絶望の中に響く声
「では、お父様とお母様を殺したのはあなた…」
ベルクヴァイン侯爵の話を聞き終わったディアナは、呆然としながらそう呟いた。なぜだろう。ディアナの心は、目の前の男への怒りよりも、ジークフリードが両親の仇ではなかったことへの安堵でいっぱいだった。しかし、まるでそんなディアナの思考をよんだかのように、ベルクヴァイン侯爵は告げる。
「それは半分正解で、半分はずれだな。」
「…どういうこと?」
ディアナには、侯爵の言葉の意味がわからなかった。
「確かに、ハインミュラー公爵を直接殺したのは私だ。だがな、間接的には殿下…ジークフリードのせいでもあるのだ。別に私は、公爵が失脚すれば、それでよかった。だがあの小僧が、私の動きに気づいてハインミュラーに知らせにいったことで、私は公爵…お前の両親を殺すことを決めた。そうしなければ、私の身の破滅だからな。何もわかっていないくせに首を突っ込んだ、その幼稚さと、なんの力も持たないくせに自分がなんとかしようとする、その傲慢さとが、お前の両親を死に追いやったのだ。」
「そんな身勝手な!!」
気がつくと、ディアナは叫んでいた。安堵でいっぱいだった胸に、怒りの炎が燃えあがった。
「あなたは、自分の権力欲しさに私の両親を殺し、その罪を殿下になすりつけようとしている、ただの卑怯者だ!!そんな身勝手が許されるわけがない!!」
「許されるのだよ。」
しかし、ベルクヴァイン侯爵は落ち着いて答えた。
「この世界は、力こそすべてなのだよ。力ある者が正義。力なき者がいくら理屈を並べてみたところで、誰の心にも届かない。考えてもみろ。愛だの大義だのくだらない。そんなもののために動く人間がどこにいる?人を動かすのに必要なのは、現実的な力だ。金、権力…人はそういった物で動くのだ。」
ディアナは愕然とした。
「では、あなたは…あなたは、力ある者の欲望のために、力なき者が犠牲になることは仕方がないというのか…」
「そうだ。お前の両親には私を止める力がなかった。だから死んだ。それだけだ。もう一度言おう。この世は力こそすべて。」
「そんな…」
ディアナは俯いた。絶望した。力ある者の言葉に反論できない自分に。そうだ、侯爵の言う通り、自分は両親の仇を討てていない。それは自分に力がないから…
「大人になりたまえ。そうすれば、お前にチャンスを与えよう。」
「チャンス…?」
呆然と呟く。
「そうだ。王家の宝を盗んだのは、ジークフリードに脅されたからだと自白しろ。そうすればお前の命は助けてやる。たとえ王太子といえども、成人前の奴は王族としての権限を持たない。財宝を盗むことは大罪だ。ジークフリードが処刑されれば、仇を討つこともできる。そしてその後は、贅沢な暮らしをさせてやろう。お前もかつては持つ者だった。今は持たざる者だがな。お前に、また持つ者に戻るチャンスを与えようというのだ。悪い話ではあるまい?」
ベルクヴァイン侯爵の言葉が頭に響く。私ひとりでは何もできない。力を持つ者にならなければならない。ならばいっそ…
「俺には為すべきことがある。」
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