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青い瞳の少女の祈り

「敵襲だと⁉︎」


ジークフリードは驚きの声をあげた。しかし、すぐに周囲の兵たちに指示を出す。


「状況を詳しく報告せよ。それと、闇雲に動くな。奇襲とはいえ、敵の数はそう多くはないはずだ。数人でまとまって周りの敵を撃破し、そこを拠点として制圧範囲を広げろ。そして拠点どうしをつないでいき、敵を殲滅するのだ。表の兵たちにも伝えろ。」


「ハッ!」


ジークフリードの言葉をうけて、斥候と伝令の兵が走って天幕を出ていく。

ジークフリードは、奇襲の報告を受けた瞬間こそ驚いたが、すぐに冷静さを取り戻していた。戦闘全体としては、自軍が有利であることには変わりはない。少し前に、前線で指揮を執っているアルフォンスから、間もなく敵本陣の制圧が完了するという報告をうけているからだ。ただ、同時に敵本陣の中に、ベルクヴァイン侯爵の姿は見当たらないという報告もうけていた。退路はあらかじめ断っているため、逃げ出すことはできない。とすれば、この奇襲は、ベルクヴァイン侯爵本人が精鋭を率いて仕掛けてきた可能性が高い。最早、侯爵側の逆転は普通の方法ではありえない。しかし、彼らが唯一戦況を覆せるとしたらそれは…

そこまで考えて、ジークフリードは頭を振って思考を追いやった。


「ディアナ、お前はここにいろ。護衛の兵をつける。外は敵味方が入り乱れて混乱している。下手に動くと危ない。」


「殿下は…」


心配そうな瞳で自分を見上げるディアナに、ジークフリードは微笑んだ。


「俺は兵たちの指揮を執るために、外に行く。俺が先陣をきって戦うことで、兵たちの士気もあげられるしな。」


ディアナは何も言わなかった。いや、言えなかった。自分は剣をつかえるわけでも、戦術的な指示を出すことができるわけでもない。今自分が外に出ていっても、足手まといになるだけだ。ジークフリードがディアナのことを気にして、全力で戦えなくなってしまえば、自分はジークフリードの足枷になってしまう。ジークフリードには、ずっとずっと迷惑をかけて、助けられてばかりだった。これ以上、ジークフリードの重荷になりたくはなかった。

それでも、頭では完璧に理解していても、「置いていかないでください」と言うのを抑えるのに苦労した。ジークフリードと離れるのが怖かった。戦争に絶対はありえない。今は味方が有利かもしれない。攻めてきた敵は少数で、すぐに殲滅できるかもしれない。でも、ジークフリードの身に危険が及ぶ可能性もゼロではないのだ。もし万が一、ジークフリードが死んでしまったら?これが最後の会話になってしまったら?






もう二度と、ジークフリードに会えないとしたら?





「…お気をつけて、行ってらっしゃいませ。ご武運をお祈りしております。」


ディアナは、気丈に微笑んだ。ジークフリードの夕焼けの色の瞳と、ディアナの青空の色の瞳が、互いを映す。


「ああ。行ってくる。」


そう言うと、ジークフリードは踵を返した。そして、天幕を出る直前に立ち止まると、振り返らずに言った。


「また後でな、ディアナ。」


軽く手を挙げると、今度こそ天幕から出ていく。


「…っ!!」


ディアナはその場にしゃがみ込んだ。青い瞳から、涙が零れ落ちる。


ーー神様、どうか私から大切な人をこれ以上奪わないでください。

お読みいただき、ありがとうございます。

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