永遠
ジークフリードとディアナが共に歩むことを決めてからあっという間に2ヶ月が経ち、王太子派と侯爵派の間で戦いが始まった。戦いは、終始ジークフリードが圧倒していた。ベルクヴァイン侯爵は、ジークフリードの成人の儀が終わるとすぐに領地に戻り、自身に味方する貴族たちを集めた。一方ジークフリードも、国の腐敗を一掃するために兵をあげると宣言し、王都に兵を集めた。そして2ヶ月後、十分な兵が集まったところで、ベルクヴァイン侯爵領を攻めたのである。
「殿下、飲み物をお持ちしました。」
戦闘がひと段落したところで、ディアナはジークフリードの天幕に行った。
ディアナが従軍することに、始めジークフリードは反対した。戦となれば、当然危険が伴う。そして、たくさんの者たちが傷つく。ジークフリードは、ディアナを危険にさらしたくなかったし、何より、5年前のような悲しい思いをしてほしくなかった。しかしディアナは、
「私は殿下の侍女です。殿下のお世話をするのが私の役目。」
と言って、頑として譲らなかった。結果として、ジークフリードが折れて、ディアナは従軍することになったのである。
「ああ。ありがとう、ディアナ。」
飲み物を受け取ったジークフリードは、それをいっきに飲み干した。
「おかわりをお持ちしましょうか?」
「いや、大丈夫だ。」
ジークフリードがそう言ったので、ディアナは空のコップを持ってさがろうとした。しかし、
「ディアナ。」
ジークフリードが、ディアナを呼びとめた。
「はい。」
そう言ってディアナが振り向くと、ジークフリードはディアナのほうに来た。
「目を瞑れ。」
「えっ…」
突然のジークフリードの言葉にディアナは戸惑ったが、ジークフリードに「いいから、いいから」と言われ、目を閉じた。
「…これでよし。」
しばらくして、ジークフリードはそう言った。
「これは…」
ディアナが目をあけると、彼女の胸には、懐中時計がかけられていた。
「お守りだ。お前を守ってくれるように。」
そう言うと、ジークフリードは微笑んだ。
「それと、誓いだ。時計は、永遠に時を刻み続ける。俺も、その時計が永遠にお前の側で時を刻み続けるように、ずっとお前の側にいよう。」
「殿下…あなたは、永遠などというものが本当に存在すると思っているのですか?」
ディアナは思う。永遠など存在しない。幸せな時は、必ず過ぎ去る。かつて自分の前から、両親がいなくなったように。
「思うよ。」
しかし、ジークフリードは断言した。
「確かに、人の命は永遠じゃない。いつか必ず別れの時はやって来る。幸せだってそうだ。楽しいことばかりじゃない。辛いことだってたくさんある。でもな、ディアナ。心は永遠なんだ。別れの時が来ても、その人との大切な思い出は、いつも心の中にある。楽しかったことは、ずっと心の中で輝き続ける。」
ジークフリードの赤い瞳がディアナを見つめる。その時、
「敵襲ーッ!!」
永遠を切り裂く声が、響き渡った。
お読みいただき、ありがとうございます。




