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#ex-04 Negligence is not allowed.




“銀の鍵”ロンドン支部と書かれた建物に菫が戻った時、中には先ほどのフィリスとミシュリーヌがおり、ネルと打ち合わせをしていた。

一日中走り回っていたのでくたくただが、まだ終わりの時間ではないし、夜間の緊急呼び出しがある可能性もある。


「菫ちゃん、疲れてますね」

「はい、流石に……みなさん、なんでそんなに体力あるんです?」

「慣れです」

「ふぇー……」


ソファにぐったり座り込んだ菫の前に結愛が紅茶を置いてくれる。


「ありがとうございます……こういうの体験するとつくづく日本の魔導師って甘いんだなぁ、って思いますよね。技術系の結愛さんですら私より体力あるし」

「え?ああ、ちがうよ。私はずっと魔法でサポート入れてるから」

「そんな方法が!?」

「普通の端末だと燃費悪いけど、Si-Lackならテーブル絞って“FC”キーだけ使えばかなり楽になるよ」

「テーブル絞るってどういう使い方ですか……?」

「うーん、その辺普通の端末と感覚違うからなぁ……まず、Si-Lackのテーブル構成なんだけど」


そういうと結愛はタブレットを持って菫の隣に座った。


「Uranos・Gaia・Zeusの基本テーブル3つからなるのはわかるよね?」

「はい。ここまでは、一緒ですもんね」

「で、これはそれぞれ普通の端末でいうと1つ分だと考えて、それを組み合わせることで上位テーブルのKlotho・Lakhesis・Atropos、そして最上位のMoiraが使えると」

「ほんとに凄いですよね」

「でももう一つ使い方があって、まあこれは私と丞さんと、あと詠さんぐらいしか使わないんだけど、基本テーブル3つを構成するプログラムを単体で使うの。さっき言った“FC(剛力)”ならGaiaの下位テーブルBellerophonを使う」

「そんなことできるんですか?」

「まあ、発動条件は満たすから。その代り、複雑な処理ができないからキーの掛け合わせが出来なくなるけど、消費はぐっと抑えられるの」

「なるほど……私もSi-Lackほしくなってきました」

「私のは支給品で個人カスタムしてあるから値段解らないけど、今だと一番いいモデルで1500万円ぐらいするんじゃないかな」

「……気の遠くなるような数字ですね」

「まあ、モランも詠さんもあんまり売る気なかったからおふざけでこんな値段にしてるんですけど、割と買う人いるんですよね」

「そうなんですか。それで、中身は?」

「スタンダードが3000万円、アディショナルVer1.1が3500万円、アディショナルVer2.0が4200万円だったかな……」

「中の方が高くないですか……」

「希少属性の属性式も入ってるし、法理系の魔法は前IMA代表と詠さんの専売特許だからそりゃ高くもなるかな」

「そう言われると納得です」

「ほとんど魔導書解析して使えるようにした魔法なんだから文句は言わせないよね」

「でも結愛さんが作ったキーもあるんですよね」

「うん、詠さんや丞さんと相談しながらあったら便利なものをそろえた感じ」

「充分すごいですよ」

「そんなことないよ!ver2.0の目玉はなんてったって、詠さんが外界の不思議生命体を加解析して作った呪い系のキーだし。それに対抗する術式キーも作って乗せてるし、それに――」

「結愛さん、少しヒートアップしすぎです」

「あ、ごめんなさん、ネルさん。菫ちゃんも」

「いえ、」

「さて、皆さん、先ほどフェリシアさんからの連絡で明日の定刻通り詠さんたちが到着します。今回は、ここにいるメンバーに加えて、詠さん、フェリシアさん、更紗さん、ナツメさん、綴さんが合流します。偲さんとリンユーとルリカ、レベッカは留守番ですね」

「あ、結局リンユーは残るんだ」

「ルリカさんとレベッカさんの面倒、それと子供たちもみとかないといけませんから」

「ハーマン代表も孫がかわいいのか突然IMAビル内に託児所とか作り始めましたからね」

「あれはびっくりでした。おかげで安心して子供が産めますが」

「……ネルさん、恋人もいないのに誰の子供産む気ですか」

「そういう真白さんこそ」

「……なんか、ギスギスし始めたよ、ミミ」

「まあ、いつものことですよ、フィー。少し離れていましょう。すぐ飛び火するので」


「大体ネルさん、30目前なんですからもっと慎みを持った方がいいんじゃないですか?」

「問題ありません。私今でもまだ20代前半に間違われるので」


「あの、結愛さん、丞さん、あれはほっといていいんですか?」

「あ、大丈夫です。2人とも詠が来たらおとなしくなるので」

「何もかも男女比がバグってるのが原因ですよね」

「そうですね。まあ、みんな詠に惚れこんでここまで来てるので仕方ない部分はありますけど」

「ああ、わかります。私だって丞さんと出会わなければあの一員だったと思いますし」





翌朝、菫は早めに起きたつもりだったが、廊下ですれ違ったネルがきっちりとした格好に着替えて出かける準備をしていた。


「おはようございます」

「おはようございます菫さん、私は少し出てきますので」

「あ、はい」


何か仕事なのだろうと思い、着替えと身だしなみを整えてから、朝食を取るために台所へ向かう。

冷蔵庫の中には結構色々な食材が詰まっている。適当に食べていいと言われているのでパンをトースターで温め、スープを入れる。

期限が近いので早めに使ってくださいと書いてあった大量の卵を2つほど目玉焼きにして、皿に盛った。

焼けたパンにバターを塗っていると、あくびをしながら真白が入ってきた。その恰好は浴衣の様な寝間着姿で、少し肌蹴ていた。


「おはようございます、真白さん」

「おはようございます。ネルはどうしました?」

「ネルさんなら出かけましたけど……」

「!?――あれ?時間は?今何時かな?」

「7時前ですね」

「寝過ごしました!」

「何かあったんですか?」

「7時30分ごろに詠さんがこちらにつくはずです。ああ、せめて着替えておきましょう……」


そういうと食事もとらずに真白は自分の部屋に戻っていった。

しばらくして結愛と丞、ミシュリーヌとフィリスも食堂に入ってきた。

皆いつもよりきっちり制服を着こんでいる気がする。


「なんかいつもより緊張感がありますね……」

「うん、まあ、緊張する必要もないんだけどなんか、楽しいでしょ?」

「そうでしょうか……?」


8時前になって、扉が開く音がする。そして、結構な人数がこちらに向かってくる足音がする。


「おー、やっぱり食堂にいたか」

「お疲れ様でした、みなさん」

「あれ、真白は?」

「真白さんなら、さっきお風呂入ってましたけど」

「相変わらずみたいね……」

「フェリシア、朝食頼めるか」

「はい、おまかせください」

「フェリシア、私も」「私もお願いします」

「はぁ、構いませんけど……」


そういいながらフェリシアがキッチンに立つ。


「大体のことはネルから聞いたが、丞、どんな感じ?」

「そうですね、まあ、国によって警備レベルは全然違いますが、やっぱりイギリスが一番本気出してますね。それで、そっちのお仕事は?」

「アメリカ、イギリス、ロシア、EU、ドイツ、中国、オーストラリアには条件飲ませた。これで終わりだ」

「日本はいいんですか?」

「別にいいだろう。どうせいてもいなくても変わらないレベルだし」

「相変わらずですね」

「というか最悪母さんに言ってごり押しで進めさせるしかない。あそこの国の政治家人の話全然きかないから。あ、丞の国籍移して婚姻届けの処理やっておいたぞ」

「ありがとうございます」

「いいってことよ」

「それで、詠の第2期の結婚は?」

「今それデリケートな問題なんだけど……でもまあ、真白は親父さん(くみちょう)から孫の顔見たいってせかされているし、ミシュリーヌもなんか元教皇がすごいせっついてくるし、フィリスとネルはもうオレが貰わないとダメな気がするし……」

「リンユーは?」

「あいつは結婚とかする気ないみたい。綴と偲と結婚しない同盟組んでた」

「ああ、綴はまだブラコンこじらせてるんですか……」

「結愛、私ここにいるけど?」

「うわぁ!?綴!?いつの間に!?」

「いや、お兄ちゃんと一緒に入ってきたけど……」


一気ににぎやかになった食堂に困惑する菫。

すると、騒動の中心である詠から話しかけてきた。


「初めまして、逢坂菫さん。オレは詠・榛葉=シャンクリー」

「よろしくお願いします」

「うーん……成績観たときも思ったけど、ほんとに全と血繋がってる?」

「繋がってますよ。残念ながら」

「うーん……」

「納得できない気持ちはわかりますけどね。どうしても納得できないなら、灯里さんの妹だと思ってみては」

「ああ、それなら納得できる。灯里も賢くはないが……」

「いつも通りの直球だね。あ、そういえば、ネルさんは?」

「ネルには友達を迎えに行ってもらうように頼んだ。もう来るはず」


再び、階下でドアが開く音が微かに聞こえる。


「来たみたいだな。フェリシア、朝食、下にもってきてもらえるか?」

「はい、構いませんよ」

「私も」

「更紗さんはダメです。自分で持って降りてください」

「なんかフェリシア詠にだけ甘いよね」

「あなたもそうでしょう」

「あ、うん、そうかも?」


丞や菫、その他の面々が二階の応接スペースに降りると、そこには一人の日本人女性が座っていた。

年齢的には詠と変わらないだろう。


「うわ、すごい、初めて会った、サインもらってきていいかな?」

「いいんじゃないか?」

「いいですよ」

「じゃあ、2枚お願いします!」


女性へと丞がサインをねだり、無事手に入れた後結愛とハイタッチしている。こういうところが本当にそっくりである。


「お久しぶりです、詠さん。初めて方は初めまして、わたくしは黄金 純玲(こがね すみれ)といいます」

「日本の警備が思ったよりやばいから本人の希望で、今日明日とうちで預かることにした」

「警備技術に関してはいいのですけど、自分より弱い魔導師に守られても、という感じですね」

「黄金さんも厳しいですね……」

「まあ、連絡はしておいた、んだよな?」

「置手紙をしてきました」

「それ失踪扱いになると思うんだけど……」

「そもそもどうして詠と黄金の社長が知り合いなの?」

「詠さんとはSi-Lackの販売許可をうちにもくれないかとすごく頑張って交渉しては蹴りだされ、という仲です」

「そのへんはモランの担当者に言ってくれよ」

「まあ、Marginal VII+売れ行きはなかなかいいんですけどね。Si-Lackなんてほいほいかえるような値段じゃないですし」

「でも黄金さんは買ってましたよね?何かの記事に載ってましたよ」

「良くご存知ですね。初期費用で1億とかふざけてるのかと思いましたけど、あれはすごい端末ですよ。中国がばらして似たようなもの作ろうとして研究室のあった上海のビル諸共クレーターになったらしいですからコピーはしませんけど」

「普通に訴えたら勝てるんだろうけど」

「詠、私の記憶が正しければそこから訴えて金取って企業一つ潰してたよね?」

「まあ、済んだことだ」


じと目の更紗からの視線を逃れるために目を併せない詠。

そこでトレイに二人分の朝食を持った、フェリシアが現れる。


「はい、できましたよ」

「ありがとう、フェリシア」

「私たちのは?」

「食堂に置いてきました」


しぶしぶ上に向かう更紗とナツメ。


「じゃあ、開会式までは適当にしててくれ。9時に会場に入って9時半から開会式、11時からメインステージでイベントだ」

『了解』


「イベントって何するんです?丞さん」

「さて、それはお楽しみです」

「口止めされてるから言えないの、ごめんね」

「いえ、ありがとうございます……」


菫はサンドイッチをむしゃむしゃ食べている英雄を眺めながらこの後のことを色々予想してみたが、何が起こるか見当もつかなかった。


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