背負う覚悟と向き合う決意
「そんなばかなっ!!」
朝、実家から戻って出仕したアルフォンスから、ディアナが王家の宝を盗んだ疑いをかけられて騎士に連行されたことを聞いたジークフリードは、拳で机をバンッと叩いた。途端に手に痛みがはしる。昨夜ナイフを握ったのだから当然か。
「本当です。しかもディアナの服のポケットからその宝石が見つかったとか。騎士たちは、ディアナひとりでは盗めないと考えているようで、多少痛い目を見させてでも、協力者の名をはかせてやると言っていました。」
「くそっ…ディアナは昨夜俺と話していたんだ。宝石を盗めるはずがない。」
「殿下、話とはまさか…」
「ああ。俺が5年前の男だと気づいたらしい。ナイフを持ってきて…でも俺のことを刺さなかったよ。」
「そうでしたか。それで…」
いったん言葉をきったアルフォンスは、真剣な顔でジークフリードに尋ねた。
「お前はこれからどうするんだ、ジーク?お前の気持ちに俺が気づいていないとでも思ったか?」
その瞳は、ジークフリードの覚悟を問う瞳。かつて自分が傷つけた者を愛しく思うこと。それがどれだけ自分を苦しめるか。
「お前だけじゃないだろうさ。ディアナだって、おそらくお前に惹かれはじめていたんだ。」
憎んでいた者を大切に思うこと。それがどれだけ自分の心を責め、負担をかけるのか。
「お前には、お前自身の苦しさとディアナの…シャルロッテの哀しみとを背負う覚悟があるか?」
アルフォンスの言葉が終わると、しばらくの間執務室を沈黙が支配した。目を閉じて考えていたジークフリードは、やがてゆっくりと目を開けた。
「答えは決まっている。そうだな、俺はずっとディアナから逃げてたんだ。彼女が俺を拒絶するのを恐れて。」
守るためなんてもっともらしい理由をつけながらも、どこかでディアナが5年前の真実を知ることを恐れていた。知ったら、もう二度と自分に笑顔を向けてくれない気がして。3か月という時間は、彼女を愛しく思うには充分だった。
「たとえ今彼女を哀しませているのが俺なんだとしても、いつか俺が絶対にディアナを…シャルロッテを幸せにする。そのためなら、俺はどんなに苦しくてもいい。」
その瞳に宿るのは、断固たる決意と覚悟。そんなジークフリードを見て、アルフォンスは頷いた。
「やっとディアナと向き合う覚悟ができたか。ジーク、俺は今ディアナを哀しませているのはお前だが、あの子を幸せにできるのもお前だけだと思うよ。」
そう言うと、アルフォンスは表情を引き締めた。
「殿下、これはあくまで私の考えですが…今回のことを仕組んだのは、ベルクヴァイン侯爵でしょう。おそらく侯爵は、多少拷問してでも、ディアナに協力者が殿下であると言わせるつもりです。」
「そして、俺とディアナとをまとめて葬り去るつもりか…まずはディアナが犯人でない証拠を探す必要があるな。」
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