#ex-07 That country was not able to give the correct answer after all.
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ロンドンからしばらく時は流れて、場所はニューヨークに移る。
無事、4人目の娘と長男が生まれたことにより、ハーマンの孫バカが暴走したり、第2期の嫁連中が暴走したりもしたが、ひとまずそれも落ち着いた頃。
国際空港で入国審査を受ける一団があった。
烏丸蘭――ではなく、榛葉蘭と秘書?の美原、それと絶賛荷物持ちをさせられ、一人カートを押している新発田、榛葉大洋とはるの夫妻の5人である。
「お父さん、大丈夫でしたか?」
「なーに可愛い曾孫に会うためだ。このぐらい」
「ファーストクラスでしたから何の負担もなかったですけどね」
「さすが我が息子だわ」
「あの、大臣――じゃなくて、榛葉さん。1人エコノミーだった私をもっといたわってもいい様な」
「仕方ないでしょう、元々美原しか連れていくつもりなかったんだから」
現在は大臣を止め、独自の人脈を使って倫人とともに新たな事業を起こして荒稼ぎしている蘭。美原と新発田は相変わらず蘭に雇われている。
「相変わらずすごいですよね、息子さん。4人で行くって伝えたらすぐファーストのチケットとホテル用意してくれましたし」
「我が息子のことながら引くわ」
「というか新発田さんどこに泊まるんですか?」
「え?宿もないんすか?」
「そりゃそうでしょう」
詠からは綴を迎えに行かせると聞いている。
ロビーを探すと幸いすぐに見つけることが出来た――というか、綴と隣の仮面をつけた怪しい少女を中心に人だかりができている。
「美原」
「ここで私ですか?!」
「そりゃそうでしょう」
美原が人を掻き分けて前へ進んでいく。
そして一番前に出ると、それに綴が気付く。
「あ、美原さん」
「あの、なんですかこの集まりは?」
「あー、えっと、これでも有名人なもので。お兄ちゃんがいればパパラッチとかは死ぬよりもひどい目にあわされるので来ないんですけど……あ、ナツメさん撤収します」
「わかりました」
人ごみを抜けて綴が蘭たちに合流する。
「おお、綴。また綺麗になったな」
「ですねぇ」
「お久しぶりです、おじいちゃん、おばあちゃん。それとお母さん」
「それで、ここからどうやって移動するの」
「あ、うん。ナツメさんが車用意してくれてるから、これでIMAビルまで行くよ」
「先に行って前に着けてきますね」
綴はその場を去ろうとしたナツメに数枚のメモリーカードを渡し、それを受け取ったナツメがその場から掻き消えた。
「消えた?」
「綴、さっきのメモリーは何?」
「パパラッチのカメラから抜き取ったんだけど?普通のメモリーカードはもう塵にしたけど、クラウドに送信するタイプの奴はあとで結愛に渡して、クラウドごとデータを破壊してもらわないと」
「えげつないわね……」
「そんなことより、新発田さんもくるって聞いてなかったんだけど」
「そうなのよね、予定外だわ」
「何でついて来たんです?」
「え?ひどくないですか?私だってニューヨーク観光したいんですが」
「綴、新発田は実質一人旅だから放っておいていいわ」
「うん、わかった。あ、あの車ね」
見るからに高そうな大型の車に荷物を積み、そのまままっすぐIMA本部ビルへと向かう。
「ビルについたら手荷物だけ持って行ってね。大きな荷物はさきにホテルに運んでおくから」
「そういえば、綴は今どこに住んでるの?」
「えっと、お兄ちゃんが新婚の時に買ったマンションに仲間と住んでる」
「へぇ、で詠は?」
「そのマンションの一番上のフロア買い取ってみんなですんでる」
「……これは一回視察に行かないとね」
IMAビルに到着し、エントランスをくぐると、たくさんの魔導師たちが忙しそうに走り回っている。
ナツメは受付に走っていき、“訪問者”のタグを5人分受け取り、こちらに配った。
「じゃあ、エレベータに乗って」
全員エレベータに乗ったことを確認すると、綴が扉を閉め、カードリーダーに自分のカードをかざした。
エレベータはしばらく昇り、扉が開く。
そして、目の前のドアのロックを先に降りたナツメが解除すると、“銀の鍵”のかなり広いルームが広がっている。
「到着しました。ナツメさん、もうそれ外していいですよ」
「はぁ、久しぶりに付けましたけど、暑いですねこれ……」
ナツメが仮面を外す。
「あ、改めまして、ナツメ――榛葉夏芽ですよろしくお願いいたします、おかあさま、おじいさま、おばあさま」
「ナツメさんは潜入捜査とかその辺の仕事をするからあんまり顔を晒せないんだ」
「なるほどね」
「随分お若く見えるけど」
「あ、はい、少し体質的なものでして、これでも詠さんとは同い年です」
「そうなの。すごいわねー」
「ええ、ちょっと死ななかったり老いなかったりする程度です」
「……それ体質なんですか?」
耐えきれずに美原が突っ込む。
だが、榛葉家の面々は基本この程度のことはスルーだ。
そして、部屋にいたメンバーがあいさつをする。
「初めまして、ミシュリーヌと申します。ミミとお呼びください」
「ええっと、初めまして、フィリスです。僕のことはフィーと」
「ネルと申します。以後よろしくお願いします」
「匂坂真白です。初めまして、お母様、お爺様、お婆様」
「えっとこの4人が新たらしくお兄ちゃんのお嫁さんに……」
「あらあら」
「あやつはまた増やすのか……」
「自分の旦那ならぶっ殺してるわよ?」
「男ならあこがれる何かがありますね」
「はぁ?新発田何言ってるんですか?」
「お母さんならわかると思うんだけど、ミミさんは“教会”の元幹部で、フィーさんは“黒杖”の元幹部、ネルさんはアメリカの超有名魔導師で、真白さんは匂坂組の組長の娘さん」
「はぁ……これ、私が政治家やってたらやばかった奴じゃない」
「まあ、お兄ちゃんがそんなの気にしたかどうか……」
背後のドアが開いて人が入ってくる。
「おっと、申し訳ありません。お客さんでしたか」
「すみません」
「あ、丞さん、結愛、お帰りなさい」
「そういえば、烏丸元大臣――というか、詠のお母さんたちが来ると言ってましたね。初めまして、碓氷丞です。こっちは妻の結愛です」
「よろしくお願いします」
「あ、あとサインください」
「ぶれないね、丞さん……」
特に気にした様子もなく普通にサインに応じる母に驚きつつも、未だに現れない兄を気にする綴。
それを見通したかのように、結愛が耳打ちする。
「詠さんならさっき戻ってきてたからもう上がってくるんじゃないかな」
「あ、そうなの?よかった。とりあえず座って。ネルさん、お茶何がいいかな?」
「今、詠さんがフィーの希望でチョコレートを買いに行ってますからコーヒーの方がいいでしょうか」
「ああ、それでリンユーもいないのか」
「荷物持ちで偲さんもついて行ってますね。まあ集る気でしょうけど」
綴とネルがコーヒーを入れるために給湯室に向かうと奥の資料室と書かれたところから更紗が、通信室からフェリシアがでてくる。
「すいません、すこし仕事が残ってまして。お久しぶりです、フェリシアです」
「こんにちは、おばあちゃん、おじいちゃん。更紗です。お義母さんは初めまして?いやでも表彰を受けたときに一度会ってる気がする」
「フェリシア、レベッカとルリカは?」
「あの二人でしたら詠がついでに迎えに行ってると思いますよ」
「お待たせー」
「悪い、遅れた」
紙袋を持ったリンユーと偲。
それに続いて詠。
その後ろには赤子を抱いたレベッカとルリカがいた。
「久しぶり、じーちゃん、ばーちゃん」
「母に挨拶は?」
「あ、はい、お久しぶりです。美原さんも、ご苦労様です。で、新発田さんも来たんだ?」
「え?その扱いはひどいな?」
「いや、4人って聞いてたけど――あ、姉さんと潤一さんも明日来るって」
「そうなの。あの子結婚してからまるで顔出さないのよね」
「気持ちはわかる」
「あ゛?」
「ナンデモナイデス」
「言いたいことがあるなら言ってみなさいな」
「ほーら、ルーン、おばあちゃんだぞー、ひいばあちゃんもいるぞー」
「誤魔化しましたね」
「うわ、私の孫可愛い」
「あ、もうダメそうですね、蘭さん」
「そうかそうか、ルリカさんが生んだこの子が長男か……榛葉家の跡取り!?」
「そうなんですか!?じゃあ私が正妻に!?」
「「「「「「「「「それはない」」」」」」」」」
「みんな揃ってひどくない?綴ちゃんまで!」
「ふむ、揃っているな」
「お、ハーマン」
ハーマンが幼子を3人抱えてやってきた。
どういうバランス感覚をしているのかは不思議でならない。
「ほら、フィオナ、サナ、ナツキもう一人のおばあちゃんだ」
ちびっこに集られた蘭が幸せそうな顔をしている。
「もう私こっちに住むわ」
「マジで」
「そうじゃ、ハーマンさん、これを。詠からずいぶん前に頼まれてたのだが納得いくものを打つのに時間が掛かってな。あと輸送が難しくてな……」
「これは?」
桐の箱から二振りの刀が出てくる。
「子供がおるから刃は抜かんでくれ。まあ一応装飾品としての刀だが、斬れる」
「素晴らしいものをありがとうございます」
「まあ、相手方の家に刃物はどうかと思うが、まあ、これ以上増えんように多少は縁も切れた方がいいかもしれんな……」
孫の嫁を見ながら大洋がつぶやいた。