少年たちの決意と遠い日の幸せ
「ハインミュラー公爵に横領の疑い?」
王太子であるジークフリードは、アルフォンスからの報告を受けていた。
「はい。ベルクヴァイン侯爵が陛下に進言したそうです。侯爵は、国家の財産を不正に自らのものとした罪は重いとして、厳罰に処すそうです。すでに陛下に、この件に関して一任されているという噂もございます。」
「バカな!公爵が罪を犯したという証拠がどこにあるのだ!」
「陛下は、ベルクヴァイン侯爵の言いなりですから。」
アルフォンスの言葉に、ジークフリードは唇を噛んだ。まだ自分には、侯爵を止めるだけの力がない。それは充分に理解していた。しかし、何もできない自分が、どうしようもなく悔しかった。
「アルフォンス、ハインミュラー公爵のところに行くぞ。」
「はっ?」
「俺から陛下に進言しても無視されるだろう。残念ながら、ベルクヴァイン侯爵がハインミュラー公爵を処断するのは止められない。しかも、侯爵のことだ。これを機に、ハインミュラー公爵家に攻め入って、公爵を殺すつもりだろう。だが、公爵はこの国に必要な方だ。だから、秘密裏に公爵に会って、逃げるように促す。俺が成人してベルクヴァイン侯爵を処断したら、戻ってきてもらえるように。」
そう言ったジークフリードを見て、アルフォンスは頷いた。
「わかりました。私もお供いたします。公爵は、今日はご息女の誕生日で出掛けると言っておいででした。人目を避けるためにも、訪ねるのは夜がいいかと。」
「よし。では今日の夜行くぞ。」
「はい。」
ハインミュラー公爵の命を何としても助けなければならない。2人の決意は固かった。
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ーーガタン。
馬車の揺れる音で、シャルロッテは目を覚ました。お母様の膝の上で、少し眠ってしまったらしい。
「あらあら、起きてしまいましたね、シャルロッテ。」
そう言って、アレクサンドラは微笑んだ。
今日はシャルロッテの誕生日。ハインミュラー公爵は、「とびきりのプレゼントを用意した」と言って、シャルロッテを馬車に乗せた。しかし、しばらく馬車に揺られているうちに、シャルロッテは飽きてしまった。
「お父様、まだ?」
「もう少しだよ。」
そう答えて、シャルロッテの頭を撫でる。シャルロッテも嬉しそうに笑った。
「さあ、着いたよ。」
そう言うと、公爵はシャルロッテを抱きあげて馬車から降りた。
「わぁ…!」
馬車から降りたシャルロッテの目の前に広がったのは、辺り一面に広がる青紫色の花。
「お父様とお母様から、シャルロッテに誕生日のプレゼントだ。」
この辺り一帯は、公爵家の領地であり、そこに公爵夫妻が花を植えたのだ。
「気にいったかい?」
そう尋ねる公爵に、シャルロッテは満面の笑顔で頷いた。
「すごく。ありがとう、お父様、お母様。」
「この花には素敵な花言葉があるのだけれど…シャルロッテにはまだ早いかしら。」
そう言ったアレクサンドラに、シャルロッテは口を尖らせる。
「ええ〜。教えてください、お母様。」
「シャルロッテがもう少し大人になったらね。」
そう言ってみんなで笑う。シャルロッテは、いつか教えてもらえると信じていた。その日がやってくることは、永遠にないとも知らずに。
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