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第三十六話 こういう事もある、らしい

 思いの外、攻略は順調だった。


 『雲隠れ』の魔法薬は予想よりも効いていて、魔物との遭遇がほとんどない。

 例え遭遇したとしても、こちらに気付かずに素通りしていく。凄くね? 俺の力作凄くね? もはや商品化が夢じゃないレベル。いや、しないけどね。


 とにかく、危なげなく森の中を進むことが出来ていた。

 だが森に入ってから二時間ほど経っただろうか、秋人がこんなことを言い出した。


「危険区域で一度も戦闘がないっていうのも、何か期待はずれな気分だな」


 全くとんでもねぇ野郎だなこいつは。ホントに一年生かよと疑いたくなるし、そもそも何を期待してんだよって話だ。


「何でだよ。戦闘がない方がスムーズでいいだろ?」


「それはそうだけど、多少の戦いを経験して連携や戦術の確認とイメージを付けておかないと、いきなり目的の『牛鬼』と戦闘になったとき上手く動けるのかって話だよ」


 なるほど、一理ある。

 俺と秋人、イメルダ、ラルフの四人はともかく、タチバナはこのメンバーと組むのは始めてだ。

 日数の都合上、実践的なチームの連携練習が上手く出来ていなかったのも事実だし。

 秋人の言う通り、そこらの弱い魔物を相手にチーム戦闘の練習でもしておくべきかもしれないな。


 とはいえ、ね。


 危険区域とまで言われるこの森にそんな弱い魔物がいるかという話だよ。

 お手頃な奴、と見渡してみても目に入るのは何かと禍々しいものばかり。

 どいつもこいつも戦えばタダで済みそうにないような魔物たちだった。

 本命の『牛鬼』を狩る前に疲弊したら洒落にならんのだがな。只でさえ、目的の場所は森の奥で、移動にかなりの体力を消費するというに。


 知ってるだろ?


 ―――俺……、


 ―――体力……、


 ―――無いんだよ……!!


 だからなるべく面倒事は避けたい。

 とか思ってたんだが、


「あ、あそこに人型っぽい魔物ならいるけど」


 秋人の話を聞いてたのだろう。イメルダの奴が隊列の左50メートルほどの距離に一体の魔物を見つけた。

 2メートルくらいの、黒い影。ガタイが良いのは分かるが、距離があってイマイチ姿がよく分からない。


「あれって、『鬼人』?」


 視力の良いらしいタチバナが真っ先にその正体を口にすると、寒気がした。


 ……………は? 『鬼人』?


 そんなのまでいるのか此処!?


「まあ、やってみても良いけどね」


「ちょっと待て!!」


 乗り気な秋人に被せるように待ったを掛ける俺。


「『鬼人』なんて相手に出来るか!!」


 他の魔物と違って知性と戦闘能力が別格に高く、危険度で言うなら知性の劣る『牛鬼』よりも上だ。


 戦術の勝負では人間にも勝ると言われているのが『鬼人』であり、暴れることしか脳のない魔物の統率までやってのける。


 まさに魔物たちのボス。


 そんな化物を相手に出来る訳がねぇ。

 危険度で言えば災害級―――国に甚大な被害を与えかねない存在。

 魔法使いなら魔法騎士数人と魔法騎士長クラスがいてようやく相手できるようなレベル。


 マジ何でここにいるの?


 上級生用の演習場だからとかの理由でいて良い奴じゃないよね?


「とか言ってる間に、こっち向かってきてね?」


 秋人の言葉に俺が騒いでると、今度はラルフがそう呟いた。


「げ!? おい、逃げるぞ!!」


「必要ないよ」


「馬鹿言うなら秋人! いくらお前でも勝てる訳がねぇ!!」


「いや、そうじゃなくて………」


 秋人は余裕を崩さないまま言った。


「あの『鬼人』は、ここの管理者だ」


 …………………………………はい?


 俺が固まって疑問符を浮かべていると、頭に角を生やした褐色の肌の大男―――『鬼人』がすでに目の前まで来ていた。


「お久し振りです、秋人様……」


「やあ、斉玄さいげん。よく俺たちの気配に気付いたな。『雲隠れ』の魔法薬で魔物からはほとんど認識されないはずだが」


「ええ、私も始めは気づきませんでしたよ。驚きです。これほど精度の高い認識阻害はなかなかお目に掛かれない」


 突然始まった二人の会話に、俺は勿論のこと他の皆も唖然としたまま固まり、全く話についていけない。何? どうなってんだ?


「それより、秋人様が何故ここに?」


「学園の課題、みたいなものだ。俺には気にせず、見回りに戻ってくれて構わないよ」


「そういうことなら、そうさせてもらいますが。ここの魔物は些か血の気が多いので、お気をつけて進み下さい」


「分かってるよ。忠告どうも」


 会話の後、一礼をして去っていく斉玄とかいう『鬼人』。めっちゃ礼儀正しいやん。まさに紳士。

 …………………………………鬼だけど


「なぁ秋人、どゆこと?」


 俺がすかさず訊ねると、当の本人はどうということはないと言うように、


「ただの知り合いだよ」


 と、答えになってない答えを返してきた。


「いや、何で魔物のはずの『鬼人』とお前が知り合いで、しかもここの管理者なんだよ」


 さすがに皆も驚いたのか、唖然とする中でラルフが代表して声をあげた。


「まあ、魔物の中には人と同じレベルの知性を持った話の通じる奴もいるってことだな。大人の事情も絡んでるからいろいろと複雑だけど、今は「こういう事もあるんだ」くらいで考えといた方が面倒くさくなくて良いと思うよ」


 どうやら、秋人も詳しく語るつもりはないらしい。

 しかし、こういう事もある、か。


 ………………………いや、どういうことだよ。


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