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クラスの四割はどこかの世界を救いに行ってます。   作者: 宇部 松清
第2章 金獅子、強敵に邂逅す
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「ではまず、1頁を開いて下さい。こちらは、現在のヘクラカトラの国勢状況です。ここから読み取れるのは、こちらでも問題になっているとお聞きしております、少子高齢化です。我々魔族は、人間と比べて寿命も長く、また、老年者ほど力が強いというのが全ての種族に共通しております。まぁ、つまり――そう簡単には死なないのです。ちなみに、老いても子や孫に面倒を見てもらうという習慣もありません。」

「へー、そうなのか」


 龍一は驚くほど素直に彼女のプレゼンに耳を傾けている。

 開かれたページには男女で色分けされた人口ピラミッドが載せられている。それは、中央の縦軸を挟んで男女別の棒グラフを使い年齢を表したもので、底辺が0歳、そして頂点が最高年齢者となっている。少子高齢化が進んでいるということは、日本と同じ、出生率が低く、高齢者の生存率が高い『つぼ型』になると思うのだが、それは、壺というより逆さにした円錐に近い。簡単に死なないにもほどがあるだろう。


「しかし、年を経るほど力が強くなるということは、当然、若ければ若いほど未熟ということです」

「まぁ、そうだろうな。俺らの場合だと若者が一番元気いいんだけど」

「元気はあるのです。腕力だけでいえば、トロル族やサイクロプス族のように老年者にも引けを取らない者もおります。ですが――」

「ですが?」

「一部の魔族にとって、最も強力な武器となるものとは、物理攻撃ではないのです」


 ここでイオーネは眼鏡のフレームに手を掛けた。漫画ならレンズがきらりと光っているところである。


「というと?」

「魔導士族であれば、魔法。ドラゴン族は火炎や冷気。その他、毒や麻痺、石化などの状態異常攻撃。物理攻撃に特化していない者達はこういった特技があります」

「ほうほう。俺もRPGよくやってたからわかるぜ」

「ありがとうございます。そして、それらの特技は、経験を積むことで発動するために、若年者は身に着けられていない者が多いのです」

「成る程なぁ」


 龍一は深く頷く。もはや彼に対するプレゼンとなっている。


「でもさ、それと少子高齢化がどう結びついていくわけ? やっぱりそっちの世界でも晩婚とか高齢出産とか、そういうの?」


 龍一は次の頁をちらちらと気にしながらイオーネに質問をぶつける。彼の素直な反応に気を良くした彼女はそこでニヤリと笑った。それを待ってましたと言わんばかりである。


「では、次の頁に参りましょう。我々の住むヘクラカトラがあるフロージア・アイランドの地図です。そこに赤で塗り分けられている地域がございますね?」

「おぉ、あるある」

「その『フォヴス』という地域が人間達の住む土地です。その昔、人間達がこのフロージア・アイランドを発見した際、既にここに住んでいた我々の祖先が分け与えたのだと、そう記録が残っております」

「へぇ。そんじゃ元々は魔族の島だったんだな」

「そうです。もちろん、この島だけではありません。人間達よりも古くからこの世界に誕生しておりますので、それは当然のことなのです。ただ、だからといって、この広い世界を我々だけのものとするわけには参りません」

「何か思ってたのと違うんだな、紀生のトコの魔族って」


 龍一は感心したように、ほぅ、と息を吐いてからしみじみと言った。


「だろ? 僕も慣れるまでに相当かかった」


 僕は呆れた声でそう返す。さて、このプレゼン、どの辺りで止めようか。


「――ですが、人間達の方では、そういう考えを持たない者も多くおりました。このフロージア・アイランドに限った話をしますと、東の海岸沿いにあるフォヴスとの境の村、ネスカプはもう随分と昔から人間達の襲撃を定期的に受けております。この村を自分達のものにすることが出来れば、ヘクラカトラ最大の氷河、グリムスの手前まで領土を拡大させることが出来ますから」

「ひっでぇな」

「そうです。ネスカプは他の町や村と違い、氷河や火山、森などに守られておらず、フォヴスに最も近い村です。ならば、ほとんどフォヴス側の土地ではないのか、というのが彼らの言い分でして。確かに立地だけを見れば彼らの言うことも一理あるのですが、だからといって、はいそうですかと明け渡せますか」

「そりゃそうだよな。もともと魔族さん達の島に後から来た癖に、なぁ?」

「えぇっ? あ、あぁまぁ、そうだね」


 ここで龍一が同意を求めてくる。僕は、この話をライオネルから何度も聞かされているので、ぼけっと話半分で聞いていたのだった。龍一はいつの間にか魔族を『さん』付けで呼び始めている。


「村民達も同様の考えですから、当然、抵抗します。幸い、ネスカプは上級魔族が多く住む村ですので、そう簡単に攻め落とされるようなことはありません。ただ――」


 そこまで言って、イオーネは目を伏せ、首を振った。


「それでも犠牲者は出ます。先に申し上げました、力の弱い若年者達です。もしネスカプがトロルやサイクロプスの村であれば、若年者であっても非力な人間達にやられることはないのですが」

「ということは……?」

「ネスカプは魔導士と、状態異常攻撃を得意とする人魚の村なのです」

「それじゃあ……」

「ネスカプにはもうほぼ繁殖能力の無い老年者しか住んでおりません。魔族の少子高齢化の原因は人間なのです」

「何てことだ! おい、紀生! いいのかよ、人間に好き勝手やらせてよぉ!」


 龍一はバン、と机を叩き、僕を睨みつけた。いや、人間にって、お前も人間だろうに。


「僕を責めないでよ。僕が王位継承した時には既にそうなってたんだ。いまはサイクロプスの精鋭部隊も派遣してるし、他の村に住む若い魔導士や人魚に声もかけてる。でも、紛争中の村に住みたいやつなんていないだろ。だから、この紛争が片付いたら好待遇で迎え入れる準備をしてるよ」

「そうか……」


 龍一はホッとした顔をしてイオーネを見た。話の続きを待っているようだ。その視線を受け取ったイオーネがまた口を開く。


「また、西海岸沿いにあるフォヴスの村、スルッツェですが、ここは我々が壊滅させました。ここの村民はスティッキの森やオラフズに住む魔族を度々襲撃しては彼らの持つクロナ――これは我々の通貨でして、人間達には大変貴重らしいのです――が、それを強奪しておりました。まぁ、それであれば、こちらとしても反撃するなどして人間達を殺してしまったりもするわけですから、痛み分け、といったところだったのです。しかし、ある日、集団登校していた初等学校の児童達全員が惨殺されるという事件が起きまして」

「何だよ、それ……」

「人間達には魔族の大人と子どもの区別がつかないのでしょうね。彼らよりもはるかに多い人数で攻撃を仕掛けてみれば、それがどうにも弱い個体ばかりだったとわかり、逃げ惑う子ども達を捕まえては……」

「もういいよ、イオーネさん。話すの、辛いだろ」


 お心遣い、痛み入ります、と言って軽く頭を下げたイオーネの目にはほんの少し涙がにじんでいた。いつもならこの事件も淡々と話す癖に。女性の姿になったからか、それとも、同情を引くための演技か。後者だとしたらとんだ女優である。


「とにかく、このようにして、少子高齢化が進んできているという状況です」

「由々しき事態だな、これは。どうするんだ、紀生? 魔王として、さ」

「どうするって……。魔王がやるべきことと言ったら1つだろ」

「1つ?」

「勇者討伐だよ」

「ああ、そっか!」


 お前、RPGよくやってるんじゃなかったのかよ。

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