの頭を撫で終えると、その親達は何度も何度も頭を下げ、我が子を愛おしそうに抱きしめた。


「ありがとうございます! ありがとうございます! これでこいつも立派な鬼になれます!」


 やはり鬼で間違いなかったのだ。


「大事に育ててね。子どもは国の宝だから」


 僕はイオーネのプレゼンを思い出し、そんなことを言ってみる。しかしここはキャヴィックだ。人間達がここまで攻めてくることはまず無いだろう。

 すると、彼らはその場に膝をつき、涙を流した。「有難きお言葉……!」


「えっ、いや、いいよ、そんなことしなくても。膝、痛いでしょ。ていうか、あんまり騒がれると……」


 あまりここで民の注目を集めてしまうと、やりづらい。せっかく少人数で小回りが利くようにしたというのに。


「面を上げよ。魔王様はお忙しいのだ」


 背中を丸め、おろおろしている僕とは対照的にコーナはぴんと背筋を伸ばし、良く通る声で鬼達にそう言った。「はっ、はいっ!」


 いつものデレなんて微塵も感じさせない『団長モード』のコーナに鬼達は慌てて立ち上がり、深々と僕らに頭を下げると、何度も後ろを振り返りながら立ち去っていった。僕なんかよりも彼女の方が余程堂々としていて『魔王』のようである。


「あー、びっくりした」

「魔王様に頭を撫でられた子どもは無病息災、知勇兼備に育つと言い伝えられているのですよ」

「僕にそんな効能があっただなんて……」

「まぁ、迷信ですがね」


 まじまじと両手のひらを見つめる僕にライオネルはあっさりとそう言い放った。「参りましょうか」


 キャヴィックの視察は特筆すべき点は特に無い。

 僕は行く先々で呼び止められ、拝まれ、握手とサインとツーショット写真を求められ、怖いもの知らずの幼子からは抱っこをせがまれた。もちろん抱っこについても快く応じたのだが、親の方は真っ青な顔を(元々そんなような色の魔族だったけど)していた。いやいや持ちあげられる重さなら構いませんよ。さすがに2メートル強のサイクロプスの子どもは厳しかったので、抱擁で我慢してもらったが。


 キャヴィックの次は、近場の町村を回る。

 西の海岸沿いにあるケーフヴィ、ハーフナルを回り、アキュランに着いたところでその後をどうするか考えようと僕らは手頃なカフェに入って、作戦会議をすることにした。ライオネルはきちんと決めてから出発しようと言ってたのだが、早いとこ出発したかった僕は、そういう行き当たりばったりもいいじゃないか、と言ったのだった。

 もちろん、ただ単に『行き当たりばったり』と言ったのではない。ルートを決めたところで何が起こるかわからないし、その時その時で柔軟に決めようよ、と良い顔で言ったのである。


「西回りはスナイ氷河さえ抜ければ山もありませんし、ルートとしては楽なのですが、フォヴスに近いので危険かもしれませんね。その点東回りは安全ではあるのですがエライヴァ山脈を超えていかなければなりません」


 ライオネルはフロージア・アイランドの地図を広げ、その長い爪でゆっくりとルートをなぞった。

 コーナは僕の隣で許可無く右腕を絡ませ、ご機嫌な様子でジュースを飲んでいる。この会議に参加する気は無いらしい。


「まぁ、危険とは言っても我々がいるわけですから、どちらにするかは魔王様にお任せ致します」

「そう言われるとなぁ……。徒歩だったら西回りの方がいいかな」

「まさか。ここからは徒歩では無理ですよ」


 そう言って二通りのルートを交互になぞる。「グリフォンにしますか、それともケンタウロスに」


「人の身体がついてると何か罪悪感が半端無いからグリフォンで」

「かしこまりました。すぐに手配致します」


 そう言うとライオネルは胸ポケットから携帯電話を取り出し、席を外した。

 彼はこういう時でも執事服である黒の燕尾服を着ている。護衛でもあるはずなのになぜ鎧じゃないのだろう。まぁ、彼はコーナとやり合った時もこの出で立ちだったから、特に問題は無いのだろう。


「ねぇ魔王様。私の意見、よろしくて?」


 ズズズ、と音を立ててジュースを飲み干したコーナが口を開いた。


「よろしいよ。どうしたの」

「スティッキの森とオラフズは人間を恨んでる魔族でピリピリしてるから、私的にはおすすめ出来なくなくない、です」

「出来なくなくない……? つまり行かない方がいいってこと?」

「そう、それです!」

「そうかぁ。僕、パッと見人間だしね。ていうか人間だけどさ」

「そう、それ、それです!」

「だったら大変だけど東回りかなぁ」

「うん、うん」

「何、コーナ。君は東回りの方が良かったの?」

「険しい道の方が、楽しくてよ?」


 敬語というよりお嬢様の言葉遣いのようなコーナに僕は苦笑する。今度あっちの世界から簡単な敬語の本を買って来てやろうと思った。小学生向け……幼稚園児向けのって売ってるかな?


「魔王様、グリフォンの手配が完了致しました。して、ルートの方はお決まりでしょうか」


 電話を終えたライオネルが再び席に着く。僕は地図を指差して言った。「うん」


「いまコーナとも話してたんだけど、東回りで行こうと思うんだ」

「かしこまりました。では、そのように」


 方向性が決まったところで、僕らは軽食で小腹を満たしてからカフェを出る。


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