真実のはじまり
冷たい牢の中で、ディアナはひとりぼんやりしていた。頭がひどく重い。
自分の服のポケットから王家の宝だという宝石が出てきた時は驚いた。もちろんディアナは盗んでいない。なぜ、と思った。しかしすぐにどうでもよくなった。王家の宝を盗むなどという重罪人は、きっと死刑になるだろう。それでよいのではないか。自分には、殿下は殺せない。私は、両親の仇を愛してしまったのだ。でも、そんなことが許されるはずはない。ならば、いっそいなくなってしまえばいい。両親の仇も討てず、殿下にもバレてしまった以上、この世界に自分の居場所などどこにもないのだから。
その時、急に声をかけられた。
「牢の居心地はどうかね、ディアナ・アルムスター…いや、シャルロッテ・フォン・ハインミュラー?」
いつの間に来ていたのか。声に顔をあげれば、そこにはベルクヴァイン侯爵がいた。
「貴様も知ったのであろう?殿下が、5年前の赤い瞳の少年であることを。」
「5年前のことを知っている…やはり、あなたもあの事件に関わっていたのですか、ベルクヴァイン侯爵?」
裏庭での密談を見た時から、なんとなくこの人も関係あるのかもしれないと思っていた。
「ああ、そうだとも。貴様は5年前の真実を知りたいのであろう?私が教えてやろう。」
ディアナはその言葉に驚愕した。
「なぜです?あなたにとって、5年前の事件の生き残りである私に真実を教えることは、なんの得にもならないはず。」
そう言うと、侯爵はニヤリと笑った。残酷な笑みだった。
「なに、貴様にも知る権利があると思っただけさ。どうせこのままいけば、貴様は重罪人として処刑される。だが、貴様にもチャンスをくれてやろう。どうかね?」
ディアナはしばらく迷った。ジークフリードが両親を殺したという事実を、他人の口から聞くのが怖かったのだ。だが、それでも知らなければならないと思った。
「聞きます。教えてください。」
「よかろう。」
そう言って始まった侯爵の話は、ディアナに何をもたらすのかーー
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5年前、まだ王国には公爵家がいくつか存在していた。その中でも筆頭であったのは、ハインミュラー家である。当時のハインミュラー公爵は、国王フリードリヒの従姉妹アレクサンドラを妻に迎えており、宰相の地位にあった。公明正大な人柄で知られており、民からも慕われていた。
公爵と妻であるアレクサンドラ夫人は、政略結婚ながらも非常に仲睦まじく、2人の間には、美しい金髪に青空の瞳をもつ娘がいた。
ーーその名を、シャルロッテ・フォン・ハインミュラーという。
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