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第三話 覚悟?そんなの知らん

 なんで、こんなことに……、

 姉貴の執務室を出た俺は、激しく項垂れていた。


「あ、あの、カイトウ君?」


 そんな俺へ、タチバナが遠慮がちに話しかけてくる。ジトリと睨むような目を向けて、俺は投げやりに言った。


「………君付けはやめろ、呼び捨てでいいから」


「あ、うん、じゃあコウジ」


「………」


 呼び捨てでいいと言ったのは、名前で呼べという意味じゃない。含みなく、普通にファミリーネームのことだ。


「……コウジ?」


 その呼び方だとどうも姉貴を思い出して、背筋がゾクゾクする。


「まあ、そんなに落ち込まなくても………魔法の成績が良くなると思えばラッキーじゃない?」


「ラッキーじゃない……」


 俺はオウム返しに否定する。


「魔法の成績が上がったところで嬉しくもないし……そもそもお前……俺の魔法の成績知ってるのか?」


 嫌味っぽく問い掛けてみるが、タチバナは大して気にすることはなく、思い出すように指を頭に当てて答えを引き出す。


「実習は毎日のようにサボり、魔法学の授業は基本居眠り………にもかかわらず、魔法の実技、筆記の試験は五百人いる学年で五十番内を常にキープしている謎の人……」


「最後のなんだよ。誰が謎の人だ……」


 ちなみに、他の一般科目は真面目に受けていて、常に学年十位以内。俺はどちらかといえば勉強が好きな方なのだ。

 魔法に至っては、単に興味がないだけで、試験の前はある程度の予習復習はしている。

 でも、授業は聞かない。

 誰だって、興味の無いものにやる気など出さない。絵に興味の無い人間が、自分から描こうとしない、それと同じだ。

 試験である程度の点が取れればいい。


「だから、ぶっちゃけ俺は無理して魔法を学ぶ必要ないし、学びたいとも思わない」


 たぶん、こういうところが周りの連中から敵意を買う原因となっているんだろうが。


「なんか、ひねてるね」


「ほっとけ」


「でも、いくら成績が良くたって、上には上がいるよ」


「………あんたみたいな奴か?」


「…あれ? わたしの成績言ったっけ? あなたの場合、張り出される五十番内の成績を他人の部分まで見てるとは思えないけど」


「むしろ自分の部分も見てないけどな。手渡しで渡される順位表見れば良いだけだし」


 タチバナの目がそこはかとなく呆れを見せた。

 順位表を貰って五十番以内に入っていれば、何となく他の生徒の順位と比べたがって学年五十番内の貼り出された成績を見に行く……………気持ちは分からないでもない。

 だが、魔法の成績を比べることに興味がなければ、魔法に興味がない。というか比べる友達もいない俺がそんなものを見に行って何になるんだ、と言いたい。


「俺に普通に話し掛けてくる奴なんて、大概は俺より成績が良い。成績が悪い奴は妬みの眼差しを向けてくる。まあ、成績が良い奴でも無視してくる奴の方が多いけど………」


「………なんか、凄く悲しい推理だね。それで成績予測されてるわたしがちょっと泣けてくるよ……」


「……ちなみにあんたの順位は?」


「第二学年進級時の試験では総合で三位だった」


「………そりゃすげぇ」


 優等生か、まあ見るからに真面目そうだ、などと俺が考えていたら、


「コウジは見るからに不良だよね。その歳で……」


「誰が不良だ。魔法以外の授業は真面目にやってるんだから、魔法学園じゃなけりゃ俺は優等生だぞ」


「本質的に、優等生は興味がない、なんて理由で授業はサボらないんしゃない?」


「………」


 グーの音も出なかった。

 優等生に口で勝とうとする時点で間違いだったか。


 まあ、どちらにせよこんなところで逃げの言い訳並べてみても、後ろに下がったら地獄の門番につまみ上げられるんだ。

 前に進む他ない。


 …………踏み出せ………勇気の一歩。


 なんかのキャッチコピーみたいなことを胸に、俺は悪夢の中へとダイブする覚悟を決めた。


「で? クレリア先輩はどこにいるんだ?」


 タチバナに聞いてみると、少し考えるような仕草を見せたが、すぐに答えてくれた。


「この時間だと、たぶんまだ学校の方だと思うよ」


 ああ、そういえばあの人は第五学年だったな。にも関わらず、すでに騎士長の資格を持っている。騎士長っていったら国に………、え~っと何人だ? 確か二十人くらいだったような…………んで、騎士長より上の階級は国の頂点に立つ最強騎士団長だけ。つまり騎士団長は二十人より少ないよな、たぶんだけど。

 あっれ~、てことはクレリア先輩って、少なくともレイバ国の魔法使いで上位四十人には入ってるよね。そんな人の元で修行? 何それ、俺に死ねって言ってるの? そんなに俺が目障りなのお姉様?


 ガクガクと身を震わせた俺を見て、タチバナが不思議そうに首を捻っている。


「なぁ、タチバナ……」


「何? あ、コウジもわたしのことはレーナでいいよ?」


 いや、呼ばねぇけど。女の子のことをファーストネームでとか呼べねぇし、恥ずかしい。

 そんなことより、


「クレリア先輩が師匠って………どんな感じ?」


「え? うーん………生かさず殺さずギリギリの修行をさせてくるから、結構厳しいかな……」


 逃げてぇ、マジ逃げてぇ。

 わかってます。逃げ場はないんです、はい。俺の背後には閻魔様がいるからね。判決が地獄行きだった時点で予測してたけど。

 地獄が始まる前からもう嫌になってきた。


「ちなみに先生は、戦場では《竜皇》の通り名で知られてるから、時期騎士団長とかも言われてるよ」


 タチバナが自慢げに言う。

 やめて、これ以上、俺が逃げ出す理由を作らないで。マジで逃亡するぞ。国外逃亡しか選択肢が残されていないけど、それもやむ無しで全力疾走する自信がある。

 覚悟なんて全然決まってなかったです。


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