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ディアナはふと目を覚ました。真っ暗な闇。何も見えなかった。ここはどこだろうと思ってしばらく歩いてみたが、何も変わらなかった。周囲に広がる、果てしなく続く闇。ディアナは怖くなって、その場にしゃがみ込んだ。ひとり涙を流し、膝を抱えてうずくまる。


ーー怖い。助けて。


すると、右手にほんの僅かな、しかし確かな温もりを感じた。


ーーああ、私はこの温もりを知っている。


ディアナは必死にその温もりにすがった。すると、真っ暗だった世界に一条の光がさした。その光はだんだん広がり、やがてディアナの視界は光でいっぱいになりーー


「ディアナ!!」


気がつくと、目の前には赤い瞳。


「で…んか…?」


ディアナがそう呼ぶと、ジークフリードは泣きそうな顔をした。ふと右手を見ると、ジークフリードの手がディアナの手をしっかりと握っていた。


「よかった…お前がもう目覚めないかと思って俺は…」


ジークフリードのその言葉で、ディアナは自分が置かれている状況を思い出した。


「殿下、どうして…だって私は…宝石を盗んだ罪は…」


身体のあちこちが酷く痛むため、声が途切れ途切れになってしまった。


「喋るな。酷い怪我なんだ。今はまだ休まなきゃダメだ。」


「でも…」


なおも尋ねようとするディアナの頭を、ジークフリードは優しく撫でた。


「いいから休め。何も心配する必要はない。」


宝石の件はどうなったのか聞かなければと思いながらも、ディアナはその優しい手に誘われるようにして、再び眠りについた。


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


ディアナが次に目覚めると、ジークフリードの姿はなかった。代わりにアルフォンスがやってきて、事の顚末をすべて説明してくれた。

ディアナが囚われたと知ってから、ジークフリードとアルフォンスは、あの夜ディアナがジークフリードの部屋を出てから接触した人物を探した。また、宝石があった宝物庫で、服のボタンが見つかったため、その服を着ている人物も、同時に探し始めた。すると、侍女のひとりが、廊下で走るディアナとぶつかる男の姿を目撃していたことがわかった。その男を追っていたが、見つけた時には、すでに殺害されていた。だが、その男の服のボタンはひとつなくなっていて、宝物庫に落ちていたボタンと、その男が着ていた服のボタンが一致したため、犯人と断定された。おそらくは、ベルクヴァイン侯爵に口を封じられたのだろう。ディアナの疑いが晴れたところで、2人は急いでディアナのもとに向かったが、ディアナは酷い怪我と高熱で衰弱し、すでに意識がなかった。そこから治療が施されたが、医師の話によれば、あと数日治療が遅れていたら、危なかったらしい。


話し終えたアルフォンスは、ディアナに言った。


「ベルクヴァイン侯爵から、5年前の真実を聞いたのですね?」


ディアナは頷いた。


「これから先どうするかは、あなた次第です。あなたは、どうしたいのですか?」


真剣な瞳で尋ねるアルフォンスに、ディアナは言葉に迷った。


「私は…」


1度目を閉じる。深く深呼吸をし、そして目を開ける。


「私は、ディアナ・アルムスター。ジークフリード王太子殿下の侍女です。」


その言葉に、アルフォンスは微笑んだ。


「それが、あなたの決めた道なのですね。」


「はい。」


ディアナはしっかりと頷いた。


ーーそう。これは私が選んだ道。


「殿下を、よろしくお願いします。」


アルフォンスは、ディアナに向かって丁寧に礼をした。

お読みいただき、ありがとうございます。

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