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夢か現か

ガタンと馬車が揺れて目を覚ました。顔をあげると、私を見下ろす優しい瞳が見えた。


「あらあら。起きてしまいましたね、シャルロッテ。」


そう言って優しく私の頭を撫でてくれる。どうやらお母様の膝の上で寝てしまっていたらしい。


ーーそこまで考えて気がつく。ああ、これは夢。もう二度と戻らない、私が幸せだった遠い日の幻。


「着いたよ。シャルロッテ。」


そう言って私を抱きあげて馬車から降ろしてくださったお父様。


「わあ!!」


馬車を降りた私の目の前に広がっていたのは、青紫色の花が一面に咲き乱れる美しい花畑だった。


「お父様とお母様から、シャルロッテに誕生日のプレゼントだ。」


もう何も考えたくなかった。これは夢。頭では完璧に理解している。でも、心がそれを受け入れることを拒否している。


ーーずっとここにいたい。このままお父様とお母様と一緒に。


そう思って、花畑のほうへ一歩踏み出そうとした私の手を誰かが掴んだ。振り向くと、そこには黒い瞳の青年。この人は誰?


「ディアナ、ダメだ。行くな。」


ディアナって誰?私はシャルロッテ。離してほしい。私はお父様とお母様のところへ行きたいのに。


「ディアナ、戻ってくるんだ。」


それでも尚揺るぎなく私を見つめる瞳に、既視感を覚える。私、この人を知ってる?


「シャルロッテ。」


ーー殿下?


ハッと目がさめる。そこにあったのは心配そうに揺れる黒い瞳。


「ディアナ!良かった。気づいたんだな。」


私のことを見て安堵している殿下を見て、何かあったのかとぼんやり思う。とりあえず身体をおこそうとすると、頭に激痛が走って、何があったのか思い出した。痛みに顔を歪めると、殿下が慌てた顔をして私の身体をベッドに戻した。


「無理をするな。出血がかなり多かったうえに、3針も縫ったんだ。二週間は絶対に安静が必要だと医者も言っていた。」


「…申し訳ありません、殿下。」


「お前が謝ることじゃない。むしろ謝らなければならないのは、俺のほうだ。今回のことは、ベルクヴァイン侯爵令嬢の仕業だろう。だが…俺はまだ成人の儀を終えていない。侯爵令嬢を裁けるだけの力が、今の俺にはまだないんだ…すまない。」


そう言ったジークフリードの声は、いつもよりもどこか弱々しくて。顔にも自嘲めいた笑みが浮かんでいた。こんなの、殿下らしくない。そう思った。だからだろうか。


「ご自分を責めないでください。」


そんな言葉が口をついて出たのは。


「今回のことは、注意していれば避けられたのです。だから、考え事をしていてぼんやりしていた私が悪いのです。殿下はお優しいから、気になさっているのでしょうが、必要以上にご自分に負担をおかけにならないでください。それでは、いつか心を壊してしまいます。」


こんなこと言うつもりはなかった。殿下のせいだ。らしくない弱気なことを言った殿下のせいで、余計なことを言うハメになったのだ。


「…ありがとう、ディアナ。」


そう言って優しく微笑んだジークフリードの顔を、ディアナはなぜか直視できなかった。


「じゃあ俺はもう行くから、ゆっくり休め。」


「殿下。」


立ち去ろうとしたジークフリードをディアナは呼びとめた。振り向いたジークフリードに言葉を続けようとして、すんでのところで抑えた。


「何だ?」


「…いいえ。何でもございません。お引きとめして申し訳ありませんでした。」


ジークフリードは何も言わず、今度こそ部屋を出て行った。


「はあ…」


自然とため息が出る。殿下を呼びとめたのは、目覚める直前に私を「シャルロッテ」と呼んだ声が、彼のもののように思えたからだ。だが、そんなことはありえない。そもそも殿下が私の本名を知っているはずがない。


ーーしっかりしなきゃいけない。私は目的があってここに来たのだから。

お読みいただき、ありがとうございます。

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