後悔と忠義と友情と
アルフォンスが持ってきた知らせを見ながら、ジークフリードは迷っていた。
ーーディアナを王宮から去らせるべきだ。
それが、件の侍女が5年前の少女だとわかった時の、ジークフリードとアルフォンスの見解だった。
「あの娘が王宮に来たのはやはり…」
「5年前の事件の真相を調べ、両親の仇をうつつもりなんだろうな。」
「しかし、それはあまりにも危険です。ここにはヤツが…ベルクヴァイン侯爵がいるのです。もし侯爵が彼女の存在に気づいたら…」
「口封じのために殺すだろう。そうならないためにも、早めに王宮から遠ざけるべきだな。」
こうして一度はディアナを王宮から出すということで話が決まった。
「しかし、王宮から出すということになると、信頼できる預け先を見つけなければなりませんね。もう孤児院に戻れる年齢でもないでしょうし。私が城下の街まで行ってみます。」
「ああ、頼む。」
しかし2時間後に戻ってきたアルフォンスが持ってきた情報は、先程の決定を考え直さなければいけないものだった。
「ベルクヴァイン侯爵がディアナを探している?」
「はい。ここ最近、侯爵の手の者が金髪に青い瞳の少女を手当たり次第に探しているようです。」
「侯爵め。余程5年前の真実が公になるのが怖いと見える。」
「こちらが侯爵の悪事の証拠を追っていることにも気づいているのでしょう。ましてや、殿下の成人が迫っている今、不安の芽はどんな些細なものでも摘んでおきたいでしょうから。」
この国は王国という名の通り、王が国を治めている。しかし現在の王、つまりジークフリードの父であるフリードリヒ・ヴァン・カレンベルクは王妃であったカミラの死後、悲しみのあまり心を閉ざし、政務に無関心になってしまった。7年前のことである。その後は、当時まだジークフリードが幼少であったため、王に代わって宰相が政務を行ってきた。しかし、ジークフリードはあと半年で成人を迎える。成人すれば、王太子であるジークフリードも政務に参加することになる。そうすれば、ベルクヴァイン侯爵は今までのようには権勢をふるえなくなる。ましてや、長年権力の座にあり、私腹を肥やし続けているベルクヴァイン侯爵に反感を持つ者もいて、ジークフリードが反ベルクヴァイン侯爵の姿勢を明確に表明していることも相まって、現在王宮内は侯爵派と王太子派に二分しているのだ。
「ベルクヴァイン侯爵の悪事は数えあげればきりがありませんが、その最たるものが5年前の事件です。このタイミングで、当時のことを公にされるのは、最も避けたいところでしょう。」
アルフォンスの言葉にジークフリードは頷く。
「しかし、悪事をはたらいているとわかっているのに裁けないのだから、俺も無能な王太子だな。5年前から何も変わっていない。」
自嘲するジークフリードにアルフォンスはひざまづいた。
「殿下、そのようにご自分を責めるのはおやめください。あの時殿下はまだ幼かった。殿下でなくとも、ベルクヴァイン侯爵の悪事を止めることはできなかったでしょう。あれから5年、殿下は誰よりも努力なさってきました。かの侯爵を裁ける日は目前に迫っております。どうか、過去にとらわれますな。前を見てお進みください。」
真剣な目でそう言ったアルフォンスは、立ち上がるとジークフリードの肩に手を置いた。
「俺はいつでもお前の味方だ。」
友として言ってくれたアルフォンスに、ジークフリードは穏やかに微笑んだ。
「ありがとう、アル。」
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