二人の距離
昼休みも終わり私たちは教室へと戻る。
水内さんは忠告してきた。
神田くんにあまり関わらない方がいいと。
って、言われてもなぁ。
席、隣だしなぁ。
横目でちらりと見ると相変わらず外をぼんやり見ている。眠そうにまなじりを下げて、何を考えているのかわからない。
いや、わからなくていいんだ。
私はこのクラスに馴染まないといけない。
別にいじめられているわけでもないなら、神田くんがここのタブーだというなら、私はそれに従うだけだ。
そう割り切ってしまえば、一日は自然に過ぎて行った。
放課後になれば、すぐに神田くんは帰ってしまったし、神田くんのいない教室には穏やかな空気が流れだす。
水内さんが数人の女子を連れてきて紹介してくれ、ちょっとした雑談で盛り上がる。
午前中のように避けられるような素振りはもう無かった。
すっかり遅くなり、日が沈みだした帰宅路の中、自分から延びる影が自分の背を越して長く道を進んでいく。
歩く動作に合わせて進む。
ついてくるもう一人の自分。
「なんてね」
何だか感傷的な気分になる。
まったく知らない土地に来たんだから仕方ないかな。
影ばかりを見ていた顔を上げると向かいから見知った姿が歩いてくる。
彼は、相変わらずの顔でただ正面を見て歩いてくるだけ。
呼吸が、おかしくなってくる。
彼には関わらない方がいい。
友達がね。入院したんだ。
かえせ!
頭の中で警鐘が鳴り響く。
何でここにいるんだろう。神田くんはとっくの前に学校を出たはず。
自分と同じように、学校に実はまだいた?
それなら逆方向から向かってくるのはおかしい。
ごちゃごちゃ色んな考えが頭を駆け抜けていく。そうした中でも私たちの距離はどんどん近づいていく。
彼はずっとこちらを見ている。
私を通り過ぎて、その先を見ている。
何を見ているの?
誰かいるの?
そんなはずない。私の過剰な恐怖心がそうさせているだけ。
私は目を閉じて、最後の一歩を踏み出した。
私たちの距離はゼロになる。
そのまま立ちすくみ、恐る恐る目をあけるとその先に誰もおらず、後ろから遠ざかる足音がする。
振り返ると、気だるげに歩く神田くんの後姿があった。
……何でもないじゃない。
馬鹿みたい。
周りは恐ろしい化け物のように扱うけど、小さくなっていく彼の姿に、彼も人間なんだと今更ながら確信する。
そう思うとみんなと同調して、建てた彼と私の間の壁がとても格好悪いものに感じてくる。
私は彼にとても悪いことをしようとしているのではないだろうか。
あんな空気の中じゃあ真っ先に帰るのも当たり前じゃないか。
でも……彼は帰っていなかった?
彼が寄り道をするような、興味のあるものがあるんだろうか?