あなたと一緒に生きていく
ふと目を覚ますと、そこは辺り一面の花畑だった。
ディアナはゆっくりと身体を起こし、周囲を見回す。
「ここは…」
ーーお父様とお母様から、誕生日プレゼントにいただいた花畑ーー
「ディアナ。」
自分を呼ぶ声に振り向けば、そこにいたのは失ってしまった大切な人たち。
「お父様、お母様…」
2人はディアナを手招くように、手を差し出した。
ーーああ、前にもこんなことがあったな。
うつむいたディアナは、思い出していた。怪我をして、ジークフリードに助けられた時。
ーーあの時は、お父様とお母様のもとに行きたかったのに、誰かが私の手を握って引きとめた。今ならわかる。あれが誰だったのか。
「ごめんなさい、お父様、お母様。私はまだ、そちらには行けません。」
ディアナは顔をあげると、2人に向かって笑顔で言った。
ーーあの時、手に感じたぬくもりを、私は知っている。ベルクヴァイン侯爵に囚われて、真っ暗な闇の中にいた私を絶望から引き上げてくれたぬくもりと同じ。
「どうして?」
ハインミュラー公爵夫妻は、同じように笑顔で、ディアナに問うた。
「お父様、お母様。私、大切な人に出会ったんです。その人と、約束したんです。どんな国をつくるのか、側で見ているって。」
一言一言、嚙みしめるように言葉を紡ぐディアナを、2人は顔に穏やかな微笑みを浮かべて、見守っていた。
「私は、ジークフリード殿下と、この先もずっと一緒に生きていきたい。」
青空の瞳に、まっすぐな光をたたえて言ったディアナに、2人は頷いた。
「大きくなったな、ディアナ。そして立派になった。」
「大切な人を見つけたのね、ディアナ。」
優しい言葉。ディアナは思わす涙が零れそうになって、再びうつむいた。
ーー泣かない。だってこれは、お別れなんかじゃないから。
もう二度会えないわけではない。ジークフリードが教えてくれた。思い出は、記憶は、永遠に心の中にある。自分が忘れない限り、両親はずっと側にいる。
「はい。」
顔をあげて、返事をする。
「行きなさい、ディアナ。お前が戻るのを待ってくれている人がいるのだろう?」
ハインミュラー公爵は促した。
「忘れないで。私たちはいつでもあなたの側にいるわ。」
アレクサンドラも頷く。
「はい!お父様もお母様も、大好きです!」
ディアナは満面の笑顔でそう言うと、走り出した。
ーー私は前に進む。悲しみも幸せも、全部抱きしめて生きていく。殿下と一緒に。
やがて目の前に光が見えた。
「ディアナ。」
誰かが名前を呼ぶ。私はこの声を知っている。いつも私を呼んでくれる声。私の悲しみを受けとめてくれる人の声。私に幸せをくれる人の声。私が名前を呼びたい人の声。
「ジークフリード様。」
そう呼ぶと、視界が光でいっぱいになった。あまりの眩しさに思わず目を閉じる。
「ディアナ。」
近くに感じた声に目を開けると、夕焼けの瞳。
「ジークフリード様。」
そっと名前を呼ぶと、朱色の瞳が揺れた。
「…おかえり、ディアナ。」
「はい、ジークフリード様。」
青空と夕焼けが交わった。
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