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城下の街で

「視察、ですか?」


ディアナが怪我をしてから3週間が経った。もう普通に動けるようになり、朝いつも通りに執務室に来たディアナに、ジークフリードは「明日は視察に行く」と言ったのだ。


「ああ。だが、そんなに大仰なものじゃない。平民の服装をして、城下の街に出かけるんだ。市民の暮らしぶりや、街の様子を知る良い機会だからな。時々行っているんだ。いつもはアルフォンスと一緒に行くんだが…」


「アルフォンス様は、ご実家に帰省されているんですよね。」


アルフォンス様は、最近仕事が忙しくて、しばらくご両親にお会いしていないらしい。そこで殿下が休暇を出したのだとか。


「ああ。だから、お前に一緒に来てほしいんだ。お前をひとりにして何かあったら困るしな。」


殿下は、私が怪我をしてからますます過保護になったと思う。だが王太子の命令だ。断るわけにはいかない。


「わかりました。」


ーー街、久しぶりだな。昔行ったおいしいタルト屋さんまだあるかな。


街に行くことを自分が楽しみにしていることに、気がつかないディアナであった。


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翌日は朝から晴れて、出かけるには絶好のお天気だった。


「待たせたな。」


城門の前でジークフリードを待っていたディアナは、その声に振り向いて、目をまるくした。


「どうした?驚いたような顔をして。」


「…いえ。平民の服装をした殿下が、少し新鮮だったので。」


いつもはマントやら飾りやらがついた服を着ているジークフリードは、今日はシャツに上着というラフな服装だった。


「確かに、王宮ではこんな格好はできないな。だが、俺はこちらの服のほうが堅苦しくなくて好きなんだ。」


そう言って笑った殿下は、心なしか楽しそうに見えた。


「お前の私服もはじめて見たな。」


今日の私は、淡いブルーのワンピースを着ている。いつもは侍女の制服を着ているが、さすがにその格好で街に行くわけにはいかない。


「似合っている、ディアナ。」


「…ありがとうございます。」


ジークフリードの微笑みを見て、なぜか顔が熱くなったディアナは、慌てて目をそらしながら、お礼を言ったのだった。


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視察は順調に進み、お昼近くになった。ジークフリードは、街のあちこちを興味深く見て回っていた。


ーー視察というより、殿下が街に来たかっただけみたい。


そう思ったけれど、楽しそうに歩く殿下を見ていると、なぜか自分も楽しい気分になった。そのまま歩いていると、どこからかおいしそうなにおいがしてきた。においがするほうを見ると、昔よく行ったタルト屋さんがあった。


「タルトでも食べるか?」


懐かしさから、思わず店のほうをじっと見ていた私に、殿下がそう言った。


「えっ…よろしいのですか?」


「ああ。ちょうど昼食の時間帯だしな。買ってくるから、ディアナはここで待っててくれ。」


そう言うと、殿下は私が止める間もなく店のほうへ走っていった。


ーーまた、あのお店のタルトが食べられるなんて。


うれしくてつい頬が緩んだ、その時。


ーーっ!!


腕に衝撃がはしった。










お読みいただき、ありがとうございます。

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