第三十五話 緊張? 何それ?
さて、危険区域への扉を開くその前に。
「じゃあ皆、昨日配った『雲隠れ』の魔法薬を飲んでくれ」
「りょーかーい」
返事をすると、小さな小瓶に入った魔法薬を、こくり、と一飲みしたタチバナ。
おい、お前そんな簡単でいいのか。訳分からん薬飲むんだからもっと躊躇えよ。
………………作ったの俺だけど。
「どうだ? 」
「意外とおいしい……」
「味の感想は求めてねぇよ」
この場合、何か効いてきた、とかだろ普通。
「そいえば、これ速効性のあるものなのか?」
今さらだが、秋人が訊いてきた。
「一応はな。何せ魔物対策に求められる魔法薬だし、飲めばすぐ効果が表れるはずなんだが…………」
「何か変わった感じはないけど………」
同じく服用したらしいイメルダも、これといって身体に反応はないらしい。
何か、効果あるのか急に不安になってきた。
「まあ、取りあえずこれで行くしかないな。魔物対策の物なんだから、中に入れば分かるだろうし………」
「確かに……」
言いながら秋人とラルフも普通に『雲隠れ』を飲んだ。
「お前ら、よくそんな簡単に飲むよな。俺が作ったような薬………」
「コウジさんが作った物だから、飲めるんだろ」
「右に同じく」
「それに、タチバナさんがあんなにすんなり飲んだのに、旧知の私たちが躊躇うのもおかしな話だしね………」
秋人も、ラルフも、イメルダも、ホントに変わってるよなこいつら。何を根拠に俺の作った魔法薬を信頼してんのやら。
まあ、戸惑われても面倒だから、良いんだけどよ。
あ、俺もさっさと飲んじまうか。
「ん、思ってたより味が良い……」
「でしょ?」
奇しくもタチバナと同じ感想が出てしまったが、それは置いといて、確かにこれだけじゃ何か変わったとかはないな。
調合は間違えてねぇはずだけど。
「よし、改めて行くか」
ようやく演習場へ続く扉を開いて、俺たちは魔物が闊歩するの危険区域の中へと入った。
薄暗い森林。
入るのは今日で三回目だが、この不気味な雰囲気だけは慣れねぇもんだな。
「ここが演習場………」
「何か魔力の気配が異様に濃いな……」
今日が始めてのイメルダとラルフは、物珍しそうに辺りを見回している。
「さっさとしねぇと、帰りの時間が遅くなりそうだし、早く行くぞ」
「うん」
「りょーかい」
俺たちは五人組。
魔法戦闘における基本チームと同じ人数だ。
一本のラインをつくるような陣形で行う集団魔法戦闘は、移動時も基本的に一列になって進む。
ちなみに順番は《トップ・アタッカー》の俺→《ハーフ・アタッカー》ラルフ→《サイド・ガード》タチバナ→《エンド・ガード》イメルダ→《シャドー》秋人。
戦いが始まれば、列の一番後ろは基本的にチームを守る司令塔である《エンド・ガード》になるのだが、移動の際は背後からの奇襲にも対応するため、オールラウンドに動ける《シャドー》が最後尾を務めることになる。
まあ、秋人なら普通にアタッカー並みの戦闘力があるし大丈夫だろうけど、一番怖いのはやはり背後から襲われることだよな。
森では強い魔物はもちろん、単体の力は弱くとも頭の良い魔物というのもいる。
何が起こるか分からないのが魔法戦闘の醍醐味というのは、再三に渡って言っているが、どれだけ用心しても予想外の事態ってやつが必ずあるだろう。
それにきちんと対処出来るかが魔法演習の肝何だが…………、
「あー、やっぱ早起きすると寝みーなぁ」
「私はちょっとお腹すいてきた。時間なくて朝ご飯あんまり食べなかったから」
「あ、私お菓子持ってるから、ギドさんもどうぞ」
「おー、ありがとう!」
ラルフもイメルダも、タチバナまでも、緊張感ってのがまるでねぇ!!
「お前ら、ピクニックに来てんじゃねぇぞ!」
「あ、コウジも食べる?」
聞いてねぇし。
それとなくこっちにスナック菓子の袋を回してくんなよタチバナ。
先頭を歩く俺が進路から目を離す訳にはいかねぇんだから。
「まあ、あんまり緊張し過ぎて力を出せないよりは、良いと思うけど」
秋人は警戒を怠っていないようだが、別段こいつらに指摘点はないらしい。
ちょっとポジティブ過ぎない?
いいのか? こんなんで。
「おっ! 『枯葉花』! こんな希少なもんがこんなところに!!」
やべぇ!! すげぇ!! 始めてみた!!!
綺麗に咲いた赤い花と対照的な茶色く枯れた葉っぱの魔法植物は、ランクAの価値がついてる超貴重な植物だ。
まさかこの演習場で採れるとは!!
もう隊列なんて知るか! 俺は採りに行く!
「コウジさんも緊張感とは程遠いみたいだな」
後ろで何か聞こえたが、気にしないことにしよう。今は目の前のこれが大事。
そんな調子で、俺たちの課題攻略は始まった。




