青い瞳の少女と黒い瞳の青年
「失礼します。本日より殿下のお世話を仰せつかりました、ディアナ・アルムスターと申します。よろしくお願いいたします。」
そう言って、丁寧にお辞儀をした少女の瞳は青空の色。
「ああ。俺がカレンベルク王国王太子のジークフリード・ヴァン・カレンベルクだ。」
返事をした青年の瞳は黒。
ーーちがう。この人ではない。私が探しているのは…
「殿下、大変失礼なことと存じますが、ひとつ質問をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
青空の瞳がまっすぐに黒い瞳を捉える。初対面の、しかも王族に対してあまりにも礼を失した態度ではあるが、青年ージークフリードはそれを咎める気にはなれなかった。それだけの強さを、少女ーディアナの瞳は秘めていた。
「なんだ?」
吸い込まれそうだとジークフリードは思った。そして、すべてを見透かされているのかとも。
「殿下は、赤い瞳を持つ方をご存じでしょうか?私は、その方を探しているのです。」
「…赤い瞳?そのような者は知らん。この城にはいない。」
一瞬答えにつまったが、そんなことはおくびにも出さずに返事をする。
「左様でございますか。突然不躾な質問をしてしまい、申し訳ありませんでした。私はこれで失礼いたします。控えの間におりますので、ご用がございましたらそちらのベルでお呼びください。」
一切表情を変えることなく、ディアナは退出した。
「失礼しますよ……って殿下、何かあったんですか?」
ディアナと入れかわるようにして別の扉から入ってきたのは、アルフォンス・フォン・ドレーゼ。ドレーゼ伯爵家の嫡男であり、ジークフリードの側近でもある青年。幼少の頃からの親友でもあり、ジークフリードが心を許せる数少ない人間のひとりだ。
「新しく来た侍女…」
「ああ。そう言えば、今日から新しい侍女が入ったんでしたっけ。その侍女に何か問題でも?」
「彼女だ。」
「はっ?」
主の言葉の意味がわからず、アルフォンスは間の抜けた返事をした。それを気にすることもなく、ジークフリードは言葉を続ける。
「5年前の、あの時の少女だ。」
「……!では、ハインミュラー家の…」
「ああ。今は孤児院の性をもらって、名前も変えて、ディアナ・アルムスターと名乗っているがな。」
「しかし、青い瞳の少女など別に珍しいものではありません。見間違いでは?」
近隣諸国との交流が活発なカレンベルク王国には、様々な人種が暮らしている。黒髪黒目の人の割合が最も高いものの、ディアナのように金髪に青い瞳を持つ者も決して珍しくはなかった。アルフォンスなどは髪も瞳も緑色である。
「確かに、金髪に青い瞳は珍しくはない。だが、あれだけまっすぐな瞳を持つ者はそうはいない。間違いない。あれはあの時の少女だ。」
ジークフリードは断言した。
「それにな。彼女は俺にこう聞いてきた。赤い瞳を持つ者を知っているかとな。」
「……!それは…!殿下、まさか…」
「そう慌てるな。もちろん知らんと答えたさ。そんなやつはこの城にはいないとな。」
ジークフリードの言葉に、アルフォンスはホッと胸をなでおろした。
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