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被害者3人目 本日は社長日和なり

「自殺のトラブル5000万♪事故死のトラブル8000万♪事後処理手続き8000万♪」


「安くて早くて安心ね♪」


いかにも胡散臭いCMであるがこの世界では殺人斡旋企業の大手である


そして何故そんな事を説明しているかと言うとその会社の社長と机を挟んで向かい合っているからである


社長もといこのジジイは逃走虚しく逮捕された俺を金の力で釈放してくれたのだ、まぁ、その時にいかにも怪しい契約書にサインしたのは気になるのだが・・・


そして机には俺の赤裸々な経歴(主に犯罪歴)レポートが拡げられていた


◆◆◆独孤ヒトコ 炉須一ロスイチ罪歴記録◆◆◆


同級生ハサミ刺殺事件(13)

廃工場連続遺体損傷事件(16)

     ・

     ・

     ・

     ・

     ・

王水風呂事件


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


王水風呂事件で終わっているのはこの事件が決め手で絞首刑になったからである。

どれも懐かしい思い出であったが一部記憶と違う内容が記されている事に気が付いた。


【王水風呂殺人事件により無期限投獄からの有機転換炉を受ける所、被害者親族の恩赦により死刑囚に減刑】


「ちょっと待て、有機転換炉送りとはなんだ?無期懲役が減刑してなぜ死刑囚になる?普通逆だろ???」


その時やっといかれた世界の本質に触れることができた


・人は素敵な殺され方をしたいのでお金を稼ぎ、大金を払って殺人依頼をしている

・自殺や自然死、病死など人の手に掛からない死は最悪とされている

・有機転換炉とは80歳を満期として生きながら粉砕機に飛び込む自殺行為の事である


他にも理解しがたい事を言ってはいたがほとんど頭に入ってこなかった。かろうじで理解したのは俺が80歳まで延命されたのちミキサーでバラバラに自殺する所を遺族の恩赦で即日他殺に替えて頂いたということだ。理解に苦しみ頭を抱える俺にジジイは優しく言葉をかけてくれた



「難しい事は考えなくていいんだよ、君は殺人が好き、この会社は殺しを斡旋している、ウィンウィンの関係だと思わんかね?」


ジジイの言うとおりだ、大義名分の上で殺人ができるに越したことはない。もちろん俺のポリシーに違反しない事が条件ではあるのだが


「もし断ったら?」


「残念ながら断る権利は君にはないんだよ、サインしたことを忘れたわけではないだろう?」


しまった…、いかにも怪しい契約書はやはりヤバイ内容だったのか・・・


「まぁ、俺がそんな約束を律儀に守るとでも?ここでお前をぶっ殺してもいいんだぜ?」


「それは願ったり叶ったりだ、是非ともお願いするよ」


………、毎度の事ながらこの世界はイカれてやがる、どいつもこいつも殺されたがりの死にたがりしか居ないと来た


しかし、このジジイからは他の奴とは違う感じがするのだ。俺の好物な【生にしがみつく】人間の目をしているのだ


話を聞いていくうちに俺が呼ばれた本当の意味をしることになる。それはこのジジイが今年で80歳、つまり数カ月もしたら有機転換炉送りの年齢になるのだ


有機転換炉とは聞こえがいいが平たく言えば人間粉砕処理器である


ここまで聞いたらもう何を言われるのかわかる、分かるのだが無情にもジジイの口から予想とおりの言葉が伝えられる


「そう身構えなくて良いのだよ。私からの最初で最後の命令は1つだけ、ここで私を殺して欲しいのだ」


死にかけのシジイをボコった所で何も楽しくないし満たされない、しかし俺には出所したてで殺したのはポリシーを度外視した後味の悪いクソ女一人だけ。その点、目の前にいるジジイは意味合いは違えど【生きたい】と言う気持ちが溢れている。この死にたがりの世界では俺の欲求を満たしてくれる数少ない人間とも言えるかもしれない


有機転換炉では死にたくない、かと言っても自殺は嫌だ、だから殺されたい、俺のようなとびきりイカれた殺人鬼に


話し終わると深々と頭を下げている、おでこが机に当たったのか“コツン”と可愛い音を立てた


「はぁ・・・、そんなんじゃ話もまともにできません。頭をあげて貰えませんか?」


重い空気が流れる、沈黙が5分くらいあったかもしれない。そして重い空気を割るようにジジイがやっと口を開いた


「いきなり連れてきて重い話ばかりですまなかったな、あまり時間があるとは言えないが明日にでも良い返事をもらえたら嬉しい」


そう言ってやっと頭を上げてくれた・・・っと思えばまた机の上に頭を打ち付けた


少し語弊があったな、俺が叩きつけてやったが正解である。頭を掴み力任せに叩きつけたのである


何回も何回も何回も何回も何回も


ガンガンガンガンガンガギッ!グチャグチャグチャ


拡げられたレポートは赤く染まり、机は真っ赤なテーブルクロスを広げていく


20回くらい繰り返したあたりで俺の腕にジジイが弱々しく掴みにくる。ほう、まだ楽しませてくれるのか?うれしいねぇ


そのまま持ち上げると一番近い壁に叩きつけ、そのまま擦り付けながら歩き進める、ごりごりと何かを削る感触を感じつつ、壁に一本の線路を築いていく


角まで行ったら終わりだとおもった?残念、この部屋は四面の壁に囲まれているんですよ?流れ作業のように次の壁に叩きつけて削っていく


「線路は続くよ~何処までも~」


楽しい電車の旅【ぶらり社長室一周ツアー】は何事もなく終着駅へついた。一名どこかで途中下車してしまったが片道切符しか持ってなかったので仕方ないよね


削れて平たくなった断面には当たりともハズレとも書いてない、頭蓋骨と脳漿、小さな四角い小骨が一つ覗かせているMRI画像の出来上がりだ


「お疲れさまでした社長」


そこでやっとこの部屋に侵入者が一人いることに気がついた。黒髪ポニテで黒いスーツのインテリ眼鏡、私がいかにも秘書です!って格好の女が話しかけてきた


「そしてよろしくお願いします社長」


この時やっとあの言葉の意味を理解した。あのタヌキジジイめ、次に会ったらぶっ殺してやるわ


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